2024年10月30日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0170~

論文のタイトル: Azobenzene-Substituted Triptycenes: Understanding the Exciton Coupling of Molecular Switches in Close Proximity(アゾベンゼン置換トリプチセン:近接した分子スイッチのエキシトン結合の理解)

著者: Anne Kunz, Nils Oberhof, Frederik Scherz, Leon Martins, Andreas Dreuw, Hermann A. Wegner

雑誌: Chemistry - A European Journal

巻: Volume28, Issue38, e202200972

出版年: 2022年


背景

1: 研究の背景(アゾベンゼンの多様な応用)

アゾベンゼン(AB)は従来の染料としての用途を超えて多機能化

エネルギー・情報貯蔵、有機触媒、光生物学、分子機械など広範な応用

E-Z異性化による大きな構造変化が応用の鍵

光、熱、電気化学、機械的刺激による異性化が可能


2: 研究課題(複数のフォトスイッチの相互作用)

複数のフォトスイッチを1分子内に組み込む際の課題

直接共役していなくても近接したフォトクロミック部位は相互影響

環状システムでは異性化による大きな構造変化が他の部位に影響

空間を介したエネルギー移動の影響は距離に依存


3: 研究目的(トリプチセン骨格を用いた研究設計)

sp3中心で電子的に分離されたAB単位の相互作用を調査

トリプチセン骨格にAB単位を1-3個導入した化合物を設計・合成

異性化挙動とエキシトン結合効果を実験的・計算科学的に解明

複数のフォトスイッチを1分子に組み込む際の新しい設計パラメータの提供


方法

1: 合成方法(アゾベンゼン-トリプチセンの合成)

市販のトリプチセン(1)から出発

ニトロ化、還元、Baeyer-Mills カップリングを経て目的物を合成

ニトロ化条件を最適化し、所望の置換パターンを達成

アミノトリプチセン(7-11)とニトロソベンゼンのカップリングで目的物(12-16)を合成


結果

1: 化合物の特徴(合成した化合物の構造的特徴)

メタ位置に1-3個のAB単位を導入したトリプチセン誘導体(12-16)を合成

化合物14はキラルで、エナンチオマー混合物として得られた

トリプチセン骨格によりAB単位は空間的に近接しているが電子的に分離

メタ置換パターンにより直接のπ共役は最小限に抑制


2: 光異性化挙動(UV/Vis分光法による異性化挙動の観察)

アセトニトリル中でUV/Vis分光法により光異性化を追跡

親AB分子と比較して、π→π*遷移が若干長波長シフト(約340 nm)

365 nmの光照射によりπ→π*遷移の吸収極大が減少(EZ異性化)

448 nmの光照射によりZE逆異性化を確認

1H NMR分光法でも異性化を追跡し、すべての可能な異性体を検出


3: 異性体組成分析(光定常状態(PSS)の異性体組成)

HPLCを用いて各化合物のPSS組成を決定

365 nm照射後、ほとんどの化合物で80%以上のZ異性体を達成

化合物15のみZ異性体69%と低く、立体障害の影響が示唆される

可視光照射により約80%のE異性体へ戻すことが可能

70℃加熱でほぼ100%E異性体へ戻すことが可能


考察

1: 計算科学的解析(エキシトン結合効果の理論的考察)

時間依存密度汎関数理論(TDDFT)を用いて励起状態を計算

n→π*遷移は各AB単位に局在化し、ほぼ影響を受けない

π→π*遷移は顕著なエキシトン結合効果を示す

AB単位の数と配置によりエキシトン結合の様式が変化

分子の対称性を反映したエキシトン結合パターンを観察


2: エキシトン結合の影響(置換パターンによるスペクトル変化)

2つのAB単位が平行な場合(13)、π→π*遷移の赤方・青方シフトを観察

2つのAB単位が反対側にある場合(14)、エキシトン結合は減少

3つのAB単位がC3v対称の場合(15)、2つの縮退状態と1つの非縮退状態を観察

3つのAB単位がCs対称の場合(16)、3つの非縮退状態を観察

理論計算結果は実験的に観察されたスペクトル変化と一致


3: 研究の意義(複数のフォトスイッチ設計への示唆)

sp3中心で分離されたAB単位でもエキシトン結合効果が存在することを実証

分子の対称性がエキシトン結合パターンに大きく影響することを解明

n→π*遷移は影響を受けにくく、π→π*遷移が主にエキシトン結合の影響を受ける

複数のフォトスイッチを1分子に導入する際の新しい設計指針を提供


4: 研究の限界と今後の展望

キラルな化合物14のエナンチオマー比は未検討

エキシトン結合効果と光異性化効率の関係性の詳細な解明が必要

異なる骨格や置換パターンでの検証が望まれる

理論計算と実験結果の更なる対応付けが求められる


結論

トリプチセン骨格を用いてsp3中心で分離されたAB単位の相互作用を解明

すべての化合物で効率的な光異性化を確認

エキシトン結合効果が分子の対称性に依存することを実証

複数のフォトスイッチを組み込んだ分子設計に新しい指針を提供


将来の展望

エネルギー・情報貯蔵、分子機械などへの応用が期待される

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