論文のタイトル: Atomic and Ionic Radii of Elements 1–96
著者: Martin Rahm, Roald Hoffmann, N. W. Ashcroft
雑誌: Chemistry - A European Journal
巻: Volume 22, Issue 41 p. 14625-14632
出版年: 2020年
背景
1: 原子サイズの定義
原子や原子イオンのサイズを定義することは長年の課題
分子、結晶、イオン結合など環境により原子サイズは変化
原子サイズの定義には本質的な曖昧さが存在
2: 原子サイズ定義の重要性
化学結合や構造の合理化に重要
物質の物性を説明する上で有用な記述子
融点、多孔性、電気伝導性、触媒活性などの理解に寄与
3: 研究の目的
元素1-96の原子および陽イオン半径を計算
電子密度に基づく一貫した指標を用いて半径を定義
実験的なファンデルワールス半径との相関を検証
方法
1: 計算手法
相対論的全電子密度汎関数理論(DFT)計算を実施
PBE0汎関数とANO-RCC基底関数を使用
Douglas-Kroll-Hess 2次スカラー相対論ハミルトニアンを適用
2: 半径の定義
電子密度が0.001 electrons/bohr3に減衰する平均距離を半径と定義
125 mbohr3のグリッドで電子密度を分析
非球対称な電子密度分布にも対応可能な手法を採用
3: 検証方法
実験的なファンデルワールス半径との相関を検証
Alvarezらの結晶構造から得られた半径データを使用
相関係数および平均偏差を算出
結果
1: 原子半径の周期性
d軌道、f軌道元素で半径の収縮が見られる
主族元素では原子番号の増加に伴い半径が減少
Cr、Pdなど特異的に小さな半径を持つ元素が存在
2: ファンデルワールス半径との相関
計算値と実験値の間に良好な相関(r2 = 0.856)
平均偏差は0.01Åと小さい
アルカリ金属で系統的な差異が見られる
3: 陽イオン・陰イオン半径
陽イオン化により半径は減少、陰イオン化で増大
軽元素ほど電離による収縮が大きい
f軌道元素はイオン化で約0.4Åの収縮
考察
1: 半径トレンドの解釈
外殻電子の量子数が小さいほど空間的広がりが大きい
s < p < d < f の順で半径への寄与が大きい
内殻電子による遮蔽効果も半径に影響
2: Pdの小さな半径
[Kr]5s0 4d10 の電子配置が要因
s電子がないため、隣接元素より小さな半径となる
実験的にも同様の傾向が確認されている
3: アルカリ金属の偏差
計算値は実験値より小さい傾向
1つのs電子による電子密度の特殊性が原因の可能性
同じ密度でもより大きなパウリ反発を生じる
4: 研究の限界
自由原子の基底状態のみを考慮
化学環境下での電子状態変化は考慮していない
相対論効果の取り扱いが近似的
結論
元素1-96の原子・イオン半径を一貫した指標で計算
実験的ファンデルワールス半径と良好な相関を確認
半径トレンドを電子構造の観点から合理的に説明
化学結合や物性の理解に有用な基礎データを提供
将来の展望
厳密な相対論効果の取り込み
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