論文のタイトル: Closed-loop recycling of plastics enabled by dynamic covalent diketoenamine bonds(動的共有ジケトエナミン結合による閉ループプラスチックリサイクルの実現)
著者: Peter R. Christensen, Angelique M. Scheuermann, Kathryn E. Loeffler and Brett A. Helms *
雑誌: Nature Chemistry
巻: Vol. 11, pages442–448
出版年: 2019年
背景
1: プラスチックリサイクルの課題
従来のプラスチックは不可逆的な結合形成反応で合成
元のモノマーを高純度で回収するのが困難かつコスト高
リサイクルされたプラスチックは残留不純物や劣化により低価値
持続可能な代替プラスチックの開発が急務
2: 動的共有結合ポリマーの可能性
動的共有結合を利用したポリマー設計が注目
結合交換により理論上はリサイクル可能
しかし、エネルギー効率の良い脱重合と分離の例は稀
再利用可能なモノマーの回収は依然として課題
3: 研究目的
動的共有ジケトエナミン結合を利用した新規ポリマーの開発
容易な脱重合と分離を可能にする材料設計
添加物に対する高い許容性を持つポリマーの実現
混合プラスチック廃棄物からのモノマー回収
クローズドループでのリサイクルプロセスの確立
方法
1: PDKポリマーの合成
β-トリケトンとアミンの縮合重合反応によりPDKを合成
ボールミル法を用いた無溶媒合成プロセスを開発
TRENや各種ジアミンを用いて多様なPDKネットワークを形成
反応時間や配合比を調整し、ネットワーク密度を制御
2: PDKの脱重合と分離
強酸性水溶液(0.5-5.0 M H2SO4)中で室温脱重合
塩基性水溶液での抽出により純粋なトリケトンを回収
酸性化により再沈殿させモノマーを単離
イオン交換樹脂を用いてアミンモノマーを回収
3: リサイクル性評価
着色剤や難燃剤を含むPDKの脱重合と分離を検証
混合プラスチック廃棄物からのPDK選択的回収を試験
繊維強化複合材料からの繊維、樹脂、難燃剤の分離を評価
回収モノマーを用いた再重合と物性評価を実施
結果
1: PDKの合成と物性
ボールミル法により高Tg(>120℃)、高ゲル分率(>95%)のPDKを合成
反応時間と配合比により、再現性よくネットワーク密度を制御可能
貯蔵弾性率は0.3〜1.8 GPaの範囲で調整可能
線状ポリマーの導入により靭性を向上
2: PDKの脱重合と分離
5.0 M H2SO4中、室温12時間で完全脱重合
トリケトンとアミンモノマーを>90%の収率で回収
一般的プラスチック(PET、PA、PE、PP、PVCなど)は同条件で分解せず
着色剤、難燃剤、繊維などの添加物を含むPDKも効率的に分離可能
3: クローズドループリサイクル
回収モノマーから元のPDKと同等の物性を持つポリマーを再合成
モノマー組成を変更し、異なる物性を持つPDKへの再利用も可能
繊維強化複合材料から繊維、樹脂、難燃剤を個別に回収
添加物を含む混合プラスチック廃棄物からPDKを選択的に回収
考察
1: PDKの優位性
従来のプラスチックと比較し、容易な脱重合と分離が可能
添加物に対する高い許容性により、複合材料のリサイクルに適する
混合プラスチック廃棄物からの選択的回収が可能
回収モノマーの純度が高く、即時再利用が可能
2: PDKの特徴的な化学
ジケトエナミン結合の動的特性が鍵
酸触媒加水分解に対する安定性と脱重合のバランスを実現
アリファティック・アロマティック両アミンとの結合形成が可能
低い活性化エネルギーで結合交換反応が進行
3: 研究の限界点
長期使用時の安定性や耐久性の評価が必要
大規模生産・リサイクルプロセスの確立が課題
経済性や環境負荷の詳細な分析が今後必要
既存のプラスチック産業との互換性の検討が必要
結論
PDKは容易な脱重合と高純度モノマー回収を実現
添加物や混合プラスチックからの分離も可能
クローズドループリサイクルの実現に大きく前進
スマートプラスチックとして持続可能な材料循環に貢献
将来の展望
実用化に向けたスケールアップと長期評価
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