2024年10月16日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0157~

論文のタイトル: Atomic and Ionic Radii of Elements 1–96

Corrigendum

著者: Martin Rahm, Roald Hoffmann, N. W. Ashcroft

雑誌: Chemistry - A European Journal

巻: Volume 22, Issue 41 p. 14625-14632

出版年: 2020年


背景

1: 原子サイズの定義

原子や原子イオンのサイズを定義することは長年の課題

分子、結晶、イオン結合など環境により原子サイズは変化

原子サイズの定義には本質的な曖昧さが存在


2: 原子サイズ定義の重要性  

化学結合や構造の合理化に重要

物質の物性を説明する上で有用な記述子

融点、多孔性、電気伝導性、触媒活性などの理解に寄与


3: 研究の目的

元素1-96の原子および陽イオン半径を計算

電子密度に基づく一貫した指標を用いて半径を定義

実験的なファンデルワールス半径との相関を検証


方法

1: 計算手法

相対論的全電子密度汎関数理論(DFT)計算を実施

PBE0汎関数とANO-RCC基底関数を使用

Douglas-Kroll-Hess 2次スカラー相対論ハミルトニアンを適用


2: 半径の定義

電子密度が0.001 electrons/bohr3に減衰する平均距離を半径と定義

125 mbohr3のグリッドで電子密度を分析

非球対称な電子密度分布にも対応可能な手法を採用


3: 検証方法

実験的なファンデルワールス半径との相関を検証

Alvarezらの結晶構造から得られた半径データを使用

相関係数および平均偏差を算出


結果

1: 原子半径の周期性

d軌道、f軌道元素で半径の収縮が見られる

主族元素では原子番号の増加に伴い半径が減少

Cr、Pdなど特異的に小さな半径を持つ元素が存在


2: ファンデルワールス半径との相関

計算値と実験値の間に良好な相関(r2 = 0.856)

平均偏差は0.01Åと小さい

アルカリ金属で系統的な差異が見られる


3: 陽イオン・陰イオン半径

陽イオン化により半径は減少、陰イオン化で増大

軽元素ほど電離による収縮が大きい

f軌道元素はイオン化で約0.4Åの収縮


考察

1: 半径トレンドの解釈

外殻電子の量子数が小さいほど空間的広がりが大きい

s < p < d < f の順で半径への寄与が大きい

内殻電子による遮蔽効果も半径に影響


2: Pdの小さな半径

[Kr]5s0 4d10 の電子配置が要因

s電子がないため、隣接元素より小さな半径となる

実験的にも同様の傾向が確認されている


3: アルカリ金属の偏差

計算値は実験値より小さい傾向

1つのs電子による電子密度の特殊性が原因の可能性

同じ密度でもより大きなパウリ反発を生じる


4: 研究の限界

自由原子の基底状態のみを考慮

化学環境下での電子状態変化は考慮していない

相対論効果の取り扱いが近似的


結論

元素1-96の原子・イオン半径を一貫した指標で計算

実験的ファンデルワールス半径と良好な相関を確認

半径トレンドを電子構造の観点から合理的に説明

化学結合や物性の理解に有用な基礎データを提供


将来の展望

厳密な相対論効果の取り込み


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