論文のタイトル: Light-Induced 1H NMR Hyperpolarization in Solids at 9.4 and 21.1 T
著者: Federico De Biasi, Ganesan Karthikeyan, Máté Visegrádi, Marcel Levien, Michael A. Hope, Paige J. Brown, Michael R. Wasielewski, Olivier Ouari, Lyndon Emsley*
雑誌: Journal of the American Chemical Society
出版年: 2024年
背景
1: NMRの感度向上の重要性
核磁気共鳴(NMR)分光法は固体の構造と動態の有力な分析手法
NMRの本質的な低感度が応用の障害となっている
核スピン超偏極法が感度向上に重要
マイクロ波誘起動的核偏極(DNP)が固体で最も一般的な手法
2: 光誘起超偏極法の可能性
光学的手法も固体で超偏極を生成可能
光化学的動的核偏極(photo-CIDNP)は光照射のみで超偏極を生成
固体状態でのphoto-CIDNPは主にタンパク質系で観察されてきた
13Cと15Nの超偏極が中心で、バルクへの偏極移動は限定的
3: 本研究の目的
合成分子を用いた1H photo-CIDNPの高磁場での実現
バルクへの1H超偏極の伝搬の実証
色素増感固体NMRへの応用可能性の探索
方法
1: 実験デザイン
PhotoPol-Sという新規ドナー-クロモフォア-アクセプター分子の設計
高磁場(9.4 Tと21.1 T)での1H NMR測定
マジック角回転(MAS)条件下での測定
100 Kの低温条件での実験
2: サンプル調製
PhotoPol-Sを1.5 mMの濃度でo-テルフェニル-d14に溶解
サンプルを3.2 mmサファイアローターに充填
酸素除去のために凍結脱気法で脱気
3: 測定条件
400 MHzと900 MHz NMR分光計を使用
3.2 mm MAS DNPプローブを使用
450 nmの青色レーザーで連続光照射
レーザー出力: 1.2-1.3 W
8 kHz MASと70秒の繰り返し時間で測定
結果
1: 1H NMRシグナル増強
900 MHzで106倍、400 MHzで88倍のシグナル増強を観測
超偏極したOTPマトリックスの残留1Hシグナルを検出
PhotoPol-S分子からバルクへの1H-1Hスピン拡散を確認
2: 偏極ビルドアップ
光照射下での偏極ビルドアップがT1緩和より速い
偏極遅延時間の増加とともに増強度が減少
スピン拡散長が>200 nmと推定され、均一な偏極を示唆
3: マトリックスプロトン化の影響
OTPのプロトン化度を5%に増加させると増強度が約60%に低下
バルク核間のスピン拡散が律速段階でないことを示唆
考察
1: 超偏極メカニズム
Three-spin mixing (TSM)メカニズムが主要な超偏極生成過程
PhotoPol-Sの大きな電子-電子カップリングがTSMを可能に
1H Larmor周波数と完全には一致しないが、十分な効率を実現
2: 高磁場での1H photo-CIDNP実現の意義
初めての高磁場(9.4 Tと21.1 T)での固体1H photo-CIDNP
合成分子を用いたバルクへの超偏極伝搬の実証
色素増感固体NMRへの応用可能性を示唆
3: 超偏極効率の考察
長い超偏極ビルドアップ時間が観測される
PhotoPol-S分子内での1H超偏極生成が律速段階の可能性
偏極剤の構造最適化による効率向上の余地
4: 研究の限界点
単一の偏極剤分子のみを検討
限られた磁場強度での実験
温度依存性や他のマトリックスでの挙動は未検討
結論
高磁場での光誘起1H NMR超偏極を実現
約100倍のシグナル増強を達成
将来の展望
色素増感高磁場固体NMRの更なる開拓
偏極剤の最適化による更なる性能向上の可能性