著者: Cihang Yu, Agnes Kütt, Gerd-Volker Röschenthaler, Tomas Lebl, David B. Cordes, Alexandra M. Z. Slawin, Michael Bühl, David O'Hagan
雑誌: Angewandte Chemie International Edition
巻: Volume 59, Issue 45 p. 19905-19909
出版年: 2020
背景
1: 研究の背景
シクロヘキサン環は有機化学の発展に大きな役割を果たしてきた
これまでに全シス体の6置換シクロヘキサン化合物がいくつか合成されている
しかし、最も立体障害の大きい全シス-1,2,3,4,5,6-ヘキサキス(トリフルオロメチル)シクロヘキサンは未だ合成されていない
2: 未解決の問題点と研究目的
立体障害が大きい化合物ほど合成が困難
トリフルオロメチル基の導入により新規Janus面環状化合物が期待できる
全シス-1,2,4,5-テトラキス(トリフルオロメチル)シクロヘキサンと全シス-1,2,3,4,5,6-ヘキサキス(トリフルオロメチル)シクロヘキサンの直接水素化による合成を試みた
3: 期待される成果
最も立体障害の大きい全シス六置換シクロヘキサン化合物の合成
環反転のエネルギー障壁の解明
Janus面環状化合物の性質の解明
方法
1: 研究デザイン
1,2,4,5-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン15と1,2,3,4,5,6-ヘキサキス(トリフルオロメチル)ベンゼン16の直接水素化反応
ロジウム触媒を用いた高圧水素化反応
2: 反応条件と生成物の単離
1,2,4,5-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼンの水素化: 50 bar水素圧, 25℃, 2日間で目的生成物を60%収率で得た
ヘキサキス(トリフルオロメチル)ベンゼンの水素化: 60 bar水素圧, 50℃, 14日間で目的生成物を13%収率で得た
生成物の単離にはシリカゲルクロマトグラフィーを用いた
3: 分析手法
単結晶X線構造解析
温度可変NMR測定による環反転障壁の解析
密度汎関数理論(DFT)計算による立体構造と安定性の評価
結果
1: X線構造解析
新規Janus面環状化合物はいずれも椅子形構造をとる
全シス-1,2,4,5-テトラキス(トリフルオロメチル)シクロヘキサン 13のCF3基間の1,3-ジアキシアル角は107.5°と大きく歪んでいる
全シス-1,2,3,4,5,6-ヘキサキス(トリフルオロメチル)シクロヘキサン 14の3つのCF3基間の平均スプレイ角は110.8°と非常に大きい
2: 環反転障壁
化合物13の環反転障壁はΔG‡ = 10.3 kcal/mol
化合物14の環反転障壁は計算値でΔG‡ = 27.1 kcal/molと非常に高い
化合物14は調べた範囲で最も立体障害の大きい全シス六置換シクロヘキサン
3: Janus面環状分子の性質
化合物14の電荷分布は片面に負の領域、反対面に正の領域を持つ
化合物14はアセトン、塩化物イオンと相互作用を示す
フッ化物イオンによる分解反応が観測された
考察
1: 化合物13の特徴的な構造と反応性
CF3基の立体配置による大きなひずみ
環反転にはねじれ船型の寄与が関与
立体障害の増大に伴い反応性が低下する可能性
2: 化合物14の特有の性質
最も立体障害の大きい全シスヘキサ置換シクロヘキサン
フッ素面と水素面の極性が環反転を抑制する要因か
塩化物イオン親和性はJanus面構造に由来
3: 限界点と将来の課題
収率の改善が必要
化合物14の結晶構造の更なる解析が望まれる
他のJanus面環状化合物の合成と性質評価
結論
最も立体障害の大きい全シス六置換シクロヘキサン14の合成に成功
化合物14は環反転障壁が非常に高いJanus面環状分子である
将来の展望
新規極性環状分子の開発につながる
Janus面環状化合物の実用化が期待される