2024年7月3日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0059~

論文のタイトル: One pot conversion of phenols and anilines to aldehydes and ketones exploiting α gem boryl carbanions

著者: Kanak Kanti Das, Debasis Aich, Sutapa Dey, Santanu Panda

雑誌: Nature Communications

巻: 15, 3794

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

官能基の変換は有機合成において重要な資産

フェノール/アニリンは天然に豊富に存在

カルボニル化合物は生理活性分子に広く存在

フェノール/アニリンからカルボニル化合物への効率的な変換が重要


2: 既存の手法と課題

従来法は遷移金属触媒を用いたクロスカップリングが必要

一酸化炭素を用いる手法は毒性や高圧ガスの危険性がある

医薬品における遷移金属の許容一日摂取量に関する問題

遷移金属フリーかつCOフリーの変換法が求められている


3: 研究の目的

フェノール/アニリンからアルデヒド/ケトンへの一段階変換法の開発

C-O/C-N結合開裂を伴う遷移金属フリーの手法の確立

多様な官能基に適用可能な手法の開発

生理活性分子合成への応用


方法

1: 合成手法の概要

フェノールからキノケタールへの酸化

α-ビス(ボリル)カルバニオンとの1,2-付加反応

ビニルボロン酸エステルの酸化によるカルボニル化合物の生成

ワンポット反応での実施


2: 反応条件の最適化

(ジアセトキシヨード(Ⅲ))benzene(PIDA )を用いたフェノールの酸化

K2CO3によるAcOHの中和

温度、塩基、酸化剤の検討

NaBO3・4H2Oを用いた最終酸化段階


3: 基質適用範囲の検討

様々な置換基を持つフェノール類の検討

アニリン誘導体への適用

生理活化合物への応用

BINOLを用いた光触媒の設計


結果

1: アルデヒド合成

多様な置換基を持つフェノールからアルデヒドを合成

オルト、パラ、メタ位に置換基を有する基質に適用可能

ハロゲン、エステル、ケタール、水酸基、アルケン、末端アルキンとの共存性


2: ケトン合成

フェノールから各種ケトンへの変換に成功

アリールアルキルケトン、ジアリールケトン、アセトフェノン類の合成

α,β-不飽和ケトンの立体選択的合成(100% trans選択性)


3: アニリンからの合成

保護アニリンからアルデヒド・ケトンへの変換

キノケタール中間体の単離が高収率に必要

多様な置換基を持つアニリン類に適用可能


考察

1: 反応機構

キノケタール中間体の生成

α-ビス(ボリル)カルバニオンの1,2-付加

ビニルボロン酸エステル中間体の生成

NBO解析とDFT計算による反応性の説明


2: 従来法との比較

遷移金属触媒やCOを必要としない環境調和型の手法

ワンポット反応による効率的な合成

多様な官能基との共存性が高い

位置選択的なアセトフェノン合成が可能


3: 生理活性分子合成への応用

CRACインヒビターの合成

抗マラリア活性化合物の合成

抗真菌活性を持つ化合物の合成

トポイソメラーゼ阻害剤の効率的合成


4: 新規光触媒の開発

BINOLベースの多環式化合物の設計

可視光および太陽光照射下での光触媒活性

デハロゲン化アリール化反応への応用

デカルボキシル化およびデボリル化ビニル化反応の達成


結論

フェノール/アニリンからアルデヒド/ケトンへの効率的変換法を開発

遷移金属フリー・COフリーの環境調和型手法を確立

多様な官能基に適用可能で、生理活性分子合成に有用


将来の展望

新規光触媒の開発につながる可能性を示唆

有機合成化学における新たな方法論として期待

2024年7月2日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0058~

論文のタイトル: Factors governing the protonation of Keggin-type polyoxometalates: influence of the core structure in clusters

著者: Hiroshi Sampei, Hiromu Akiyama, Koki Saegusa, Masahiro Yamaguchi, Shuhei Ogo, Hiromi Nakai, Tadaharu Ueda, Yasushi Sekine

雑誌: Dalton Transactions

出版年: 2024年


背景

1: 研究背景

ポリオキソメタレート(POM)は原子レベルで精密な構造を持つナノクラスター

POMの性質は部分的な原子置換や異性化によって修飾可能

POMの配位と性質の関係は定量的に解明されていない場合が多い

POMは電子デバイス、触媒、センサーなどへの応用が研究されている


2: 研究の重要性

POMのプロトン化・脱プロトン化は触媒活性に重要

水素化、脱水素化、酸素還元、水素発生などの反応に関与

分子吸着・脱着刺激のモデル材料としても重要

配位環境の制御によるプロトン化特性の調整が応用範囲を広げる可能性


3: 研究の目的

Keggin型POMのα-およびβ-異性体のプロトン化位置とエネルギーを支配する因子の解明

コア構造XO4とシェル構造M12O36の相互作用の影響を調査

実験的に合成・単離が困難なβ-異性体の性質予測方法の確立


方法

1: 計算手法

密度汎関数理論(DFT)計算を実施

Gaussian16 revision C.01を使用

M06汎関数を交換相関汎関数として選択

基底関数セット:SDD(添加金属M)、cc-pVDZ(他の元素)


2: モデル構築

α-およびβ-異性体のKeggin型POM [XM12O40]z- をモデル化

X: B(III), Al(III), Ga(III), Si(IV), Ge(IV), P(V), As(V), S(VI)

M: Mo(VI), W(VI)

溶媒効果:PCM法を用いてアセトニトリルをモデル化(ε = 36.64)


3: 解析手法

自然結合軌道(NBO)解析の実施

分子静電ポテンシャル(MEP)表面の可視化

プロトン化エネルギーの計算と回帰分析

HOMO-LUMOギャップの解析


結果

1: プロトン化サイト

α-異性体:全電荷zの増加に伴いプロトン化サイトが変化

β-異性体:プロトン化サイトの変化は観察されず

O22eサイト:電子的効果によりプロトン化に適している

O12サイト:構造的効果により安定なプロトン化を形成


2: プロトン化エネルギー

POMの全電荷zとヘテロ原子のイオン半径に依存

添加金属種Mの影響は明確ではない

β-XMo12異性体が最も低いプロトン化エネルギーを示す


3: 回帰分析結果

POMの全電荷zと結合原子価の和を用いた回帰分析

α-異性体のデータからβ-異性体のプロトン化エネルギーを高精度で予測可能

R2値 ≥ 0.997 を達成


考察

1: プロトン化サイトの決定要因

添加金属種Mの影響:疑似ヤーンテラー効果とM-O結合の共有結合性

POMの全電荷zの影響:電子密度分布の変化

β-異性体の特徴:O22eの共有結合的プロトン結合とO12の水素結合形成


2: プロトン化エネルギーの支配因子

POMの全電荷z:クラスター全体の電子状態を反映

ヘテロ原子と結合する酸素と金属間Oh-Mの結合長:コア-シェル相互作用の強さを表す

これらの因子はα-異性体からβ-異性体の性質予測に有効


3: HOMO-LUMOギャップへの応用

プロトン化エネルギーを支配する因子がHOMO-LUMOギャップも制御

光化学的・酸化還元反応の特性予測に有用

コア-シェル相互作用の重要性を示唆


4: 研究の限界点

実験値との直接比較が限られている

複数プロトンの吸着に関する検討が不足

他のナノクラスターへの適用可能性の検証が必要


結論

Keggin型POMのプロトン化特性は全電荷とコア-シェル相互作用に支配される

α-異性体のデータからβ-異性体の性質を高精度で予測可能

この知見はPOMの物理化学的性質の制御に貢献


将来の展望

他のコア-シェル構造ナノクラスターへの応用が期待される

複数プロトン吸着や他のナノクラスターへの適用性の検証が今後の課題

2024年7月1日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0057~

論文のタイトル: Synthesis and Structure of the Small Superelectrophile [C2(OH)2Me2]2+(小さな超求電子剤 [C2(OH)2Me2]2+ の合成と構造)

著者: Alan Virmani, Christoph Jessen, Andreas J. Kornath*

雑誌: Chemistry - A European Journal

出版年: 2024年


背景

1: 研究背景

炭素中心の超求電子剤は長年研究対象

置換基が構造や電荷分布に与える影響に注目

超酸性媒体で安定化が可能


2: 未解決の課題

小さな炭素中心超求電子剤の構造解析が困難

従来の超酸では安定化できない化合物の存在

理論計算と実験結果の不一致


3: 研究目的

[C2(OH)2Me2]2+の合成と構造解析

SO2を溶媒として用いた新しい合成法の開発

量子化学計算による電子状態の解明


方法

1: 合成方法

2,3-ブタンジオンの二重プロトン化

SO2を溶媒として使用

SbF5とHFを用いた超酸性条件


2: 分析手法

ラマン分光法による構造解析

単結晶X線回折による結晶構造決定

-196°Cでの低温測定


3: 理論計算

B3LYP/aug-cc-pVTZレベルでの量子化学計算

自然結合軌道(NBO)解析

分子静電ポテンシャル(MEP)計算


結果

1: 結晶構造

[C2(OH)2Me2]2+C2h対称性を持つ

C-C結合長: 1.549(4) Å

C-O結合長: 1.250(4) Å


2: 分子間相互作用

強い水素結合: O1···F3 (2.476(3) Å)

C···F相互作用: C1···F2ii (2.520(3) Å)

SO2分子との共結晶化


3: 電子状態

πホールの静電ポテンシャル: 1082.4 kJ·mol-1

NBO解析によるドナー-アクセプター相互作用

π(C-C)軌道へのフッ素原子からの電子供与


考察

1: 構造の特徴

平面構造(C2h)は分子間相互作用により安定化

C-C結合長は未プロトン化体と変わらず

高い電子不足性を示す


2: 溶媒効果

SO2の使用が超求電子剤の安定化に重要

従来の超酸では副反応が進行


3: 理論と実験の比較

気相計算ではC2対称性を予測

結晶中ではC2h対称性を観測

分子間相互作用が構造に大きく影響


4: 研究の限界

溶液中での挙動は未解明

より大きな置換基を持つ類縁体との比較が必要

反応性に関する研究が今後の課題


結論

[C2(OH)2Me2]2+の初めての単離に成功

SO2溶媒中での安定化が鍵

分子間相互作用が構造と安定性に重要

超求電子剤の設計と合成に新しい指針を提供


将来の展望

今後、反応性や触媒能の研究に展開可能