2024年11月5日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0177~

論文のタイトル: Intermolecular [2+2] Photocycloaddition of β-Nitrostyrenes to Olefins upon Irradiation with Visible Light(可視光照射によるβ-ニトロスチレンのオレフィンへの分子間[2+2]光付加環化反応)

著者: Lisa-Marie Mohr, Thorsten Bach

雑誌: Synlett

巻: Volume28, Issue20, 2946-2950

出版年: 2017年


背景

1: 光化学反応の歴史

[2+2]光付加環化反応は当初、可視光を用いて研究された

20世紀半ばから人工UV光源の登場により短波長(λ = 250-380 nm)照射が主流に

1970-80年代にエネルギー貯蔵システムの研究で長波長照射が再注目

芳香族カルボニル化合物や遷移金属塩が三重項増感剤として機能


2: ニトロスチレンの光化学

19世紀にtrans-β-ニトロスチレンの光二量化が太陽光照射で観察

オレフィンとの分子間[2+2]光付加環化は稀少で短波長光のみで実施

Chapmanらがオレフィンとの反応を言及するも詳細データなし 

Majimaらがインデンとの反応を報告(高圧水銀ランプ使用)


3: 研究目的

trans-β-ニトロスチレンのUV-Vis分光特性を解析

可視光照射による効率的な[2+2]光付加環化反応の開発

反応条件の最適化と基質適用範囲の検討

反応機構の解明


方法

1: 実験条件

濃度: 20 mM (CH2Cl2溶媒)

光源: 419 nmの蛍光ランプ 

温度: 室温

反応時間: 2-24時間

オレフィン: 10当量使用


2: 分析手法

UV-Vis分光法による吸収特性の解析

NMR分光法によるキャラクタリゼーション

NOESYによる立体化学の決定

三重項増感実験による反応機構解析


3: 最適化検討

波長の影響(300-517 nm)

溶媒効果(ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン)

オレフィン当量の効果

反応濃度の最適化


結果

1: 波長効果

300-419 nmで高収率(49-83%)

457-470 nmでも反応進行(18-50%)

517 nmでは反応せず

ジアステレオ選択性は約3:1で一定


2: 基質適用性

様々なオレフィンで反応進行(収率32-87%)

電子豊富な芳香環で高収率

パラシアノ置換体で選択性低下

シス体からトランス体への異性化観察


3: 反応機構

三重項状態を経由

1,4-ジラジカル中間体の形成

水素引き抜きによる副生成物の生成

チオキサントン添加で反応加速


考察

1: 反応の特徴

可視光での効率的な[2+2]光付加環化

穏和な条件下での反応進行

明確な立体選択性の発現

光化学的極性反転の実現


2: 反応機構の要点

三重項エネルギー移動の重要性

ジラジカル中間体の存在証明

立体選択性の発現機構

副反応の制御要因


3: 研究の意義

新しい合成手法の確立

環境調和型反応の開発

アミノシクロブタン類への変換可能性

光化学反応の新しい可能性


結論

β-ニトロスチレン類の可視光[2+2]光付加環化を実現

11例の環化体を収率32-87%で合成

反応機構を解明し、三重項経路を確認

穏和な条件での立体選択的な環形成を達成


将来の展望

さらなる収率・選択性の向上とスケールアップ

2024年11月4日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0176~

論文のタイトル: Electrophotocatalytic Hydroxymethylation of Azaarenes with Methanol(メタノールを用いたアザアレーンの電気光触媒的ヒドロキシメチル化)

著者: Beatriz Quevedo-Flores, Irene Bosque, Jose C. Gonzalez-Gomez

雑誌: Organic Letters

巻: Volume26, Issue35, 7447–7451

出版年: 2024年


背景

1: ヒドロキシメチル基導入の重要性

生理活性含窒素複素環への効果

溶解度(logP)への影響

薬理活性部位との水素結合形成

pirbuterol、renierol、losartanなどの医薬品に存在

他の官能基への変換が容易


2: メタノールを用いた直接的ヒドロキシメチル化の課題

メタノールのC-H結合の選択的活性化

プロトン化アザアレーンとの電荷移動の制御

ラジカル付加の可逆性

過剰酸化による副生成物の生成

スピンセンターシフトによるメチル化


方法

1: 反応条件の最適化

アクリジン光触媒A1の使用

塩化水素酸による活性化

青色LED照射(455nm)

グラファイト陽極、ニッケル陰極

定電流2mA条件


2: 二つの反応プロトコル

プロトコルA:LiCl/HCl系

キノリン類に有効

室温で実施可能

空気存在下で実施可能

プロトコルB:Bu4NBF4

イソキノリン類に有効

ジフェニル水素ホスフェート使用

塩化物イオン不要


結果

1: 基質適用範囲

2-アルキルキノリン類:60-89%収率

4-置換キノリン類:40-95%収率

ピリジン類:中程度〜良好な収率

医薬品類への応用可能

選択的な単一置換を達成


2: 実用性の検証

1.5V電池での反応可能

太陽光照射下での反応可能

スケールアップ実験(1.34mmol)に成功

並行反応による効率的合成

単純な後処理での単離が可能


考察

1: 反応機構の解明

ラジカル阻害剤による反応抑制

塩素ラジカルの捕捉実験

光誘起電子移動の確認

温和な酸化条件の重要性

空気の影響の検証


結論

新規電気光触媒的手法の確立

温和な条件下での選択的反応

実用的なスケールでの適用可能


将来の展望

医薬品合成への応用可能性

環境調和型の反応プロセスの開発

Catch Key Points of a Paper ~0175~

論文のタイトル: Boron bis-(4-methylbenzoxazol-2-yl)-methanide complexes(ホウ素ビス-(4-メチルベンゾオキサゾール-2-イル)-メタニド錯体の合成と特性)

著者: Xiaobai Wang, Franziska Rüttger, Johannes Kretsch, Anne Kreyenschmidt, Regine Herbst-Irmer and Dietmar Stalke*

雑誌: Dalton Transactions

巻: Volume53, 8264-8268

出版年: 2024年


背景

1: ホウ素化合物の重要性

ホウ素化合物は独特な触媒特性を持つ

希少で高価な金属触媒の代替として期待

N,N-二座配位子との錯体形成が注目されている

BODIPYなどの蛍光材料としての応用可能性


2: 研究目的(Box配位子を用いた新規ホウ素錯体の開発)

13族元素の中でホウ素化合物の研究が不足

Box配位子(ビス-ベンゾオキサゾール-2-イル-メタン)の特性活用

新規ホウ素錯体の合成と構造解析

蛍光特性の評価


方法

1: 合成手順

Box配位子とBH3·THFの反応による化合物1の合成

化合物1とBX3(X = F, Cl, Br)の反応による化合物2-4の合成

トルエンまたはTHF中で95℃、2-3日間反応

結晶化による精製


2: 分析手法

単結晶X線構造解析

NMRスペクトル測定(1H, 11B, 13C, 19F)

蛍光分析

元素分析とマススペクトル


結果

1: 構造特性

すべての化合物でN,N-二座配位構造を確認

B-N結合長: 1.537-1.582 Å

N-B-N角: 104.71-109.5°

結晶構造における平面性の確認


2: 蛍光特性

化合物1: 発光最大波長 452 nm

化合物2-4: 388-404 nmの青色発光

量子収率: 化合物1で75.5%

BODIPYより短波長での発光を確認


考察

1: 構造的特徴

N,N-二座配位による安定な錯体形成

ハロゲン置換による構造への影響は最小限

結晶構造の高い対称性

置換基による電子的効果の制御


2: 応用可能性

青色蛍光材料としての potential

低酸化状態ホウ素化合物の安定化

小分子活性化触媒としての可能性

材料科学への応用展開


結論

新規Box配位子ホウ素錯体の成功的な合成

構造と物性の体系的な解明

優れた青色発光特性の発見


将来の展望

触媒および材料応用

2024年11月3日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0174~

論文のタイトル: Multi-modal control over the assembly of a molecular motor bola-amphiphile in water(水中における分子モーターボラ両親媒性化合物の集合体形成の多重制御)

著者: Fan Xu, Lukas Pfeifer, Marc C. A. Stuart, Franco King-Chi Leung* and Ben L. Feringa*

雑誌: Chemical Communications

巻: Volume56, 7451-7454

出版年: 2020年


背景

1: 超分子システムの重要性

自然界の非共有結合による集合体形成は人工超分子システム設計の基礎

外部刺激に応答する超分子システムの開発が進展

水中での小分子有機化合物の自己集合制御が注目

光、pH、イオンなどの外部刺激による制御が可能


方法

1: 分子設計

第一世代分子モーターをベースに設計

カルボキシル基を両末端に配置

シス体-トランス体の光異性化が可能

pHおよびイオン応答性を付与


結果

1: 光応答性

トランス体からシス体への312 nm光照射による異性化

PSS状態でのシス体:トランス体比は63:37

365 nm光照射による可逆的な異性化

1H NMRによる構造確認


2: 集合体構造の光制御

トランス体: シート状構造を形成

光照射後: ミセルおよびベシクル構造への変化

365 nm光照射で元のシート状構造に回復

加熱-冷却サイクルで完全な構造回復


3: pH応答性

pH 8.8: シート状構造

pH 9.8: ディスク状構造(直径30-40nm)

pH 11.0: ミセル構造(直径4-5nm)

pHによる集合体構造の可逆的制御


4: イオン応答性

NaCl添加: ベシクル形成(直径100-200nm)

CaCl2添加: マクロスコピックな凝集体形成

Ca2+イオンとカルボキシレート基の強い相互作用

イオン種による異なる集合体構造


考察

1: 研究の特色

多重刺激応答性の実現

光・pH・イオンによる独立した構造制御

可逆的な構造変化の達成

分子設計の有効性の実証


結論

水中での分子モーター集合体の多重制御を実現

光・pH・イオンによる異なる集合体構造の形成

超分子材料の新しい設計指針の提示


将来の展望

環境適応材料やデリバリーシステムへの応用可能性


2024年11月2日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0173~

論文のタイトル: Clicking together Alkynes and Tetracyanoethylene

著者: Prof. Dr. Mogens Brøndsted Nielsen

雑誌: ChemPhysChem  

巻: Volume24, Issue15, e202300236

出版年: 2023年


背景

1: 研究の背景(環化付加–逆電子環化反応の概要)

環化付加–逆電子環化反応(CA-RE反応):アルキンとテトラシアノエチレン(TCNE)の反応

電子豊富なアルキンと電子不足オレフィンの[2+2]環化付加

生成物:置換1,1,4,4-テトラシアノブタ-1,3-ジエン(TCBD)

副生成物なし、原子効率の良い反応


2: CA-RE反応の特徴

"クリック様"反応:一部のアルキンで定量的収率

電子供与基の強さが収率に大きく影響

最近の進展:界面活性剤存在下で水中でも反応可能

生成物:レドックス活性なドナー-アクセプタークロモフォア


3: 研究の目的

CA-RE反応のメカニズム解明

単純な二次反応速度論や一次反応速度論に従わない理由の探索

反応促進要因の特定

自己触媒作用の可能性の検討


方法

1: 反応の追跡方法

1H -NMR分光法を使用

溶媒:C6D6、温度:300 K

基質、中間体、生成物のアリールプロトンをプローブとして使用

反応時間:約15時間


2: データ解析

カスタムメイドの反応速度論プログラムを使用

4つの異なるモデルを実験データにフィッティング

基質濃度を変えて得られたすべてのデータを同時にフィッティング

速度定数(k)を繰り返しスキャンし、最小偏差を探索


3: 反応メカニズムモデル

モデル1:一段階環化付加

モデル2:段階的環化付加

モデル3:一段階環化付加(自己触媒作用含む)

モデル4:段階的環化付加(自己触媒作用含む)


結果

1: 単純モデルの限界

モデル1と2:単一実験データには適合

異なる基質濃度の実験データ全体には不適合

予想以上に複雑なメカニズムの示唆


2: 自己触媒作用の発見

生成物Pを初期から添加すると反応が加速

モデル3と4:自己触媒作用を組み込んだ新メカニズム

特にモデル4が実験データに excellent fit


3: 速度定数の比較

k4/k2 = 62(モデル4):ABP複合体からの中間体形成が速い

k6/k5 = 0.05:C中間体からのzwitterion中間体形成が速い

k6/k4 = 4 × 10-5:最終RE段階が最も遅い


考察

1: 自己触媒作用のメカニズム

基質と生成物間のドナー-アクセプター錯体形成の可能性

錯体形成により基質の配向が最適化

アルキンからTCNEへの求核攻撃が促進


2: RE段階の特性

溶媒極性への依存性が小さい

協奏的メカニズムの支持

酢酸中でわずかに反応速度低下:アニリンのプロトン化が不利


3: CA-RE反応の応用

レドックス活性なドナー-アクセプタークロモフォアの合成

電子デバイスや光電子デバイスへの潜在的応用

フタロシアニンやサブフタロシアニンとの反応も可能


4: 研究の限界点

アニリン基質での検討に限定

自己触媒作用の詳細なメカニズムは未解明

計算化学による更なる解析が必要


結論

CA-RE反応:複雑なメカニズムを持つ"クリック様"反応

自己触媒作用の発見:反応促進の新たな要因

ドナー-アクセプター錯体形成による反応促進の可能性


将来の展望

今後の課題:計算化学による自己触媒作用の解明

新規機能性材料開発への応用が期待される

2024年11月1日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0172~

論文のタイトル: Long-Term Energy Storage Systems Based on the Dihydroazulene/Vinylheptafulvene Photo-/Thermoswitch

著者: Christina Schøttler, Siri Krogh Vegge, Martina Cacciarini, Mogens Brøndsted Nielsen

雑誌: ChemPhotoChem

巻: Volume6, Issue8, e202200037

出版年: 2022年


背景

1: 研究の背景

分子フォトスイッチは分子太陽熱エネルギー貯蔵(MOST)システムとして注目

MOSTシステムは光異性化により高エネルギー準安定異性体を生成

熱的に元の異性体に戻る際にエネルギーを放出

理想的なシステムには多くの要件が必要


2: 未解決の課題

太陽光スペクトルでの吸収

2つの異性体の吸収スペクトルの重複が小さい

光異性化の量子収率が高い  

準安定異性体の寿命が長い

異性体間のエネルギー差が大きい


3: 研究目的

ジヒドロアズレン(DHA)フォトスイッチの新規誘導体の合成

C2位にアルキンおよびノルボルナジエン(NBD)置換基を導入

対応するビニルヘプタフルベン(VHF)異性体の寿命延長を目指す


方法

1: 合成戦略

DHA 3aの4段階合成

既知の化合物5から出発

Knoevenagel縮合、トロピリウム塩との反応、酸化を経てVHF 3bを合成

VHF 3bの環化によりDHA 3aを得る


2: NBD-DHA 4aの合成

NBDコアを先に構築し、その後DHAを形成

化合物6とシクロペンタジエンのDiels-Alder反応でNBD 8aを合成

化合物8aからDHA-NBDジアッド4aを3段階で合成


3: 光学特性と異性化特性の評価

UV-Vis分光法による吸収スペクトル測定

LED光源を用いた光異性化実験

熱戻り反応の温度依存性測定

光異性化量子収率の測定


4: データ解析

アレニウスプロットによる半減期の推定

NMRスペクトル解析による構造確認

高分解能質量分析による分子量確認


結果

1: DHA 3aの特性

吸収極大: 363 nm (MeCN中)

VHF 3bの吸収極大: 514 nm 

DHA-VHF間の吸収極大の差: 151 nm

光異性化量子収率: 40%

VHF 3bの半減期(25°C): 22日


2: DHA-NBD 4aの特性

吸収極大: 387 nm (トルエン中)

VHF 4bの吸収極大: 466 nm

光異性化量子収率: 5%

VHF 4bの半減期(25°C): 5日

NBDの光活性は失われた


3: NBD 8aの特性

吸収極大: 368 nm (トルエン中)

QC 8bの吸収極大: 329 nm

QC 8bの半減期(25°C): 2.85時間

C(Me)=C(CN)2置換基のCreary置換基定数: 約2.1


考察

1: アルキン置換基の効果

VHF 3bの寿命が大幅に延長 (1bと比較して130倍以上)

DHA-VHF間の吸収極大の差が増大

分子量の小さな変更で顕著なMOST特性の向上


2: NBD置換基の影響

VHF 4bの寿命も延長 (1bと比較)

DHA部分の光活性は維持されたがNBD部分は失活

ジアッドシステムにおける光スイッチの相互作用を示唆


3: 構造と特性の関係

C2位置換基の混成状態がVHF安定性に影響

アルキン架橋によるヘプタフルベンとフェニル環の共平面性が寿命延長に寄与か

NBD-DHAジアッドの直接結合はNBDの光活性を阻害


4: C(Me)=C(CN)2置換基の効果

強力なラジカル安定化基として機能

QC-NBD逆反応の速度に大きな影響

経験的な関係式からCreary置換基定数を推定


結論

C2位にアルキンおよびNBD置換基を持つ新規DHA誘導体の合成に成功

VHF異性体の寿命が大幅に延長 (最長22日)

DHA-VHF間の吸収スペクトル分離が改善

分子量の小さな変更で顕著なMOST特性の向上を実現


将来の展望

フェニルエチニル置換基のさらなる機能化によるMOST要件の改善が期待される