2024年11月30日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0202~

論文のタイトル: Understanding and Tuning the Electronic Structure of Pentalenides

著者: Niko A. Jenek, Andreas Helbig, Stuart M. Boyt, Mandeep Kaur, Hugh J. Sanderson, Shaun B. Reeksting, Gabriele Kociok-Köhn, Holger Helten* and Ulrich Hintermair*

雑誌名: Chemical Science

巻: Volume 15, 12765-12779

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1039/d3sc04622b


背景

1: ペンタレニドとは?

ペンタレニドは、2つの5員環が縮合した平面10π電子系芳香族性を有する有機化合物

ペンタレニド配位子は、単一の金属中心に折り畳まれたり、2つの金属を結合したりするなど、η1からη8までの様々な結合様式をとる


2: ペンタレニド研究の現状と課題

ペンタレニド配位子は、窒素や二酸化炭素などの小分子の活性化やオレフィン重合触媒など、様々な用途を持つ有機金属錯体の合成に利用されている

しかし、ペンタレニドの合成は難しいため、その有機金属化学や多金属錯体をベースとした協同結合活性化戦略における利用に関する研究は進んでいない

特に、置換基の制御された導入を可能にする一般的な合成手法は知られていない


3: 研究の目的

9つの新しいペンタレニド誘導体の合成と特性評価を行い、置換基がペンタレニドのコアに及ぼす電子効果を体系的に調査

NMR分光法およびDFT計算を用いて、電荷分布分析、NICSスキャン、ACID計算などを行い、置換基による電子構造の変化を明らかにする


方法

1: ペンタレニド誘導体の合成

対称な置換基を有するペンタレニド誘導体は、対応するジヒドロペンタレンをLiNEt2で脱プロトン化することにより合成

非対称な置換基を有するペンタレニド誘導体も同様に、対応するジヒドロペンタレンをLiNEt2またはKHMDSとLiNEt2の組み合わせで脱プロトン化することにより合成


2: 分光学的分析

合成したペンタレニド誘導体は、多核NMR分光法および質量分析法により特性評価

特に、1H NMRおよび13C NMR化学シフトを測定することで、ペンタレニドコアの電子状態を調査


3: DFT計算

ペンタレニド誘導体の電子構造をより深く理解するために、DFT計算を行った

芳香族性と電荷分布の計算には、溶液中でのイオン対形成を考慮し、裸のジアニオンを用いた


4: 電子構造解析

誘起電流密度 (ACID) の異方性および核非依存性化学シフト (NICS) スキャンを計算することで、ペンタレニドの芳香族性を評価

自然結合軌道 (NBO) 計算を用いて、ペンタレニドコア内の電荷局在化と置換基効果を調査


結果

1: 対称テトラアリールペンタレニドの合成と構造

テトラフェニル、テトラ-p-トリル、テトラ-m-キシリルペンタレニド誘導体を高収率で合成した

X線結晶構造解析により、これらの誘導体がtrans η5配位様式で結晶化することを確認した

溶液中では、溶媒分離イオン対を形成し、置換基が速やかに反転していることが示唆された


2: 非対称アリールペンタレニドの合成と特性

異なるアリール基で置換された非対称ペンタレニド誘導体を合成した

1H NMRスペクトルにおいて、ウィングチッププロトンの化学シフトに差が見られ、ペンタレニドコアの分極が示唆された

電子求引性基を導入することで、分極の程度を調整できる


3: アルキル置換ペンタレニドの合成

従来法では、アルキル置換基を有するジヒドロペンタレンは、脱プロトン化の際に環外二重結合を形成してしまうため、ペンタレニド誘導体の合成が困難

メチル基の位置とアリール置換基の組み合わせを調整することで、環外二重結合形成を抑制し、アルキル置換ペンタレニド誘導体の合成に成功した


考察

1: 置換基によるペンタレニドの芳香族性の変化

DFT計算により、アリール置換基はペンタレニドコアの芳香族性を低下させることが示された

これは、置換基への電荷の非局在化によるものと考えられる

非対称置換ペンタレニドでは、置換基を持たない5員環の方が、置換基を持つ5員環よりも芳香族性が高い


2: 置換基によるペンタレニドの電荷分布の変化

NBO計算により、アリール置換基はペンタレニドコアから電荷密度を引き抜くことが示された

電子求引性基を導入することで、ペンタレニドコアの分極が強くなる

アルキル置換基は電子供与性を示し、ペンタレニドコアの分極に影響を与える


3: ペンタレニドのフロンティア軌道解析

DFT計算により、アリール置換基はペンタレニドのフロンティア軌道を安定化させることが示された

アリール置換ペンタレニドは、非置換ペンタレニドよりも弱いドナー配位子ですが、より良いアクセプター配位子であることが示唆された


4: 非対称ペンタレニドの遷移金属錯体への応用

非対称に置換されたペンタレニド配位子を用いることで、分極した二核ロジウム(I)錯体を合成

この錯体では、それぞれのロジウム原子とその補助配位子は、電子的にだけでなく立体的に区別される


5: 研究の限界点

主にエーテル溶媒中におけるペンタレニドの性質を調べたが、他の溶媒系における挙動や反応性については、さらなる研究が必要

合成したペンタレニド誘導体を用いた遷移金属錯体の触媒活性については検討していない


結論

9つの新しいペンタレニド誘導体を合成し、その電子構造を詳細に解析した

置換基の種類によってペンタレニドコアの芳香族性、電荷分布、フロンティア軌道エネルギーレベルを調整できることを明らかにした

非対称置換ペンタレニドを用いることで、分極した二核遷移金属錯体を合成できる可能性を示した


将来の展望

触媒、センサー、機能性材料など、様々な分野への応用が期待される

2024年11月29日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0201~

論文のタイトル: Noncontact Layer Stabilization of Azafullerene Radicals: Route toward High-Spin-Density Surfaces(非接触層安定化によるアザフラーレンラジカル:高スピン密度表面への道)

著者: Yuri Tanuma, Gregor Kladnik, Luca Schio, Marion van Midden Mavrič, Bastien Anézo, Erik Zupanič, Gregor Bavdek, Ruben Canton-Vitoria, Luca Floreano, Nikos Tagmatarchis, Hermann A. Wegner, Alberto Morgante, Christopher P. Ewels,* Dean Cvetko,* Denis Arčon*

雑誌名: ACS Nano 

巻: Volume 17, Issue 24, 25301−25310

出版年: 2023

DOI: https://doi.org/10.1021/acsnano.3c08717


背景

1: 有機ラジカルとアザフラーレン

有機ラジカルは、量子コンピューティングや触媒反応設計への応用が期待されている

安定な有機ラジカルの一つであるアザフラーレン (C59N) は、フラーレン骨格中の炭素原子が窒素原子に置換された構造をしている

C59Nは、窒素原子に隣接する炭素原子上に不対電子を持つラジカル種


2: アザフラーレンラジカルの課題と研究の必要性

C59N• ラジカルは反応性が高く、容易に二量体 (C59N)2 を形成してしまう

分子量子ビットへの応用には、固体基板上での分子スピンの安定化と操作が不可欠

これには、基板との相互作用の制御と、二量体形成を防ぐ分子間結合の抑制が重要


3: 研究の目的

真空蒸着法により金 (Au) 基板上に堆積させたアザフラーレン薄膜の特性を調査

アザフラーレンの結合状態とラジカル状態を、様々な膜厚で評価

分子ラジカルの状態を安定化させるメカニズムを解明する


方法

1: 実験手法

アザフラーレン二量体 (C59N)2 粉末を真空中で加熱し、Au(111) 基板上に堆積させた

堆積させた薄膜の厚さは、0.35 から 2.1 単分子層 (ML) まで変化させた


2: 薄膜構造解析

低温走査型トンネル顕微鏡 (STM) を用いて、薄膜の表面構造を観察した

X線光電子分光法 (XPS) により、薄膜の元素組成と化学結合状態を分析した


3: ラジカル状態解析

X線吸収微細構造 (NEXAFS) 分光法を用いて、薄膜の電子状態とラジカル状態を評価した

特に、窒素 K-edge NEXAFS スペクトルにおける単一占有分子軌道 (SUMO) ピークに着目した


4: 理論計算

密度汎関数理論 (DFT) 計算を用いて、アザフラーレンとAu基板の相互作用を調べた

アザフラーレン単量体と二量体のNEXAFSスペクトルを計算し、実験結果と比較した


結果

1: STM観察結果

Au(111) 基板上に堆積させたC59N は、基板のステップエッジから成長する二次元島状構造を形成

島状構造は、アザフラーレン分子が六方格子状に配列した単分子層であることが確認された

分子間距離は (C59N)2 二量体よりも大きく、単量体の存在を示唆


2: XPS測定結果

C 1s および N 1s XPSスペクトルから、C59N は Au(111) 基板と相互作用している

膜厚が 8 Å までの薄膜では、Au 基板によるコアホール遮蔽効果のため、結合エネルギーが低エネルギー側にシフトした

このシフトは、単分子層の形成を示唆しており、STM観察結果と一致している


3: NEXAFS測定結果

N 1s NEXAFS スペクトルから、C59N• ラジカル状態の存在を示すSUMOピークが観測された

SUMOピーク強度は、単分子層の形成に伴い増加し、二層目では減少した

この結果は、単分子層上でC59N• ラジカルが安定化し、二層目では二量体化することを示唆


考察

1: 第一層におけるC59N• ラジカルの安定化

第一層のC59N• は、窒素原子に隣接する炭素原子を介して Au(111) 基板に結合

基板との相互作用により、C59N• のラジカル性が部分的に抑制

しかし、第一層は、その上に堆積するアザフラーレンに対する保護層として機能


2: 第二層における高スピン密度相の形成

第一層上に堆積した第二層のC59N• は、基板との相互作用が弱くなる

その結果、第二層では C59N• ラジカルが単量体として存在し、高スピン密度相を形成

二層目の被覆率が増加すると、C59N• 分子の二量体化が起こり始める


3: 非接触層安定化のメカニズム

研究の結果は、非接触層安定化と呼ばれるメカニズムを示唆している

第一層が犠牲層として機能することで、第二層のC59N• ラジカルは基板から隔離され、安定化される

このメカニズムは、他の分子ラジカル系にも応用できる可能性がある


4: 先行研究との関連

従来の研究では、C59N• は反応性の高いSi基板やCu基板上に堆積されていた

これらの基板では、C59N• は基板と強く相互作用し、ラジカル性を失っていた

本研究では、Au(111) 基板を用いることで、C59N• ラジカルの安定化に成功


5: 研究の限界点

真空蒸着法を用いて薄膜を作製したが、実際的な応用には、溶液プロセスなど、他の作製方法の検討が必要

C59N• ラジカルのスピン状態を直接観測する実験が必要


結論

Au(111) 基板上に堆積させたアザフラーレン薄膜において、非接触層安定化による C59N• ラジカルの安定化を実証

将来の展望

分子スピン量子ビットや表面触媒反応など、様々な分野への応用が期待される

C59N• ラジカルのスピン操作や、他の分子ラジカル系への応用に関する研究が重要

2024年11月28日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0200~

論文のタイトル: The n,π* States of Heteroaromatics: When are They the Lowest Excited States and in What Way Can They Be Aromatic or Antiaromatic?(ヘテロ芳香族のn,π*状態:最低励起状態となる場合と芳香族性/反芳香族性の発現)

著者: Nathalie Proos Vedin、Sílvia Escayola、Slavko RadenkovićMiquel SolàHenrik Ottosson

雑誌名: The Journal of Physical Chemistry A

巻: Volume 128, Issue 22, 4493–4506

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1021/acs.jpca.4c02580


背景

1: ヘテロ芳香族化合物とその重要性

ヘテロ芳香族化合物は、生化学から太陽電池まで、様々な分野で重要な役割を果たしている

ヘテロ芳香族化合物の電子構造、特に基底状態と励起状態の芳香族性/反芳香族性を理解することは、その特性を理解する上で重要

ヘテロ芳香族化合物の光物理学的および光化学的特性は、通常、最低一重項励起状態(S1)と最低三重項励起状態(T1)によって決定される


2: 従来の芳香族性/反芳香族性理論の課題

π,π*励起状態の芳香族性/反芳香族性は、Baird則によって説明されます。

しかし、Baird則は、S1やT1状態がn,π*状態であるヘテロ芳香族化合物には適用できない

ヘテロ芳香族化合物のn,π*状態の芳香族性/反芳香族性を評価し、合理的に説明する方法は、これまで十分に研究されていなかった


3: 研究の目的

平面内孤立電子対(nσ、ここではn)を持つ6π電子ヘテロ芳香族化合物のn,π*励起状態を分析

定性的理論と量子化学計算を用いて、n,π*状態の芳香族性/反芳香族性を評価し、合理的に説明

n,π*状態の芳香族性/反芳香族性が、n,π*状態とπ,π*状態のエネルギー差、および最低励起状態の性質にどのように影響するかを調査


方法

1: 計算手法

密度汎関数理論(DFT)計算を用いて、様々なヘテロ芳香族化合物のn,π*状態の電子構造とエネルギーを計算

特に、長距離補正CAM-B3LYP汎関数を用いた非制限Kohn-Sham(KS)形式で、主に三重項n,π*状態(3n,π*)を計算

一重項n,π*状態(1n,π*)については、時間依存(TD)DFT計算を用いた


2: 芳香族性/反芳香族性指標

電子芳香族性指標として、多中心指標(MCI)と非局在化結合の電子密度(EDDB)を計算

磁気的指標として、核非依存化学シフト(NICS)と磁気誘起電流密度(MICD)を計算

これらの指標をスピン分離して計算することで、n,π*状態のαスピン成分とβスピン成分の芳香族性/反芳香族性を個別に評価


3: 対象化合物

様々な6員環ヘテロ芳香族化合物を対象とした

5員環ヘテロ芳香族化合物は、n,π*状態のエネルギーが高く、実験的に観測することが困難であるため、本研究では除外した

ヘテロ原子として、窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素、炭素(アニオン)などを含む化合物を検討した


結果

1: 6員環単一ヘテロ芳香族化合物

フェニルアニオンやシラフェニルアニオンなどの電気陰性度の低いヘテロ原子を持つ化合物は、3n,π*状態に残留芳香族性を示した

ピリジンやチオピリリウムカチオンなどの電気陰性度の高いヘテロ原子を持つ化合物は、3n,π*状態に残留反芳香族性を示した

これらの結果は、MCI、EDDB、MICD、NICSなどの様々な芳香族性/反芳香族性指標によって裏付けられた


2: 6員環二ヘテロ芳香族化合物

パラ位に2つの同一のヘテロ原子を持つ化合物(例:ピラジン)は、3n,π*状態に顕著な芳香族残留性を示した

これは、高い対称性(D2h)によりπ電子がより均一に分布するためと考えられる

他の二ヘテロ芳香族化合物では、S0状態の芳香族性、ヘテロ原子の電気陰性度、ヘテロ原子の相対位置などが、3n,π*状態の芳香族性/反芳香族性に影響を与えた


3: n,π*状態とπ,π*状態のエネルギー差

3n,π*状態の残留芳香族性が高い化合物は、3n,π*状態と3π,π*状態のエネルギー差が小さい傾向があった

特に、単一置換ピラジンでは、ΔE(3π,π*-3n,π*)とMCI(3n,π*)の間に有意な相関が認められた(R2 = 0.84)

これは、3n,π*状態の芳香族性/反芳香族性が、最低励起状態の性質に影響を与えることを示唆


考察

1: n,π*状態におけるσ/π結合効果

n,π*状態では、反芳香族的なπα成分と芳香族的なπβ成分がせめぎ合っている

電気陰性度の低いヘテロ原子と負電荷は、πβ成分の芳香族性を高め、残留芳香族性を促進する

一方、電気陰性度の高いヘテロ原子は、π電子分布を局在化させ、残留反芳香族性を促進する


2: 3n,π*状態の幾何学的緩和

3n,π*状態の幾何学的緩和は、πα成分とπβ成分のせめぎ合いによって影響を受ける

一部の化合物では、πα成分の反芳香族性とπβ成分の芳香族性が共に減少

他の化合物では、πβ成分の芳香族性がほぼ維持される一方で、πα成分の反芳香族性がわずかに減少


3: n,π*状態の芳香族性/反芳香族性の応用

アミロリド型薬剤の光分解は、反芳香族的なT1π,π*)状態からの光イオン化によって起こる

置換基によってn,π*状態とπ,π*状態のエネルギー順序を制御することで、T1状態を芳香族的なn,π*状態にすることができる

これは、光安定性の高いアミロリド型薬剤の設計に役立つ可能性がある


4: 研究の限界点

主に気相単量体におけるヘテロ芳香族化合物のn,π*状態を解析した

溶媒効果や凝集状態の影響は考慮されていない


結論

ヘテロ芳香族化合物のn,π*状態の芳香族性/反芳香族性を評価し、合理的に説明するための理論的枠組みを提示した

n,π*状態の芳香族性/反芳香族性は、最低励起状態の性質、n,π*状態とπ,π*状態のエネルギー差、分子の幾何学的構造などに影響を与えることが明らかになった


将来の展望

これらの知見は、光機能性材料や医薬品などの分野におけるヘテロ芳香族化合物の合理的設計に役立つと期待される

これらの要因を考慮したより包括的な解析


2024年11月27日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0199~

論文のタイトル: Why Are Some Pnictogen(III) Pincer Complexes Planar and Others Pyramidal?(いくつかのニクトゲン(III)ピンサー錯体が平面状であり、他がピラミッド型である理由)

著者: Tyler J. Hannah, Tamina Z. Kirsch, and Saurabh S. Chitnis

雑誌名: Chemistry—A European Journal

巻: Volume 30, Issue 57, e202402851

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1002/chem.202402851


背景

1: ニクトゲン(III)ピンサー錯体とは

ニクトゲン(III)ピンサー錯体は、3つの「X型」置換基が1つの平面につながれた三価アニオン性ピンサー配位子を持つ錯体

これらの錯体は、ニクトゲン中心で完全に平面なものから歪んだピラミッド型まで、さまざまな動的立体配座を示す

ニクトゲンピンサー錯体の高い反応性は、その幾何学的構造に起因するとされている


2: 従来の理解と課題

これらの錯体の構造は、原子価殻電子対反発 (VSEPR) 理論を用いて予測されてきた

しかし、VSEPR理論は、置換基が中心原子の周りを自由に再編成して反発を回避できることを前提としている

ニクトゲン(III)ピンサー錯体では、多座配位子によって置換基の動きが制限されるため、VSEPR理論から逸脱した構造が見られる


3: 研究の目的

さまざまな配位子とニクトゲン中心におけるニクトゲン(III)ピンサー錯体の構造多様性を説明するための統一モデルを提案

16種類の配位子と4種類の重ニクトゲンからなる64種類の錯体の計算分析を行い、実験結果を説明し、新しい予測を行う


方法

1: 計算手法

分散補正密度汎関数理論 (DFT) 計算を用いて、64種類のプニクトゲン(III)ピンサー錯体 (1-16Pn, Pn = P, As, Sb, Bi) の固有の立体配座ポテンシャルエネルギー曲面をマッピング

計算されたポテンシャルエネルギーのプロファイルの深さとその最小値の位置は、それぞれ平面またはピラミッド形状の選好の大きさと方向を反映


2: 二面角スキャン

X-Pn-Y-Z二面角に対するエネルギーを示す二面角スキャンを計算し、ピラミッド型(二面角105°–130°)または平面型(二面角175°–180°)の立体配座の相対的な安定性を示した

計算には、B3PW91(D3-BJ)レベルの汎関数、def2-svp基底系、GrimmeのD3分散補正、Becke-Johnsonダンピングを用いた


3: 電子構造解析

結合安定性(結合長、Wiberg結合次数)と非局在化(NPA電荷、Hirshfeld電荷)の特徴を調べることで、平面化を支持する配位子ベースのπ結合効果と競合する、ピラミッド化を支持するプニクトゲンベースのσ結合効果を仮定


結果

1: 二面角スキャン結果

二面角スキャンは、平面型またはピラミッド型の立体配座の相対的な安定性を示している

既知の化合物または類似化合物のうち、実験的に結晶構造が決定されている17例のうち16例で、二面角スキャンの最小値は観察された幾何学的構造を正確に反映

多くの場合、リン化合物とヒ素化合物では、両方の幾何学的構造に対してエネルギー的に近い2つの極小値が見られますが、アンチモン錯体やビスマス錯体では見られない


2: σ/π結合効果の証拠

平面形状では、中心ニクトゲンの3つの互いに垂直なp軌道のうち2つだけが3つの配位子アームと相互作用できる

3中心4電子(3-c-4-e)超原子価相互作用は、2中心2電子(2-c-2-e)電子精密相互作用よりも弱い

ニクトゲン(III)ピンサー錯体では、ヘテロ原子またはアリール環を持つ配位子とニクトゲン中心との間にπ電子非局在化が存在する可能性がある

この非局在化は、4n + 2 π電子数と一致する場合、芳香族安定化も可能に


3: ニクトゲンと配位子の特徴の影響

ニクトゲン元素の影響: 共有結合的なσ結合を強化する要因はピラミッド型を安定化させ、π結合を強化する要因は平面型を安定化させる

縮合アレーンの影響: 縮合アレーンを持つピンサー配位子では、5員環ヘテロ原子環内のπ非局在化が縮合6員環アレーンの既存の芳香族性と競合し、平面化への推進力を低下させる

骨格の繋留の影響: ピンサー配位子の骨格を繋留すると、π非局在化を増加させる幾何学的構造に事前に組み立てることで平面化が促進される


考察

1: σ/π結合効果による構造の合理化

重ニクトゲンでは、配位子との共有結合性が低下し、配位子を含む結合のイオン性が高まる

その結果、ほとんどすべての配位子において、平面性への選好はP<As<Sb<Biの順に増加する

縮合アレーンを持つ配位子では、平面構造の安定性が低下し、ピラミッド型と平面型がほぼ縮退する


2: 骨格の繋留と電子効果の影響

短い繋留はピラミッド構造を不安定化させる

平面構造では超原子価N-Pn-N相互作用がはるかに長くなる

長い繋留は、配位子の芳香環を互いに押し離すことでπ非局在化を阻害し、平面構造を不安定化させる

電子供与性または中性の繋留は平面化を支持する一方、電子求引性の繋留はピラミッド化を支持する


3: π共役の中断と二量体化の影響

π共役経路に四面体成分を持つ配位子骨格は、π非局在化を中断し、ピラミッド化を促進する

共役経路へのより重い元素の挿入も、それらの多重結合効率の低下によりπ非局在化を中断し、平面構造を不利にする

σ結合超原子価による不安定化をπ非局在化による安定化で相殺できない場合、ピラミッド構造が優先される


4: 先行研究との整合性

提案されたσ/π結合効果モデルは、実験的に観察された構造の傾向と一致している

特に、重いニクトゲンにおける平面構造の選好性、縮合アレーンによる平面性の低下、繋留による平面化の促進などが確認される


5: 研究の限界点

主に気相単量体におけるニクトゲン(III)ピンサー錯体の固有の立体配座ポテンシャルエネルギー曲面を解析した

溶媒効果や凝集状態の影響については考慮していない


結論

ニクトゲン(III)ピンサー錯体の構造多様性を説明するための統一モデルを提案した

ニクトゲンベースのσ効果と配位子ベースのπ効果の競合によって、平面型とピラミッド型の構造が決定されることを明らかにした


将来の展望

このモデルは、ニクトゲンピンサー錯体の合理的設計に役立つ可能性がある

これらの要因を考慮したより包括的なモデルの開発


2024年11月26日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0198~

論文のタイトル: Thermal Truncation of Heptamethine Cyanine Dyes(熱分解によるヘプタメチンシアニン色素の短鎖化)

著者: Jana Okorocěnkova, Josef Filgas, Nasrulla Majid Khan, Petr Slavícěk,* and Petr Klán*

雑誌名: Journal of the American Chemical Society

巻: Volume 146, Issue 28, 8785–8795

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.4c02116


背景

1: シアニン色素とその重要性

シアニン色素は、共役ポリメチン鎖を介して 2 つの窒素中心を連結した有機分子

この色素は、核酸やタンパク質の蛍光標識、光線力学療法の光増感剤、バイオセンサー、イメージング剤として広く利用

特に、近赤外蛍光を有するペンタメチン (Cy5) やヘプタメチン (Cy7) シアニン色素は、がんイメージングや標的療法への応用が期待


2: シアニン色素の合成における課題

シアニン色素の合成は、主に初期段階における複素環末端基やヘプタメチン鎖への官能基導入に依存

しかし、ポリエン鎖、特にヘプタメチン鎖のさらなる修飾は、これまで十分に研究されていなかった

シアニン誘導体の合成過程では、鎖の短縮化(切断)反応が副反応として発生することがある

そのメカニズムは体系的に解明されていない


3: 研究の目的

均一系酸塩基触媒求核置換反応を介した、ヘプタメチンシアニン (Cy7) からペンタメチン (Cy5) およびトリメチン (Cy3) シアニンへの切断反応について体系的に調査

鎖の C3' および C4' 位の置換基、複素環末端基の種類、塩基、求核剤、酸素の存在、溶媒特性、温度が切断プロセスに与える影響を明らかにする

様々な分析・分光技術を用いて鎖短縮のメカニズムを研究し、ab initio 計算によって検証することで、シアニン誘導体の合成における副反応の抑制と、対称および非対称なメソ置換 Cy5 誘導体の代替合成経路の提供


方法

1: 研究デザイン

様々な置換基を持つヘプタメチンシアニン (Cy7) を合成し、それらをインドリニウム塩や塩基存在下、様々な溶媒、温度条件で反応させた

反応混合物は、UV-vis 分光法、高速液体クロマトグラフィー (HPLC)、高分解能質量分析法 (HRMS)、核磁気共鳴 (NMR) 分析を用いて経時的に分析


2: 反応条件の検討

溶媒として、極性プロトン性溶媒であるエタノールとメタノール、非プロトン性溶媒であるアセトニトリルを用いた

塩基として、酢酸ナトリウム、t-BuOK、MeONa、DIPEA、DBU などを検討

反応温度は 50 ℃ または 80 ℃ とした


3: 分析方法

反応混合物中の生成物の定量には、HPLC を用いた

生成物の構造は、HRMS および NMR によって決定

反応中間体および副生成物は、HRMS によって同定


4: 理論計算

反応メカニズムの詳細を解明するために、量子化学計算を行った

電子エネルギー計算には、高レベル ab initio 法である DLPNO-CCSD(T)/cc-pVTZ 法を用いた

遷移状態の探索、振動数計算には、PBE0/def2-TZVP/D3BJ レベルの密度汎関数理論 (DFT) を用いた

溶媒効果は、分極連続体モデル (PCM) を用いて考慮した


結果

1: 塩基、溶媒、温度の影響

切断反応は、塩基、溶媒、温度の影響を強く受けた

高温 (≥50 ℃) および酢酸ナトリウム、DIPEA、DIPA などの塩基の化学量論量は、高い切断収率に不可欠

弱い塩基であるピリジン (pKa = 5.2) は反応を媒介せず、強い塩基である t-BuOK や MeONa は 2c の収率を大幅に低下させました。

水の非存在下では 2c の生成が促進されたが、溶液から酸素を除去しても影響はなかった


2: ヘプタメチン鎖置換基の影響

C3' 位に電子求引基 (EWG) を持つ Cy7 は、高い Cy5 収率を与えた

特に、C3' 位にフッ素またはシアノ基を有する Cy7 からは、高収率で対応する Cy5 が得られた

一方、C4' 位の置換基は切断反応に悪影響を及ぼし、検出可能な量の Cy5 生成物は得られなかった


3: Cy5 誘導体の反応性

Cy5 誘導体は、研究された条件下では Cy3 誘導体への切断を受けなかった

しかし、C3' 位に EWG を持つ Cy5 では、インドリニウム誘導体との反応により、末端インドリニウム末端基の交換が観察された

この交換反応は、C3' 位の EWG がポリエン鎖の求電子性を高め、インドリニウムの求核攻撃を受けやすくするためと考えられる


考察

1: 切断反応のメカニズム

実験結果と理論計算に基づいて、Cy7 切断反応のメカニズムを提案した 

最初のステップは、インドリニウム求核剤 4B の Cy7 ポリエン鎖への求核付加

この付加は、C4' 位で起こるのが最も有利であり、付加体 A1 が生成

A1 は DIPA によって脱プロトン化され、A2 を生成

A2 は C5' 位でプロトン化され、A3 を生成し、これが分解して 2c を生成


2: 理論計算の役割

量子化学計算は、実験結果を裏付け、反応メカニズムの理解を深める上で重要な役割を果たした

計算によって得られた活性化障壁は、実験的に観察された反応速度と一致していた

また、同定された中間体の量は、計算結果によって支持された


3: 電子求引基の影響

C3' 位の電子求引基は、ポリエン鎖の求電子性を高めることで、切断反応を促進する

これは、C4' 位への求核攻撃を容易にするためと考えられる

一方、C4' 位の置換基は、立体障害によって切断反応を阻害すると考えられる


4: Cy5 誘導体における末端基交換

C3' 位に EWG を持つ Cy5 誘導体は、末端インドリニウム末端基の交換を起こす

これは、C2' 位への求核攻撃によるものと考えられる

この反応は、Cy7 から Cy5 への変換と同様のメカニズムで進行する


5: 研究の限界点

主に非生物的条件下での切断反応を検討した

生体内でのシアニン色素の挙動を理解するためには、さらなる研究が必要 

また、溶媒効果や立体効果など、切断反応に影響を与える可能性のある他の要因については検討していない


結論

ヘプタメチンシアニン色素は、特定の条件下で切断反応を起こし、ペンタメチンシアニン色素に変換されることが明らかになった


将来の展望

この切断反応は、シアニン色素の合成や修飾における副反応を抑制するために利用できる可能性がある

シアニン色素の安定性や反応性に関する理解を深め、新たな応用開発に繋げる

2024年11月25日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0197~

論文のタイトル: Beyond Strain Release: Delocalization-Enabled Organic Reactivity

著者: Alistair J. Sterling, Russell C. Smith, Edward A. Anderson, and Fernanda Duarte

雑誌名: Journal of Organic Chemistry

巻: Volume 89, Issue 14, 9979–9989

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1021/acs.joc.4c00857


背景

1: ひずみエネルギーと有機反応性

有機反応の駆動力として、ひずみエネルギーの解放は重要な概念

特に、環状構造を持つ分子では、結合角の歪みから生じる「環ひずみ」が、分子の反応性を高める

環ひずみは、環状化合物の開環反応や付加反応などの速度を向上させるために、有機合成で広く利用されている


2: ひずみエネルギーだけでは説明できない反応性

しかし、ひずみエネルギーの大きさだけでは、有機分子の反応性を完全に予測することはできない

例えば、シクロプロパンとシクロブタンはほぼ同じ環ひずみエネルギーを持っていますが、開環反応に対する反応性には大きな差がある

シクロプロパンはシクロブタンよりもはるかに速く開環反応を起こす


3: 研究の目的

ひずみエネルギーに加えて、「電子非局在化が有機分子の反応性に大きな影響を与える」ことを示す

特に、エポキシド、アジリジン、プロペランなどの3員環を含む分子や、ひずみ駆動型の環化付加反応において、電子非局在化が反応性を高める、あるいは支配的な要因となることを明らかにする

これらの知見に基づき、有機合成、医薬品化学、高分子科学、生体共役化学などでよく見られるひずみを持つビルディングブロックを含む反応の活性化障壁を正確に予測するための「経験則」を提案する


方法

1: 研究対象

炭化水素、複素環化合物、シクロアルキン、シクロアルケンなどの様々なひずみを持つ分子を対象に、電子非局在化と反応性の関係を調査

具体的には、メチルラジカルの付加反応やアミドアニオンの求核付加反応、アジド-アルキン環化付加反応などを計算化学的手法を用いて解析


2: 計算化学的手法

分子構造の最適化、エネルギー計算、電子状態解析には、密度汎関数理論(DFT)を利用

また、結合の非局在化の程度を定量化するために、自然結合軌道(NBO)解析と電子局在化関数(ELF)を利用

さらに、反応の活性化障壁を予測するために、マーカス理論とベル-エバンス-ポランニー(BEP)原理に基づく線形自由エネルギー関係(LFER)を構築


3: ひずみエネルギーの算出

各分子のひずみエネルギーは、適切な参照化合物とのエネルギー差から算出

例えば、シクロプロパンのひずみエネルギーは、プロパンとのエネルギー差から求めた


結果

1: 3員環化合物の開環反応における非局在化

メチルラジカルの付加反応において、シクロプロパンはシクロブタンよりも活性化障壁が有意に低い

これは、シクロプロパンのC-C結合がシクロブタンよりも非局在化しているためと考えられる

シクロプロパンでは、σ結合が隣接するσ*軌道に電子を供与することで、電子が環全体に非局在化している

この非局在化は、遷移状態の安定化に寄与し、活性化障壁を低下させる


2: 複素環化合物における非局在化の影響

エチレンオキシドやアジリジンなどの3員環複素環化合物も、対応する4員環化合物よりも高い反応性を示した

これは、3員環構造における電子非局在化によって説明できる

特に、リンや硫黄などの第3周期元素を含む複素環化合物は、第2周期元素を含む化合物よりも非局在化の影響を受けやすく、反応性が高くなることが予測された。


3: 環化付加反応における非局在化

ひずみ促進型アジド-アルキン環化付加反応においても、電子非局在化が重要な役割を果たすことが示された

例えば、ジベンゾシクロオクチンは、親シクロオクチンよりもひずみエネルギーが低いにもかかわらず、高い反応性を示す

これは、ベンゼン環のπ共役による電子非局在化が、遷移状態を安定化させるためと考えられる


考察

1: 電子非局在化と反応性の関係

結合の非局在化の程度が、有機分子の反応性を予測するための重要な指標となることを示す

ひずみエネルギーが高い分子ほど反応性が高いという一般的な理解に加えて、電子非局在化も考慮することで、より正確な反応性予測が可能


2: 非局在化の定量的評価

NBO解析やELF解析を用いて、結合の非局在化を定量的に評価した

これらの指標を用いることで、異なる分子間や異なる反応間で、非局在化の影響を比較検討することが可能


3: 経験則の提案

本研究の結果に基づき、2つの分子の間の反応性差を予測するための簡単な経験則を提案

この経験則は、ひずみエネルギーの差と、切断される結合に縮合した3員環の数の差を考慮した


4: 経験則の適用例

この経験則は、ビシクロ[1.1.0]ブタン、ビシクロ[2.1.0]ペンタン、[1.1.1]プロペランなどの分子のラジカル付加反応に対する相対的な反応性を正しく予測することができた

また、ビシクロ[1.1.0]ブタンとビシクロ[2.1.0]ペンタンスルホンのアミン付加反応においても、実験結果とよく一致する予測が得られた


5: 研究の限界点

主に気相中での反応を対象としており、溶媒効果や立体効果などは考慮していない

より正確な反応性予測のためには、これらの要素を含めたモデルの開発が必要


結論

電子非局在化が有機分子の反応性に大きな影響を与えることを明らかにした

提案された経験則は、ひずみを持つ分子を含む反応の設計や最適化に役立つ可能性がある


将来の展望

溶媒効果や立体効果などを考慮した、より精度の高いモデルの開発


用語集

ひずみエネルギー: 分子の構造が理想的な結合角や結合距離からずれることによって生じるエネルギー

電子非局在化: 電子が特定の原子や結合に局在化せず、分子全体に広がっている状態

3員環: 3つの原子からなる環状構造

環化付加反応: 2つの分子が結合して環状構造を形成する反応

密度汎関数理論 (DFT): 分子の電子状態を計算するための理論

自然結合軌道 (NBO) 解析: 分子の電子構造を局在化した軌道で表現する手法

電子局在化関数 (ELF): 電子の局在化の程度を表す関数

マーカス理論: 電子移動反応の速度論を記述する理論

ベル-エバンス-ポランニー (BEP) 原理: 反応の活性化エネルギーと反応熱の関係を表す原理

2024年11月24日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0196~

論文のタイトル: s-Block Metal Base-Catalyzed Synthesis of Sterically Encumbered Derivatives of Ethane-1,2-diyl-bis(diphenylphosphane oxide) (dppeO2)(sブロック金属塩基触媒による嵩高いエタン-1,2-ジイル誘導体の合成)

著者: Benjamin E. Fener, Philipp Schüler, Felix E. Pröhl, Helmar Görls, Phil Liebing, and Matthias Westerhausen

雑誌名: Organometallics

巻: Volume 43, Issue 10, 1095–1109

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1021/acs.organomet.4c00052


背景

1: 有機リン化合物の重要性

有機リン化合物は、生物活性天然物、医薬品、農薬、難燃剤など、幅広い分野で重要な役割を果たしている

ホスフィン (PR3) およびビス(ホスフィン) (R2P-X-PR2) は、その柔らかさと強いσ供与能のため、均一系触媒に使用される遷移金属錯体の配位子として広く応用されている 

リン原子に結合した置換基を変えることで、ホスフィンの電子的性質(トルマン電子パラメータを参照)と立体的性質(トルマンコーン角を参照)の両方を調整できることが大きな利点 

その結果、ホスフィン配位子を持つ遷移金属錯体の反応性を精密に調整することができる


2: 嵩高いエタン-1,2-ジイル誘導体の合成における課題

酸化されたホスフィン (ホスフィンオキシド O=PR3) は、より硬い金属カチオン (例えば、Ti4+、Zn2+、La3+) の配位子として、その性質が上記と同じ原理で調整できるため、ますます重要 

しかし、嵩高い誘導体は合成が非常に限られているため、文献に記載されている例は少ない 

1,2-ビス(ジオルガニルホスファニル)エタン (diphos) 合成の一般的な出発点は、1,2-ビス(ジクロロホスファニル)エタンであり、これはグリニャール試薬または有機リチウム化合物と反応して適切なジホス誘導体になる 

しかし、前駆体化合物の合成には、過酷な反応条件と、酸素と水を厳密に排除した取り扱いが必要となる


3: 研究の目的

既存の合成法は、副生成物の生成による原子効率の低さ、毒性の高い遷移金属化合物の使用、高い反応温度や長い反応時間、フェニルよりも大きな置換基の収率の低さなど、深刻な欠点がある

したがって、効率的な代替合成法の開発が切望されている

sブロック金属塩基触媒によるPudovik反応の概念を、嵩高い2級ホスフィンオキシドのシリル化アセチレンおよびin situ生成アセチレン (カルシウムアセチリドから) への付加へと拡張することを目的とした

これにより、これまで注目されていなかった嵩高いエタン-1,2-ジイルビス(ジアリールホスフィンオキシド)(広く応用されているジホスファミリーのビス(ホスフィン)の酸化された類縁体)の簡便で高収率な合成戦略を提供


方法

1: 研究デザイン

sブロック金属塩基触媒を用いたPudovik反応という新しい合成法を開発

この反応は、嵩高い2級ホスフィンオキシドを、シリル化アセチレン、またはin situ生成アセチレン(カルシウムアセチリドから)に付加させるもの


2: 反応条件の最適化

反応溶媒、触媒量、トリメチルシリルアセチレンの当量数など、様々な反応条件を検討

エーテル系溶媒、高い触媒量、過剰量のトリメチルシリルアセチレンが、高収率を得るために有利


3: 基質適用範囲の調査

様々な2級ホスフィンオキシドを用いて、開発した合成法の適用範囲を調査

アリール環のオルト位に少なくとも1つのアルキル置換基を持つ基質は、対応するエタン-1,2-ジイルビス(ホスフィンオキシド)を高収率で生成する


4: 生成物の分析

得られた生成物を、NMR分光法、単結晶X線回折などを用いて分析し、構造を確認

また、DFT計算を用いて反応機構を検討し、実験結果を裏付けた


結果

1: 反応溶媒の影響

反応溶媒の極性が高いほど、収率が向上する傾向が見られた

特に、アセトニトリルは優れた溶媒であり、1時間後にはほぼ完全な変換 (92%) を達成した


2: 触媒量とトリメチルシリルアセチレン当量数の影響

触媒量が多いほど、反応速度が速くなる

また、トリメチルシリルアセチレンの当量数が多いほど、反応速度が向上した


3: 基質適用範囲

アリール環のオルト位にアルキル置換基を持つ2級ホスフィンオキシドは、目的の生成物を高収率で与えた

一方、オルト位が置換されていない基質では、異なる反応経路が進行し、目的の生成物は得られなかった


考察

1: 反応機構

DFT計算に基づいた反応機構を提案した

反応は、まずトリメチルシリルアセチレンからカリウムホスフィナイト種へのシリル移動によってアセチレンが生成されることから始まる

次に、嵩高いカリウムホスフィナイト Ar*2P−O−K がアセチレンを攻撃する

この反応シーケンスを繰り返すことで、予想外の嵩高いジホス誘導体 Ar*2P(O)−C2H4−P(O)-Ar*2 が得られる


2: 立体障害の影響

アリール環のオルト位にアルキル置換基が存在することで、求核剤がリン原子に近づくのを立体的に妨げ、目的の反応経路を促進していると考えられる

一方、オルト位が置換されていない基質では、求核剤がリン原子を攻撃しやすいため、異なる反応生成物が得られる


3: sブロック金属の影響

重いアルカリ金属 (K-Cs) は、リチウムやナトリウムの同族体よりも効率的に反応を触媒した

これは、金属イオンの柔らかさと分極率が反応速度に影響を与えていることを示唆


4: NMR分光法による反応追跡

NMR分光法を用いることで、反応中間体や生成物を同定し、反応機構を詳細に検討できた

特に、アセチレンの生成と消費、O-トリメチルシリルホスフィナイトの生成と変換などを確認した


5: カルシウムアセチリドを用いた合成法

トリメチルシリルアセチレンの代わりに、カルシウムアセチリドをアセチレン源として用いることで、より安全かつ簡便に目的の生成物を合成できた

この反応では、超塩基性条件下で、カルシウムアセチリドと2級ホスフィンオキシドが反応し、エタン-1,2-ジイルビス(ジアリールホスフィンオキシド)誘導体が生成


結論

sブロック金属塩基触媒を用いることで、嵩高いエタン-1,2-ジイルビス(ジアリールホスフィンオキシド)誘導体を効率的に合成する新しい方法を開発

この方法は、従来法と比較して、原子効率が高く、毒性の高い試薬を使用しない点で優れている

また、カルシウムアセチリドを用いた合成法は、より安全かつ簡便な方法として期待される 


将来の展望

本合成法を他の基質へ展開し、さらなる高機能な有機リン化合物の開発


用語集

sブロック金属: 周期表の1族と2族に属する金属元素

ホスフィン: リン原子に3つの有機基が結合した化合物

ホスフィンオキシド: ホスフィンのリン原子が酸素原子と二重結合した化合物

Pudovik反応: ホスフィンオキシドのP-H結合を不飽和結合に付加させる反応

DFT計算: 分子の電子状態やエネルギーなどを計算する手法

NMR分光法: 原子核の磁気的な性質を利用して、分子の構造を解析する手法

単結晶X線回折: 結晶にX線を照射し、回折パターンを解析することで結晶構造を決定する手法

超塩基性条件: 非常に強い塩基性を示す条件 

2024年11月23日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0195~

論文のタイトル: Effect of [n]-Helicene Length on Crystal Packing([n]ヘリセンの長さが結晶充填に及ぼす影響)

著者: Julia A. Schmidt, Emma H. Wolpert, Grace M. Sparrow, Erin R. Johnson, and Kim E. Jelfs

雑誌名: Crystal Growth & Design

巻: Volume 23, Issue 12, 8909−8917

出版年: 2023

DOI: https://doi.org/10.1021/acs.cgd.3c00964


背景

1: 有機半導体の可能性

有機半導体 (OSC) は、従来の無機半導体と比較して、低コストで環境に優しい代替材料として注目されている

OSCは柔軟性と生分解性を備えており、フレキシブルディスプレイ、生分解性エレクトロニクス、エネルギーハーベスティングスマート材料など、新しい機能を持つ半導体材料への応用が期待されている

デバイスの性能は、電荷キャリアが分子間を移動する容易さに大きく依存し、これは分子の固体状態の配置によって決まる


2: キラリティの導入

OSCにキラリティを導入すると、偏光選択性光検出器、キラルスイッチ、室温スピントロニクスデバイスなど、さらなる機能を追加できる

ヘリセンは、高いキラル光学応答、電荷輸送特性、室温での電子スピンフィルター能力により、新しい有機エレクトロニクス技術を設計するための有望な化合物

キラリティは固体状態の形成にさらなる複雑さを加える

キラル化合物は、電子輸送特性が大きく異なるエナンチオピュア結晶とラセミ結晶の両方を形成できる


3: ヘリセンにおける課題

ヘリセンは分子パッキングとそれが性能に与える影響が十分に理解されていないため、電子デバイスへの応用はまだ初期段階にある

分子構造と光電子特性の間の相互作用をより深く理解するために、窒素原子の位置を変えることによる影響をアザヘリセンで調査

置換ヘリセンのスクリーニングにより、OSC性能指標を最大化する上でフッ素化ヘリセンが最も有望であることが明らかに

非置換ヘリセンの高い電荷移動度を超えることは困難


方法

1: 結晶構造予測 (CSP)

ナフタレンと-ヘリセン分子は、Gaussian 16を用いてB3LYP/6-31G(d,p)レベルで構造最適化

CrystalPredictor IIソフトウェアパッケージを用いて、多形領域内で最大20 kJ mol⁻¹のエネルギー範囲にわたる仮説的な結晶構造を生成しました。

計算コストを抑制するため、分子は剛体として扱われ、探索は非対称単位中の分子が1つだけ (Z' = 1) に制限


2: 計算の詳細

CrystalPredictorから得られた暫定的な結晶構造は、DMACRYS内で分布多重極とW99パラメータを用いて緩和された

最小値の10 kJ mol⁻¹以内の力場最適化構造のサブセットを、FHI-aimsプログラムを用いた密度汎関数理論 (DFT) を用いて完全に緩和し、再ランク付けした

DFT計算では、B86bPBE汎関数と交換ホール双極子モーメント (XDM) 分散モデルを使用し、「light」基底関数系と「tight」積分グリッドを使用


3: 結晶パッキング解析

結晶パッキング解析は、π-πスタッキング相互作用の解析のために開発されたオープンソースのPythonモジュールCRYSTACKを用いて行った

解析は、4×4×4のスーパーセルを構築し、中心分子を取り、最初の隣接シェル内の分子との分子間相互作用を計算することによって行った

各結晶について、ヘリセン骨格の芳香環がπ-π相互作用に関与する割合を計算することで、π-πスタッキングの程度を評価した


結果

1: 実験との比較

CSPランドスケープは、実験的に既知の結晶構造のほとんどを再現することができた

再現できなかった例 (ヘリセン、ヘリセン、ヘリセン、ヘリセン) では、実験構造はインターグロース (交互に反対のエナンチオマーの層を含むヘリセンなど) であったか、非対称単位中の分子数が多かった

実験的に実現されたZ'=1構造の場合、B86bPBE-XDM計算は、ランドスケープ内の最低エネルギーZ'=1多形として正しく同定された


2: ヘリセン長さと多形性の関係

CSP探索の結果、得られた安定な多形の数はヘリセンの長さが長くなるにつれて減少する

これは、分子のらせん形状が長くなるほど、ポテンシャルエネルギー面が急勾配になるためと考えられる

多形の数の最も顕著な減少は、芳香環の数を4から6に増やした場合に起こる

これは、ヘリセンからヘリセンへの分子の形状変化に起因すると考えられる


3: π-πスタッキング相互作用の傾向

πスタッキング相互作用と格子エネルギーの関係を調べるため、各鎖長についてピアソン相関係数を計算した

結果は、ほとんどのnの値について、π-πスタッキング相互作用と結晶格子エネルギーの間に直接的ではあるが弱い関係があることを明らかにした

鎖長がナフタレンからヘリセンまで長くなると、π-πスタッキングはそれほど不利ではなくなり、格子エネルギーとπ-πスタッキング相互作用の間に識別可能な相関関係がなくなる


考察

1: ヘリセン長さとパッキングモチーフ

エナンチオピュア構造では、ヘリセンはヘリンボーン型パッキングと、文献で確立された隣接する並進鎖と同様のヘリセンの並進鎖の両方を示す

一方、ヘリセンは、ヘリセンのCSPランドスケープに見られるパッキングモチーフを示さない

ヘリセンは、インターロックされたペアの鎖が支配的ですが、n > 8では、このパッキング挙動が変化し、隣接するヘリセン間のインターロックが少なくなる


2: π-πスタッキングと分子形状

ヘリセンのピアソン相関係数が低いことは、π-πスタッキングと格子エネルギーの間にほとんど相関関係がないことを示唆しており、したがって、π-π相互作用は有利でも不利でもない

他のnの値に対するピアソン相関係数が高いことに比べて、分子形状が均一でない場合、πスタッキングはそれほど不利ではないことを示唆

この傾向は、ヘリセンのCSPランドスケープにおける多形が比較的少ないという最初の観察結果と一致


3: 研究の限界

Z'=1の構造のみに焦点を当てており、Z'>1の構造は考慮していない


結論

CSPを用いて、ナフタレンおよびn = 3-12の[n]ヘリセンについて、ヘリセン長がポリモルフィズムと分子間相互作用に及ぼす影響を調査した

ヘリセンの長さと形状が、結晶パッキング挙動とπ-πスタッキング相互作用の傾向に大きな影響を与えることを示した

特に、ヘリセンの最も安定な多形は、高いホール移動度を持つ可能性のあるパッキングモチーフを示しており、これは効率的な電荷輸送とデバイス性能の向上を示唆


将来の展望

Z'>1の構造を考慮することで、実験的に実現された構造をより正確に予測する

用語集

有機半導体 (OSC): 電気を通すことができる有機材料

キラリティ: 分子が鏡像と重ね合わせることができない性質

エナンチオピュア: 1つのエナンチオマーのみを含む物質

ラセミ体: 2つのエナンチオマーを等量含む物質

結晶構造予測 (CSP): 分子の結晶構造を計算によって予測する手法

π-πスタッキング相互作用: 芳香環間の相互作用

ポリモルフィズム: 同じ化学組成を持つ物質が複数の結晶構造をとることができる現象

ヘリンボーン型パッキング: 分子がジグザグパターンで配置されるパッキングモチーフ

2024年11月22日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0194~

論文のタイトル: New Facile Synthesis of Adamantyl Isothiocyanates(アダマンチルイソチオシアネートの新規合成法の開発)

著者: Vladimir Burmistrov  , Dmitry Pitushkin , Gennady Butov*

雑誌名: SynOpen 

巻: Volume 01, Issue 01, 121-124

出版年: 2017

DOI: https://doi.org/10.1055/s-0036-1588574


背景

1: 研究の意義(アダマンチルイソチオシアネートの重要性)

生物活性化合物の合成における重要な前駆体

可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤の開発に有用

ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子の阻害剤として期待

医薬品化学で広く使用される尿素類への変換が可能


2: 従来法の課題(既存合成法の問題点)

腐食性または有毒な試薬の使用が必要

CS2とNaOHを使用する方法の危険性

チオホスゲンとCaCO3を用いる方法の毒性

触媒を必要とする現代的手法の複雑さ

単純で効果的な合成法の欠如


方法

1: 新規合成法(合成手法の概要)

フェニルイソチオシアネートとアダマンチルアミンの反応

溶媒としてp-キシレンを使用

還流条件下で3時間反応

室温まで冷却後、濃塩酸で処理

生成物の単離・精製


結果

1: 反応条件の最適化

p-キシレン中での還流が最も高収率

反応温度は還流温度が最適

試薬比率は1:2(アミン:イソチオシアネート)が効果的

非極性溶媒中での反応が有利

塩基性溶媒では収率が低下


2: 各種アダマンチルイソチオシアネートの合成例と収率

1-アダマンチルイソチオシアネート:95%

3,5-ジメチルアダマンチルイソチオシアネート:80%

3,5,7-トリメチルアダマンチルイソチオシアネート:75%

2-アダマンチルイソチオシアネート:92%


考察

1: 反応機構の考察

チオウレア中間体の形成

フェニルイソチオシアネートによる機能基交換

溶媒の極性が反応に影響

チオウレアの溶解性が重要

反応の選択性が高い


結論

簡便な新規合成法の確立

触媒不要での高収率達成

穏和な条件下での反応

様々な置換基を持つ誘導体の合成が可能


将来の展望

医薬品開発への応用

Catch Key Points of a Paper ~0193~

論文のタイトル: On the Synthesis and Structure of ‘Naked’ Ga(I) and In(I) Salts and the Surprising Stability of Simple Ga(I) and In(I) Salts in the Coordinating Solvents Ether and Acetonitrile(‘Naked’ Ga(I)およびIn(I)塩の合成と構造、そして配位性溶媒エーテルおよびアセトニトリル中での単純なGa(I)およびIn(I)塩の驚くべき安定性)

著者: Antoine Barthélemy, Dr. Harald Scherer, Hanna Weller, Prof. Dr. Ingo Krossing

雑誌名: Chemistry – A European Journal 

巻: Volume 30, Issue 35, e202400897

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1002/anie.202315064


背景

1: 研究背景

これまで、配位力の弱いアニオン (WCA) の塩として知られる真に‘Naked’、すなわち溶媒や配位子が付いていない金属イオンはごくわずかしか知られていない

これらのイオンを含む塩は、例えば、ディールス・アルダー反応、オレフィンのヒドロシリル化、CO2還元、イソブチレンの重合など、従来の金属イオン源と比較して、反応性や触媒活性を高めていることが知られている

この反応性の高さは、金属イオンの周りの配位圏が不飽和であることに起因しており、ルイス酸性度と酸化力を高めている


2: 研究課題

一価ガリウム(Ga(I))とインジウム(In(I))は、電荷密度の高い小さなアニオンの存在下では、三価(M(III))とゼロ価(M(0))に不均化しやすい性質がある

このため、一価ガリウムやインジウムの塩を扱う場合、WCAを用いることが必須

しかし、非無垢配位子や強いσ供与性配位子は、低原子価のM(I)の不均化を誘導する傾向がある


3: 研究目的

本研究では、配位性溶媒であるジエチルエーテルおよびアセトニトリル中でも、非常に大きな[pf]⁻ = [Al(ORF)4]⁻; RF = C(CF3)3 アニオン (V⁻ ≈ 0.75 nm3) と組み合わせると、Ga(I)が驚くほど安定であることを示す

さらに、あらゆる系にGa(I)とIn(I)を導入するための出発物質となりうる、溶媒フリーの‘Naked’ Ga[pf]およびIn[pf]塩への合成経路を提示する


方法

1: 合成方法

Ga[pf]は、極性が高く (εr = 22.1, 25℃)、配位性が非常に弱い溶媒である1,2,3-F3C6H3 (3FB) 中で、Ga⁰をAg[pf]で酸化することにより合成

In[pf]は、[In(PhF)2][pf]の1,2,3,4-F4C6H2 (4FB; εr = 12.6) 濃縮溶液にn-ペンタンを積層することにより合成

[M(MeCN)2][pf]と[M(OEt2)2][pf] (M = Ga, In) は、[M(PhF)2][pf]をオルト‐ジフルオロベンゼン(oDFB)中で化学量論量の2当量の配位子と反応させることによって合成


2: 分析方法

単結晶X線回折 (scXRD)

粉末X線回折

核磁気共鳴分光法 (NMR)

赤外分光法 (IR)

ラマン分光法

量子化学計算 (QTAIM電荷計算、フロンティア分子軌道計算、熱力学計算)

Hirshfeld解析


結果

1: Ga[pf] と In[pf] の構造

Ga[pf]では、Ga⁺イオンは、3つの-OC(CF3)3基の5つのフッ素原子と3つの酸素原子によって弱く配位される

In[pf]では、2つの結晶学的に独立した‘Naked’ In⁺カチオンが存在し、それぞれが4つの[pf]⁻アニオンと相互作用する

In[pf]ではIn⁺と酸素原子の間に接触がないのに対し、Ga[pf]ではGa⁺と酸素原子の間に接触が見られる


2: 配位性溶媒中での安定性

[M(PhF)2][pf] (M = Ga, In) のMeCNおよびOEt2溶液は、数週間後も不均化の兆候を示さなかった

⁷¹Ga NMRおよび¹¹⁵In NMRの化学シフトは、[M(PhF)2][pf]を純粋なMeCNおよびOEt2に溶解した場合と、[M(L)2][pf] (L = MeCN, OEt2)をoDFBに溶解した場合で類似しており、遊離配位子と比較して有意に低磁場シフトしている


3: [M(MeCN)2][pf] と [M(OEt2)2][pf] の構造

[M(MeCN)2]⁺および[M(OEt2)2]⁺錯体カチオンは、これまでに報告されているGa(I)/ニトリル錯体またはM(I)/ジエチルエーテル錯体 (M = Ga, In) の最初の例

錯体カチオンのHOMOとLUMOは主にガリウム中心であり、それぞれ高いs性とp性を持ち、[M(ligand)2]⁺錯体のカルベノイドまたはシリレンのような両性の特徴


考察

1: Ga[pf]とIn[pf]の構造の違い

Ga[pf]ではGa⁺イオンが酸素原子とも相互作用しているのに対し、In[pf]では相互作用が見られないのは、In⁺カチオンの方がサイズが大きく、ルイス酸性度が低いため

In[pf]は固体状態では、[pf]⁻アニオンがわずかに歪んだ立方最密充填を形成しており、In⁺カチオンは、厳密な交互配置で四面体サイトの半分を占有


2: 配位性溶媒中での安定性

MeCNおよびOEt2はPhFよりもわずかに強い電子供与体であるため、[M(PhF)(L)2-3]⁺ (L = MeCN または OEt2) 型のアレーン錯体は形成されない

計算によると、[MLn]⁺ (n = 2–4) 型の錯体は、溶液中では同じ配位子Lに対して同様に安定

溶媒和していない塩から決定されたIn(I)のイオン半径 (約160 pm) は、ゼオライト構造から決定された値 (123 pm) よりも有意に大きい


3: 単量体錯体の形成

[M(L)2]⁺錯体のHOMO-LUMOギャップと形式的な金属カチオン上の電荷は、二量体またはオリゴマー化することが知られているGa⁺フラグメントよりもかなり大きい

これらの値が高いことは、フラグメントの大きなHOMO-LUMOギャップと金属イオン上の高い正電荷の両方によってM-M結合の形成が妨げられていることを示しており、MeCNとOEt2はGa⁺とIn⁺カチオンに対して十分に強い電子供与体ではないことを意味する


4: 先行研究との関連

以前の研究では、強いσ供与体であるDMAP やtBuNC の存在下では、多カチオン性[{Ga(L)2}n]ⁿ⁺クラスター (n = 4–5) が形成されることが観察されている

これは、配位子がカルベン類似の[Ga(L)2]⁺部分を中間的に形成するように誘導し、Ga(I)-Ga(I)結合の形成を妨げない程度に立体的に混雑していない場合にのみ起こる


5: 研究の限界

OEt2とMeCNの配位子についてのみ検討しており、他の配位子については検討していない


結論

本研究では、配位力の弱い[pf]⁻アニオンを用いて、真に‘Naked’溶媒フリーのGa(I)およびIn(I)塩を高純度で単離することに成功

また、一般的に信じられていることに反して、一価のガリウムとインジウムのカチオンは、強い配位性溶媒であるMeCNとOEt2の溶液中でも数週間驚くほど安定であることが示された

これらの知見は、合成や触媒作用におけるGa(I)[pf]とIn(I)[pf]の利用に向けたさらなる研究を促進する


将来の展望

他の配位子を用いた場合のGa(I)とIn(I)の安定性を調べる


用語集

WCA: Weakly Coordinating Anion (配位力の弱いアニオン)

[pf]⁻: [Al(ORF)₄]⁻ (RF = C(CF₃)₃)

HOMO: Highest Occupied Molecular Orbital (最高被占軌道)

LUMO: Lowest Unoccupied Molecular Orbital (最低空軌道)

QTAIM: Quantum Theory of Atoms in Molecules (分子中の原子に対する量子論)

scXRD: single crystal X-ray diffraction (単結晶X線回折)

NMR: Nuclear Magnetic Resonance (核磁気共鳴)

IR: Infrared spectroscopy (赤外分光法)

2024年11月20日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0192~

論文のタイトル: Dimethyl Cyclohexanone-2,6-Dicarboxylate(ジメチル シクロヘキサノン-2,6-ジカルボキシレートの合成法)

著者: S. N. Balasubrahmanyam and M. Balasubramanian

雑誌名: Organic Syntheses

巻: Volume49, 56

出版年: 1969

DOI: https://doi.org/10.15227/orgsyn.049.0056


背景

1: 研究背景

シクロヘキサノン誘導体の合成は有機合成化学において重要

既存の合成法は主に2つの方法が知られている

ジメチルアセトンジカルボキシレートのアルキル化

シクロヘキサノンのカルボキシル化

活性メチレン化合物のカルボキシル化の新しい一般的手法が必要


2: 合成法の特徴

マグネシウムエノレートを利用した合成法

キレート効果による安定化が特徴

隣接するカルボキシレートアニオンとの相互作用

高い選択性と効率性を実現


方法

1: 合成の主要工程

マグネシウムリボンとメタノールの反応

ジメチルホルムアミド中での二酸化炭素の導入

シクロヘキサノンの添加と反応

塩化水素処理による最終生成物の取得


2: 重要な実験条件

反応は窒素雰囲気下で実施

温度管理が重要(0-55℃の範囲)

溶媒の純度管理が必須

反応時間の厳密な制御が必要


結果

1: 合成の結果

白色針状結晶として単離

融点: 128-132℃

収率: 44-45%(19.3-19.7 g)

追加の粗生成物: 2.2-2.5 g(m.p. 122-128℃)


2: 生成物の特性

分子量: 214(質量分析より)

UV吸収: 255 mμ(エタノール中)

IR吸収: 1750, 1712, 1675, 1610 cm⁻¹

cis体とtrans体の混合物として得られる


考察

1: 合成法の利点

活性メチレン化合物の一般的カルボキシル化法として有用

ケトン、ニトロ基、アミド基で活性化された化合物に適用可能

反応条件が穏やか

スケールアップが可能


2: 課題と制限

シクロペンタノンでは純粋なケトジエステルが得られない

原料と試薬の比率が重要(1:8が最適)

異性体混合物として得られる


結論

新規カルボキシル化法の確立

中程度の収率で目的物を取得

様々な活性メチレン化合物に適用可能


将来の展望

工業的応用

2024年11月19日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0191~

論文のタイトル: Intramolecular Triplet Diffusion Facilitates Triplet Dissociation in a Pentacene Hexamer(ペンタセン6量体における分子内三重項拡散による三重項解離の促進)

著者: Phillip M. Greißel, Dominik Thiel, Henrik Gotfredsen, Lan Chen, Marcel Krug, Ilias Papadopoulos, Mark Miskolzie, Tomás Torres, Timothy Clark, Mogens Brøndsted Nielsen, Rik R. Tykwinski,* and Dirk M. Guldi*

雑誌名: Angewandte Chemie International Edition 

巻: Volume63, Issue8, e202315064

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1002/anie.202315064


背景

1: 太陽エネルギー変換におけるシングレットフィッション

太陽エネルギー変換は、熱化などの固有の損失プロセスにより効率が制限

従来の単接合太陽電池では、損失により全体の効率は詳細釣り合い限界と呼ばれる約33%の上限に制限

これらの損失を最小限に抑え、太陽電池の効率を高めることが強く求められている

高エネルギー光子のダウンコンバージョンは、エネルギー損失を削減する方法の1つ

分子レベルでは、MEGの対応するアナログはシングレットフィッション(SF)として知られている


2: シングレットフィッションの概要

SFは、1つの発色団の1つの励起一重項状態(S1)を、2つの発色団にまたがる2つの独立した励起三重項状態(T1 + T1)に変換するプロセスを伴う

原理的には、SFは光電流生成の倍増が可能

SFは太陽エネルギー利用に大きな可能性を提供し、太陽光発電にSF材料を実装することで、従来のシリコンベースの太陽電池の現在の限界を克服できる可能性がある


3: シングレットフィッションの課題

分子内SF(i-SF)に依存する材料はデバイスへの統合が容易であるが、効率的な三重項-三重項消滅(TTA)に悩まされる。

その結果、長寿命の励起三重項状態を生成することができず、半導体への効率的な電荷キャリア注入が損なわれる。

励起三重項状態の寿命を延ばすために、電子結合を調整することでTTAによる損失を減らすことができる。


方法

1: 研究デザイン

本研究では、分子内シングレットフィッション(i-SF)における相関三重項対1T1T1)の迅速な形成と、自由三重項T1 + T1への効率的な分離という課題を克服するための分子システムHexPncを提示

HexPncは、中心のC3対称サブフタロシアニン(SubPc)コアに結合した3つのペンタセン二量体を組み合わせた樹状構造

各ペンタセン二量体には、高速i-SFを実現し、1T1T1)を効率的に形成するための好ましいペンタセン配置を確保するために、メタフェニレンスペーサーが含まれる


2: 分光学的参照化合物

HexPncの光物理を理解するために、その挙動をDiPncの挙動と対比

DiPncは、赤道位置でSubPcに結合した単一のメタフェニレンペンタセン二量体に制限されており、したがって、対の両方の三重項が二量体に閉じ込められているため、1T1T1)の空間的分離を促進することは不可能

SubPcは、DiPncにおいて分子内フェルスター共鳴エネルギー移動(i-FRET)を介してi-SFのための効率的な集光アンテナおよび増感剤として機能する

すべての証拠は、SubPcがHexPncでも同様の方法で動作し、SubPc吸収とその後のペンタセン二量体へのエネルギー移動を通じてi-SF応答を強化していることを示している


3: 実験手法

HexPncにおける三重項生成と失活を解明するために、超高速過渡吸収分光法、速度論モデリング、および量子化学計算を用いた。

量子化学計算は、HexPncの非対称立体配座体の光物理的関与を支持

この立体配座体では、2つのペンタセン二量体部分が分子内クラスターを形成するために相互作用し、3番目のペンタセン二量体は孤立


4: 計算手法

HexPncは、拡張システムにおける三重項拡散のi-SF性能への影響、特に1T1T1)の経路を確立するための合成モデルシステムを構成

これらの発見は、i-SF三重項ダイナミクスの理解を実用アプリケーションにおけるi-SF材料の実装の前提条件である凝縮状態(固体、フィルムなど)における三重項拡散の促進という最終目標と関連付く


結果

1: 定常状態分光法

トルエンとベンゾニトリルの両方で定常状態吸収実験を実施

どちらの溶媒でも、DiPncの吸収スペクトルは、個々の成分のほぼ線形重ね合わせ

HexPncの吸収の特徴は、DiPncの吸収の特徴とは対照的で、アセチレン-π-リンカー-アセチレン部分を採用した溶液中のペンタセン誘導体の特徴である吸収の振動微細構造を反映していない

代わりに、HexPncの吸収スペクトルは、ドロップキャストされた6-13-ビス(トリイソブチルシリルエチニル)ペンタセン(TIBS-Pnc)のフィルムの特徴を強く反映している


2: HexPncの基底状態相互作用

HexPncの振動微細構造は、TIBS-Pnc2と比較して解像度が低く、0–0 *バンドに対するペンタセン中心の0–1 *遷移の振動子強度が大きく(H型凝集の特徴)、広がって見える

SubPc部分からの寄与はほとんど見分けられない

全体として、強い基底状態相互作用が存在することが推測され、これらの特徴が濃度非依存性であることを考えると、分子内ペンタセンスタッキングに由来すると推測される


3: 励起三重項状態ダイナミクス

フェムト秒過渡吸収(fsTA)実験を最初に実施して、ペンタセン関連のダイナミクス、つまり、三重項進化のダイナミクスを含むi-SFの初期段階を明らかにした

DiPncとHexPncのダイナミクスは、一見すると非常に似ている

どちらの溶媒でも、ペンタセンの最初の励起一重項状態(S1)に特徴的な性質がすぐに現れる

これらのスペクトル特性には、可視領域の約450 nmと590 nmでの励起状態吸収(ESA)と、600〜700 nmの範囲での基底状態ブリーチング(GSB)が含まれる


考察

1: 三重項生成における励起波長の影響

HexPncでは、ペンタセン吸収の高エネルギーエッジに励起すると(λexc≤633 nm)、三重項形成が加速される

SFはペンタセン誘導体では発エルゴン的であるため、より速い三重項生成は、Pnc2と比較して0–1 *遷移の振動子強度が大きいため、Pnc4サブユニットへのより顕著な励起にのみ起因し、過剰な振動量子子の励起には起因しない

したがって、励起波長の調整により、HexPncのPnc4またはPnc2発色団ユニットへの励起の比率を操作することが可能


2: HexPncの二重経路失活メカニズム

HexPncの励起状態失活は、Pnc2とPnc4の励起に由来する2つの異なるチャネルのいずれかに向けることが可能

2つのチャネルは、i-SFの全体的な速度と生成される自由三重項の収率が異なるため、これはHexPncのSFダイナミクスを調整する方法を構成する

これとは対照的に、DiPncは励起波長への依存性がない


3: 速度論モデリングからの洞察

HexPncの速度論モデリングは、Pnc2チャネルからの寄与がDiPncと同じようにモデル化されている

DiPncと同様に、相関三重項対1T1T1)Pnc2は効率的なTTAの影響を受ける

一方では電子コヒーレンスの喪失、他方ではそれに続くスピン脱位相はPnc2には不利である

したがってPnc2への励起は、DiPncと比較して(T1 + T1)の全体的な収率にわずかな寄与しかもたらさない

対照的に、Pnc4チャネルは、M(T1T1)Pnc4と(T1 + T1)の収率が大幅に高くなる


4: 三重項拡散の役割

ねじれ運動と回転運動に加えて、空間的分離の可能性、つまり、分子内クラスター内の発色団間を三重項がホッピングする可能性により、1T1T1)Pnc4の電子結合の喪失が促進される

全体として、HexPncの(T1 + T1)の収率は、DiPncの収率と比較してかなり高く、トルエンとベンゾニトリルの両方で最大14%の値に達する

分光学的に区別できない複数の励起三重項状態種が存在するため複雑な速度論モデルであるが、実験データと得られた適合度の間の良好な一致は驚くべきものである


5: 研究の限界

HexPncの合成と分光学的特性評価に焦点を当て、デバイスへの応用については検討していない


結論

複数のペンタセン二量体を中央のSubPc部分に繋ぎ止めることは、固体システムを模倣した分子を設計する洗練された方法である

HexPncは、急速な分子内シングレットフィッション(i-SF)を駆動する強いペンタセン間結合を示し、それにもかかわらず、分子内三重項拡散を可能にすることで、DiPncと比較して(T1 + T1)の収率が大幅に向上

HexPnc内での分子内クラスター形成により、ねじれたスリップスタック配置で2つのペンタセンユニットを含む固体のような凝集体を含む非対称ジオメトリが生じる

このクラスターは、高速i-SFと高い励起三重項状態収率の両方の達成において重要な役割を果たし、共有結合系では通常矛盾する2つの望ましい目標を効果的に達成

慎重な分子設計の重要性を強調し、1T1T1)の形成とそれに続く(T1 + T1)への解離速度を同時に最大化するための設計指針を提供

強い発色団間結合(1つのペア間の結合ホットスポット)を維持しながら、相関三重項対の空間的分離を可能にする、より大きなアレイにおけるSF発色団の配置は、これらの対立するプロセスの最適化に明らかに有益


将来の展望

太陽電池などの実際のデバイスにおけるHexPncの性能評価

HexPncの長期安定性と環境に対する影響を調査する

2024年11月18日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0190~

論文のタイトル: Synthesis of Nepetoidin B(ネペトイジンBの合成)

著者: Vitaliy Timokhin , Matthew Regner  , Yukiko Tsuji , John Grabber , John Ralph*

雑誌名: Synlett 

巻: Volume29, Issue09, 1229-1231

出版年: 2018

DOI: https://doi.org/10.1055/s-0036-1591556


背景

1: ネペトイジンBの特徴と重要性

1975年にPlectranthus caninusから初めて単離

様々な植物種から(Z,E)-1と(E,E)-1の異性体として発見

植物中の含有量は極めて少量(例:100kgの丹参から37mg)

現在の市場価格は約5,000$/g


2: ネペトイジンBの医学的価値と生物学的効果

抗菌性および抗真菌性を示す

フリーラジカル消去特性を持つ

キサンチンオキシダーゼ阻害作用(痛風治療の可能性)

一酸化窒素の産生を抑制

化学分類学的マーカーとしての利用可能性


方法

1: 合成戦略

市販の1,5-ビス(3,4-ジメトキシフェニル)-1,4-ペンタジエン-3-オンを出発物質として使用

Baeyer-Villiger酸化によるビニルアセテートへの変換

三臭化ホウ素を用いた脱メチル化

2段階での合成経路を確立


結果

1: 合成収率

第一段階:40%の収率でテトラメチル化ネペトイジンBを合成

第二段階:43%の収率で最終生成物を取得

全体収率:17%(原料回収を考慮すると33%)

生成物は(E,E)-1/(Z,E)-1の異性体混合物(94:6)


考察

1: 研究の意義

ネペトイジンBの初めての合成に成功

従来の抽出法と比較して効率的な生産が可能に

市場価格を約500$/gまで低減できる可能性

医薬品研究での利用可能性の向上


結論

2段階合成による効率的なネペトイジンB製造法の確立

医薬品研究での利用促進への貢献

コスト効率の良い生産方法の実現


将来の展望

今後の応用研究に期待

2024年11月17日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0189~

論文のタイトル: Revealing the Chiroptical Response of Plasmonic Nanostructures at the Nanofemto Scale(プラズモニックナノ構造のナノフェムトスケールにおけるキラル光学応答の解明)

著者: Shuai Zu, Quan Sun, En Cao, Tomoya Oshikiri, and Hiroaki Misawa

雑誌名: Nano Letters

巻: Volume21, Issue11, 4780−4786

出版年: 2021

DOI: https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.1c01322


背景

1: プラズモニックナノ構造におけるキラル光学応答

近年の物理学とナノ加工技術の発展により、プラズモン共鳴を励起する金属ナノ構造は、ナノメートルスケール およびフェムト秒スケール でキラルな光と物質の相互作用を操作する多様な能力を示すことが実証されている

光吸収、発光、光学活性、ホットキャリア生成 など、多くのキラル光学的な物理的および化学的プロセスの効率は、プラズモニックな光局在化と電界増強効果によって飛躍的に向上

これにより、キラル光検出 や光子放出、バイオセンシング、触媒作用 などのナノフォトニクスにおける様々な応用が生まれている


2: キラル光学応答の研究における課題

金属ナノ構造に励起されるプラズモンモードのキラルパラメータを調整することで、自然界では見られない魅力的なキラル光学現象、例えば非対称透過や外因性キラリティーなどが実現

これらは、一方向透過や光スピンルーティング などの光学フィールド操作や応用のための、キラルフォトニック環境の精密なエンジニアリングを促進

さらに、負の屈折、光スピン軌道相互作用、パンチャラトナム-ベリー位相などの興味深い光学効果が発見されている

これらは必然的にプラズモニックナノ構造のキラル特性に依存

したがって、キラリティーの物理的メカニズムと起源を理解するためには、ナノ構造におけるキラル光学応答とそれに関連するプラズモンモードを徹底的に理解することが不可欠


3: 研究の目的

本研究では、プラズモニックナノ構造におけるキラル光学応答の時空間的起源を、ナノフェムトスケールで解明

特に、時間分解光電子顕微鏡(PEEM)を用いて、金ナノロッドダイマーにおけるキラリティーと関連するプラズモンモードの空間時間的な起源を明らかにする


方法

1: 試料作製

標準的な電子ビームリソグラフィー(EBL)プロセスを用いて、ITOコートガラス基板上に金ナノロッドダイマーを作製

各ダイマーは、長さ138 nm、幅58 nmの2本のナノロッドで構成され、中心間距離は約127 nm


2: 実験装置

波長可変フェムト秒レーザー(パルス幅約100 fs)を用いて、斜め入射(入射角74°)で構造を照射

多光子光電子放出(PE)プロセスにより生成された光電子をPEEMで検出し、近接場分布を画像化


3: 時間分解PEEM測定

・測定原理

超短レーザーパルス(約7 fs、中心波長820 nm、帯域幅200 nm以上)をマッハツェンダー干渉計を用いて2つの同一パルスに分割し、可変時間遅延でナノアンテナに集光

この干渉計時間分解ポンプ-プローブ技術により、近接場PEEM画像の時空間発展からナノ構造におけるプラズモンモードのダイナミクスを取得

・データ解析

PE信号の時間振動からプラズモンモードの共鳴波長と減衰時間を取得するために、ナノアンテナに励起されたプラズモンモードに対して減衰調和振動子モデル を使用


結果

1: 近接場スペクトルと画像

PEEM測定により、金ナノロッドダイマーにおけるキラリティーの起源がナノメートルおよびフェムト秒スケールで明らか

測定された近接場スペクトルは、左円偏光(LCP)光と右円偏光(RCP)光で異なる共鳴ピークを示し、それぞれ反対称モードと対称モードの選択的な励起を示唆

PEEM画像は、LCPではナノロッド間のギャップ領域に、RCPでは右側のナノロッドの端領域に近接場増強が局在していることを示し、シミュレーション結果と一致


2: 時間分解PEEM測定

時間分解PEEM測定により、LCPとRCPに対する反対称モードと対称モードの優勢な励起の直接的な証拠が得られた

LCPとRCPの励起に対する時間分解PE信号は、異なる振動挙動を示した

減衰調和振動子モデルを用いたフィッティングにより、反対称モード(LCP)と対称モード(RCP)の共鳴波長と減衰時間が決定された

これらの結果は、時間領域におけるキラリティーの起源が反対称モードと対称モードの選択的な励起にあることを直接的に示す


考察

1: キラリティーの時空間的起源

・反対称モードと対称モードの選択的励起

斜め入射LCP光とRCP光は、金ナノロッドダイマーにおいてそれぞれ反対称モードと対称モードを選択的に励起

これらのモードの選択的励起は、近接場スペクトルと時間分解PEEM測定によって確認

・空間的な近接場分布

反対称モードはナノロッド間のギャップ領域に近接場増強をもたらし、対称モードは右側のナノロッドの端領域に近接場増強をもたらす

これらの空間的な近接場分布の違いは、キラル光学応答の起源

・時間的なダイナミクス

反対称モードと対称モードは、異なる共鳴周波数と減衰時間を持つ

これらの時間的なダイナミクスの違いは、キラル光学応答の時間発展に影響を与える


結論

時間分解PEEMを用いることで、プラズモニックナノ構造におけるキラリティーの起源をナノフェムトスケールで直接的に解明

金ナノロッドダイマーを例として、斜め入射LCP光とRCP光に対する反対称モードと対称モードの選択的励起が、キラル光学応答の空間時間的な起源であることを明らかにした


将来の展望

キラル光と物質の相互作用の空間時間操作、およびキラル光検出、触媒作用、バイオセンシングなどの高効率なキラル光学応用

2024年11月16日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0188~

論文のタイトル: Chromatography-Free and Chlorinated Solvent-Free Preparation of 2,5-dibromohexanediamide (DBHDA)(クロマトグラフィーフリーで塩素系溶媒を使用しない2,5-ジブロモヘキサンジアミド(DBHDA)の調製)

著者: Ben Bower、Sébastien R. G. Galan、Benjamin G. Davis

雑誌名: Organic Syntheses

巻: Volume101, 207-228

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.15227/orgsyn.101.0207


背景

1: タンパク質の化学修飾におけるDBHDAの重要性

2,5-ジブロモヘキサンジアミド(DBHDA)は、タンパク質中のシステイン残基を選択的にデヒドロアラニン(Dha)に変換するのに有用な試薬

Dha残基をタンパク質に導入することで、タンパク質上にβ,γ C-C、C-S、C-N、C-Se結合を形成するさらなる反応が可能

これにより部位選択的な方法でタンパク質の側鎖を操作するための直接的な方法を提供

DBHDAは市販されているが、比較的高価


2: 既存のDBHDA合成法の問題点

DBHDAは、Perkinらによって最初に合成された

Chalkerらは、Perkinらの合成法を改良し、アジピン酸からDBHDAを合成する手法を報告

しかし、この臭素化には、オゾン層破壊物質である四塩化炭素が使用されていた


3: 研究の目的(環境に優しいDBHDA合成法の開発)

本研究では、四塩化炭素の代わりにシクロヘキサンを用いた、環境に優しいDBHDA合成法を開発する

シクロヘキサンは、四塩化炭素と沸点が近く、NBSとスクシンイミドは不溶性であるのに対し、酸とビス(酸塩化物)は可溶性であるため、適切な代替物質として選択された

さらに、シクロヘキサンは分子状臭素に対して比較的(十分に)不活性

これらの特性により、クロマトグラフィー分離を必要とせずに高純度の材料を得ることが可能


方法

1: アジポイルジクロリドの合成

アジピン酸を塩化チオニルと反応させてアジポイルジクロリドを合成

反応の進行はTLCでモニター


2: 2,5-ジブロモアジポイルジクロリドの合成

アジポイルジクロリドをシクロヘキサン中でNBSと臭化水素酸触媒を用いて臭素化し、2,5-ジブロモアジポイルジクロリドを合成

反応の進行はTLCでモニター


3: DBHDAの合成

2,5-ジブロモアジポイルジクロリドを水酸化アンモニウム水溶液と反応させてDBHDAを合成

粗生成物を50%メタノール水溶液で2回トリチュレーションして精製


4: 生成物の特性評価

融点、Rf値、1H NMR、13C NMR、IR、HRMSを用いて生成物を特性評価


結果

1: 高純度DBHDAの収率

本手法により、28%の収率で微結晶性のオフホワイト粉末としてDBHDAが得られた

チェッカーによって行われた半規模合成では、29%の収率でDBHDAが得られた

定量的13C NMR分光法と定量的1H NMR分光法により、生成物の純度は98%以上であることが確認された


考察

1: 研究の意義

本研究で開発された合成法は、オゾン層破壊物質である四塩化炭素を使用しない、環境に優しいDBHDA合成法

本手法は、高純度のDBHDAを良好な収率で得ることができ、クロマトグラフィー分離を必要としない

本研究の成果は、タンパク質の化学修飾の分野に大きく貢献する


2: 先行研究との比較

Perkinらの合成法と比較して、本手法は四塩化炭素を使用せず、クロマトグラフィー分離を必要としないため、より環境に優しく、効率的

Chalkerらの合成法と比較して、本手法は四塩化炭素の代わりにシクロヘキサンを使用しているため、オゾン層破壊への影響が少ない


3: 研究の限界

本手法では、収率が約30%と中程度であることが限界

収率向上のため、反応条件のさらなる最適化が必要


結論

環境に優しいDBHDA合成法の確立

クロマトグラフィーフリーで塩素系溶媒を使用しない、環境に優しいDBHDA合成法を開発

高純度のDBHDAを良好な収率で得ることができる


将来の展望

タンパク質の化学修飾の分野において幅広く応用されることが期待される

DBHDAの収率を向上させるための反応条件の最適化

本手法を用いて合成したDBHDAを用いたタンパク質の化学修飾の研究 

2024年11月15日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0187~

論文のタイトル: Benzylic Ammonium Ylide Mediated Epoxidations(ベンジルアンモニウムイリドを用いたエポキシ化反応の開発)

著者: Lukas Roiser, Raphaël Robiette, Mario Waser

雑誌名: Synlett

巻: Volume27, Issue13, 1963-1968

出版年: 2016

DOI: https://doi.org/10.1055/s-0035-1562344


背景

1: オニウムイリドの特徴と課題

オニウムイリドは立体選択的なエポキシ化反応に有用

スルホニウムイリドは広く利用されている

アンモニウムイリドは相対的に使用頻度が低い

アミノ基の脱離能力が低いことが主な課題


2: 既存研究の問題点

DABCOやキヌクリジンを用いた従来法では収率が低い(40%以下)

電子供与基を持つ基質では選択性が低下

電子求引基を持つ基質でのみ高収率・高選択性を達成

より効率的な手法の開発が必要


3: 研究の目的

トリメチルアミン基を有するアンモニウム塩の使用

反応条件の最適化による収率向上

立体選択性に影響を与える要因の解明

DFT計算による反応機構の解析


方法

1: 実験条件の最適化

溶媒:THF

塩基:t-BuOK

温度:40℃

反応時間:3時間

アンモニウム塩とアルデヒドの比率:1:2


結果

1: 反応条件の影響

塩基量4当量で最高収率93%を達成

反応温度40℃が最適

トリメチルアミン基がDABCOやEt3Nより高収率

trans:cis比は66:34で中程度の選択性


2: 基質適用範囲

電子求引基を持つ基質で高収率・高選択性

電子供与基を持つ基質でも高収率を維持

芳香族アルデヒドが良好な基質

脂肪族アルデヒドは低収率


考察

1: 反応機構の考察

DFT計算により反応経路を解析

ベタイン中間体の形成が可逆的

トリメチルアミン基の優れた脱離能力を確認

電子効果が立体選択性に影響


2: 選択性制御の要因

電子求引基による中間体の安定化

脱離過程が選択性決定段階

トリメチルアミン基による副反応の抑制

競合反応の低減による高収率の達成


結論

トリメチルアミン基による高収率エポキシ化の達成

基質適用範囲の拡大に成功

反応機構の詳細な解明


将来の展望

新規エポキシ化反応への展開

2024年11月14日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0186~

論文のタイトル: An environmentally friendly method for the synthesis of 1,2,3,4-tetrahydropyridines and hexahydroimidazo[1,2-a]pyridines in water promoted by potassium, sodium and ammonium chlorides(環境に優しい方法による1,2,3,4-テトラヒドロピリジンおよびヘキサヒドロイミダゾ[1,2-a]ピリジンの水中合成)

著者: Natalya N. Gibadullina, Aigul R. Mukhamedyarova, Aleksandr N. Lobov, Yuri S. Zimin, Vladimir A. Dokichev

雑誌名: Tetrahedron Letters

巻: Volume152, 155348

出版年: 2024

DOI: https://doi.org/10.1016/j.tetlet.2024.155348


背景

1: 研究の背景

窒素含有複素環化合物は多くの医薬品や天然物に含まれる

1,2,3,4-テトラヒドロピリジンおよびヘキサヒドロイミダゾ[1,2-a]ピリジンは多様な生物活性を示す

これらの化合物は抗酸化、抗菌、抗結核、抗マラリア、鎮痛、抗炎症、抗癌などの活性を持つ

多くの天然物質や他のクラスの複素環化合物を合成するための重要な構成要素


2: 未解決の問題点

テトラヒドロピリジンおよびヘキサヒドロイミダゾ[1,2-a]ピリジン誘導体の合成への主な効果的なアプローチは、マンニッヒ反応、クネーフェナーゲル反応、マイケル反応、ディールス・アルダー反応などの多成分反応に基づく

これらの複素環のワンポット多成分標的合成では、中間生成物の単離および蓄積が不要

既存の合成方法は有機溶媒や毒性の高い触媒を使用することが多い

環境に優しい合成方法の開発が求められている


3: 研究の目的

水中での1,2,3,4-テトラヒドロピリジンおよびヘキサヒドロイミダゾ[1,2-a]ピリジンの効率的な合成方法を開発

期待される成果として、環境に優しい条件下での高収率合成を目指す


方法

1: 研究デザイン

水系電解質溶液中での一段階の三成分反応を使用

反応物: エチル3-オキソブタノエート、ホルムアルデヒド、一次アミン

触媒: 塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム


2: 最適化条件

反応物: エチル3-オキソブタノエート、ホルムアルデヒド、第一級アミン(例: プロピルアミン、ブチルアミン、モノエタノールアミンなど)

当量: 酢酸エステル-ホルムアルデヒド-アミンのモル比をそれぞれ2:2:1

反応条件: 室温、水中、電解質(NaCl、KCl、NH4Cl)の存在下24時間反応。


3: 評価項目と測定方法

主要評価項目: 生成物の収率と純度

測定方法: NMRスペクトロスコピー、GC-MS分析

収率の比較: 各反応条件下での収率を比較


結果

1: 主要な結果

プロピルアミンを使用した場合、1,2,3,4-テトラヒドロピリジンの収率は75%に達した

塩化ナトリウムまたは塩化カリウムの存在下で収率が向上、電解質がない場合、収率は40%を超えない

3-オキソブタン酸エチル‐プロピルアミン‐ホルムアルデヒド-NaCl(KCl)の縮合に関して、最適なモル比は2:2:1:2


2: テトラヒドロピリジンの収率に対する反応物の影響

モノエタノールアミンを使用した場合、収率は65%

ベンジルアミンやN,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパンを使用した場合、収率はそれぞれ55%および42%

1,2-ジアミノエタンを使用した場合、ヘキサヒドロイミダゾ[1,2-a]ピリジンの収率は41%、生成物は単環式化合物とは別に、二環式複素環も生成し、二つの異性体の混合物として得られた

tert-ブチルアミンおよび2-アミノ-4-メチルフェノールを使用した場合、1,2,3,4-テトラヒドロピリジンの形成は観察されない


考察

1: 主要な発見

塩化ナトリウムや塩化カリウムの存在が反応収率に与える影響

水中での反応が環境に優しい合成方法として有望

一次アミンの構造が生成物の収率と選択性に与える影響

特定のアミンを使用することで高収率で目的化合物が得られる


2: 電解質の影響

水性媒体中での1,2,3,4-テトラヒドロピリジンの形成に対する電解質(NaCl、KCl)の影響は、水の構造の変化、塩析、および電解質イオンとアセト酢酸エステル、ホルムアルデヒド、およびそれらの反応生成物との継続的な相互作用の両方に起因する可能性が最も高い

選択的な中間体ジエチル-2,4-ジアセチルペンタンジオネートの形成は、おそらくNa+カチオンの作用下でのホルムアルデヒドと第一級アミンとの逆縮合反応の平衡が、イミニウムカチオンではなくホルムアルデヒドに向かってシフトすることに起因


3: 先行研究との比較

既存の有機溶媒を使用した方法と比較して、環境負荷が低い

水中での反応が高い原子効率を示す

他の触媒を使用した方法と比較して、毒性が低い

簡便で効率的な合成方法としての優位性


4: 研究の限界

一部のアミンでは収率が低い

反応条件のさらなる最適化が必要


結論

環境に優しい条件下での1,2,3,4-テトラヒドロピリジンおよびヘキサヒドロイミダゾ[1,2-a]ピリジンの効率的な合成方法を確立

単環式および二環式1,2,3,4-テトラヒドロピリジンへの環境に安全な三成分ワンポット合成経路を実装

水性媒体中で、入手容易な第一級アミン、ホルムアルデヒド、およびアセト酢酸エステルを塩化ナトリウムまたは塩化カリウムの存在下で縮合することにより、構造的に多様な生成物が良好な収率で得られた

原子経済性に優れており、副生成物として3つの水分子のみを生成し、水性媒体中で進行し、有機溶媒を必要としない


将来の展望

他のアミンや反応条件の最適化

2024年11月13日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0185~

論文のタイトル: The role of the stabilizing/leaving group in palladium catalysed cross-coupling reactions(パラジウム触媒クロスカップリング反応における安定化/脱離基の役割)

著者: Lorenzo Palio, Francis Bru, Tommaso Ruggiero, Laurens Bourda, Kristof Van Hecke, Catherine Cazin, Steven P. Nolan

雑誌名: Dalton Transactions

巻: 2024

号: d4dt02533d

出版年: 2024

DOI: 10.1039/d4dt02533d


背景

1: 研究の背景

パラジウムN-ヘテロ環カルベン(NHC)錯体は、過去数十年にわたって均一系触媒として広く研究されている

特にクロスカップリング反応において均一系触媒への応用で重要な役割を果たす

NHC錯体は空気および湿気に安定であり、金属-配位子の化学量論を厳密に制御できる


2: 未解決の問題点

Pd-NHC系において、「使い捨て」配位子の役割は十分に研究されていない

これらの配位子は、安定な酸化状態を維持する配位部位を占めることにより、触媒の安定性と活性に重要な影響を与える

これらの配位子は、Pd(II)からPd(0)活性種への活性化プロセス中に錯体から切り離される


3: 研究の目的

新しい置換基を持つ[Pd(NHC)(η3-R-allyl)Cl]錯体を合成し、C–N結合形成におけるその触媒活性を評価

不活性な二量体形成につながる触媒の分解経路を抑制し、より高い触媒活性を持つシステムを開発

より嵩高いアリル置換基を持つ4つの新しい二量体を設計および合成


方法

1: 研究デザイン

新しい[Pd(NHC)(η3-R-allyl)Cl]錯体の合成

触媒活性の評価: Buchwald–Hartwigアミノ化反応をモデルとして使用


2: 最適化条件

反応物の選定: 新しい置換基を持つアリルクロリド

反応条件: 室温、無水DME中での反応


3: 評価項目と測定方法

主要評価項目: 触媒活性、生成物の収率

測定方法: NMRスペクトロスコピー、GC-MS分析

触媒活性の比較: 各触媒の反応速度と収率を比較


結果

1: 主要な結果

新しい[Pd(NHC)(η3-R-allyl)Cl]錯体の合成に成功

これらの錯体は空気および湿気に安定で、長期間保存可能


2: 触媒活性の向上

Buchwald–Hartwigアミノ化反応において、触媒の分解経路を抑制することで、高い触媒活性を示す

特に、アリル構造上にメシチル基およびナフチル基を持つ錯体が非置換シンナミル構造の錯体と比較して高い活性を示した

IPr*配位子を持つ錯体は、Pd(I)二量体の形成を完全に抑制

2,6-ジ-オルト-置換出発物質を用いた嵩高い二級および三級アミンの調製に特に活性


3: 触媒活性の低下

p-トル、特にp-tBu-フェニル基による置換は、触媒活性の低下をもたらした

この反応性の違いは、NHCがIPr*の場合に特に顕著


考察

1: 主要な発見

新しい置換基を持つ[Pd(NHC)(η3-R-allyl)Cl]錯体は、高い触媒活性を示す

特に、メシチル基およびナフチル基の導入が触媒活性を向上させる

IPr*配位子を持つ錯体は、Pd(I)二量体の形成を抑制し、触媒の安定性を向上

触媒の分解経路を抑制することで、反応効率が向上


2: 錯体の安定性と反応性

より高い反応性は錯体の安定性によるものであり、これは[Pd(NHC)(η3-R-アリル)Cl]錯体を触媒的に不活性なPd(I)二量体に変換することによって調査

IPr含有系列では、この変換は、試験した特定の反応条件下で明確に発生

IPr*類似体に関しては、この方法での反応性の完全な抑制を観察

この立体的により要求の厳しい系列では、Pd(I)二量体形成は完全に阻害


3: 先行研究との比較

既存の触媒システムと比較して、新しい錯体は高い触媒活性を示す

特に、Buchwald–Hartwigアミノ化反応において優れた性能を発揮

新しい錯体は、より穏やかな反応条件下で高い活性を示す

触媒の安定性と活性の両方を向上させる新しい設計手法として有望


4: 研究の限界

一部の置換基では触媒活性が低下する

反応条件のさらなる最適化が必要


結論

新しい置換基を持つ[Pd(NHC)(η3-R-allyl)Cl]錯体は、高い触媒活性と安定性を示す

アリルおよびNHC部分の両方を修飾した一連の実験から、非常に活性がありながらも安定な触媒前駆体を標的とするには、錯体のNHC半球に立体保護が必要であると同時に、アリルに高度な置換が必要である

アリルに高度な置換が必要な理由は2つ

(1)高度に置換されているため、Pd-アリル結合を不安定化

(2)遊離したアリルが、不均化反応において架橋配位子として作用し、Pd(I)二量体構造を安定化する役割を阻害


将来の展望

他の置換基や反応条件の最適化

2024年11月12日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0184~

論文のタイトル: Integrated computational and experimental design of fluorescent heteroatom-functionalised maleimide derivatives(ヘテロ原子官能基化マレイミド誘導体の蛍光特性に関する統合的計算および実験的設計)

著者: Jake E. Barker, Gareth W. Richings, Yujie Xie, Julia Y. Rho, Calum T. J. Ferguson, Rachel K. O’Reilly, Scott Habershon

雑誌名: Chemical Science

巻: 2024

号: d4sc04816d

出版年: 2024

DOI: 10.1039/d4sc04816d


背景

1: 研究の背景

マレイミドは、光物理特性を持つ有機分子として、太陽電池、OLED、エレクトロクロミック材料、コーティング、加硫剤、免疫複合体、蛍光消光剤、バイオセンサーなど多くの応用がある

特に、近接して結合した分子内ドナーとアクセプター部分を持っているため、生物学的細胞の蛍光プローブとしての利用が注目されている

マレイミドの光物理特性は、溶媒や官能基によって大きく変化し、大きなストークスシフト(>100 nm)、高い量子収率、強いソルバトフルオロクロミズムを示す可能性がある


2: 未解決の問題点

既存の合成方法では、特定の光物理特性を持つマレイミドの設計が困難

特定の光物理的特性を持つ有機分子種の設計と合成は、計算化学と実験化学の両方にとって重要な課題

溶媒依存性の光物理特性を予測するための効率的な方法が求められている


3: 研究の目的

計算と実験を統合した方法で、特定の光物理特性を持つマレイミド誘導体を設計

AI/MLとab initio検証の両方を組み込んだ2つの計算戦略を開発し、新規性と調整可能性を求めて官能基化マレイミドの化学空間を探索

期待される成果として、新しい蛍光プローブの開発を目指す


方法

1: 研究デザイン

計算と実験を統合したアプローチを採用

計算方法: TD-DFT計算、人工ニューラルネットワーク(ANN)を使用

実験方法: マレイミド誘導体の合成と光物理特性の評価


2: データセットと人工ニューラルネットワーク(ANN)

文献から蛍光マレイミド誘導体に関する実験情報を収集し、機械学習トレーニングセットを作成

合計258のマレイミドの例を文献から手動でスクレイピングし、複数の溶媒中のさまざまなマレイミド誘導体を含めた

マレイミド構造、最大蛍光励起波長、発光(lem)、および対応する溶媒のすべてが明確に報告されている場合、実験データを機械学習データセットに組み込む

このデータセットを使用して、ANNをトレーニングし、分子構造と溶媒パラメータから発光波長(lem)などの光化学的特性を予測する単純なMLフレームワークを構築


3: ANNの詳細

マレイミド構造に関する情報をエンコードするために、拡張接続フィンガープリント(ECFP)*(Morganフィンガープリント)を構造記述子として使用

溶媒の記述には、誘電率を直接使用

すべてのANN計算において、ECFPの長さは1024ビット、部分構造(結合半径)の長さは5を使用

標準のフィードフォワードANNを採用し、分子構造とlemの関係を学習

各分子について、入力層は1024ビットのECFPベクトルと、対応する溶媒の誘電率を表す浮動小数点値で構成

出力層は、予測されたlemに対応する単一の値で構成

すべての計算において、250ノードで構成される単一の隠れ層を持つANN構成を使用

標準の修正ロジスティックユニット(ReLU)活性化関数を全体で使用


4: 実験及び検証条件

反応物: マレイミド誘導体、溶媒

室温、各種溶媒中での反応

主要評価項目: 吸収および発光波長

測定方法: UV/Vis分光法、蛍光分光法

データ解析: 計算結果と実験結果の比較


結果

1: 主要な結果

新規に合成したマレイミド誘導体の光物理特性を評価

TD-DFT計算(B3LYP/6-31G **)と比較して、ANNは計算コストが低い

溶媒の誘電率が吸収および発光波長に与える影響を確認


2: ANNの性能

トレーニングデータはランダムにトレーニング(90%)とテスト(10%)のセットに分割され、ANNは確率的勾配降下法を使用して最大2000回の反復でトレーニングされた

トレーニングセットのR2相関係数は通常0.96であることがわかりましたが、テストセットのR2値は通常約0.87

ECFP記述子を使用したANNのパフォーマンスレベルは、比較的小さなデータセットの場合、マレイミドの構造と溶媒から光物理特性を予測するのに有効


3: 溶媒効果の予測

ANNは、溶媒依存性の光物理特性を正確に予測

TD-DFT計算(B3LYP/6-31G **)は、高誘電率の溶媒での予測が困難


考察

1: 主要な発見

マレイミドの構造と溶媒の組み合わせが光物理特性に与える影響を詳細に解析

ANNの予測精度は、データセットの質に依存


2: ANNの利点

ANNは、溶媒の誘電率のみを入力として使用して、実験的な吸収波長をB3LYP/6-31G **の値よりもはるかに正確に溶媒依存性の光物理特性を予測するのに有効

TD-DFT計算(B3LYP/6-31G **)は、低誘電率の溶媒での予測に適している


3: 先行研究との比較

既存の方法と比較して、ANNは計算コストが低く、予測精度が高い

TD-DFT計算は、特定の条件下での予測に優れている

ANNとTD-DFT計算の組み合わせが、より正確な予測を可能にする

溶媒の影響を考慮した新しい設計手法として有望


4: 研究の限界

ANNの予測精度は、トレーニングデータの質に依存

TD-DFT計算は、計算コストが高く、溶媒の影響を完全に再現できない


結論

ANNとTD-DFT計算を統合した方法で、特定の光物理特性を持つマレイミド誘導体を効率的に設計


将来の展望

データセットの拡充と計算手法の改良

2024年11月11日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0183~

論文のタイトル: β3-Tryptophans by Iron-Catalyzed Enantioselective Amination of 3-Indolepropionic Acids(鉄触媒を用いた3-インドールプロピオン酸の不斉アミノ化によるβ3-トリプトファンの合成)

著者: Bing Zhou, Marisa I. Ih, Suyang Yao, Marcel Hemming, Sergei I. Ivlev, Shuming Chen,* and Eric Meggers*

雑誌: Organic Letters

巻: Volume26, Issue39, 8361–8365

出版年: 2024年


背景

1: β-アミノ酸の重要性

医薬品、天然物、改変ペプチドの合成に重要な構成要素

β3位に置換基を持つβ-アミノ酸は特に有用

従来はArndt-Eistert法による合成が一般的

触媒的不斉合成法の開発が求められている


2: 従来の合成法の課題

β3-アミノ酸の触媒的不斉合成には複数のステップが必要

直接的なC-N結合形成が困難

環境負荷の少ない合成法の開発が必要

トリプトファン誘導体の選択的合成が特に課題


方法

1: 合成方法の概要

鉄触媒を用いたC-H結合のアミノ化反応

カルボン酸基による位置選択的な反応制御

BocNHOMsをアミノ化剤として使用

-23℃での低温反応条件


2: 最適化条件

触媒:(R)-Fe3 (10 mol%)

溶媒:ジクロロメタン

塩基:ピペリジン

反応時間:17時間

窒素雰囲気下での反応


結果

1: 基質適用範囲

インドール5位置換体:収率46-72%、ee 94->99.5%

インドール6位置換体:収率53-62%、ee 97->99.5%

メチル基の位置効果を確認

α位メチル化も可能(収率63%、ee >99%)


考察

1: 反応機構の考察

DFT計算により反応経路を解明

β位での選択的な水素原子転移を確認

インドール基の電子的効果が重要

ラジカル中間体の安定化効果を確認


2: 高い立体選択性の理由

初期の選択性は88% ee

反応時間とともにeeが向上

マイナー異性体の選択的分解を確認

最終的に>99% eeを達成


結論

β3-トリプトファンの初めての触媒的不斉合成法を確立

環境調和型の鉄触媒を使用

高い立体選択性を実現


将来の展望

ペプチド合成への応用が期待される

2024年11月10日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0182~

論文のタイトル: Stereodivergent Chirality Transfer by Noncovalent Control of Disulfide Bonds(非共有結合による立体選択的なジスルフィド結合のキラリティー転写)

著者: Qi Zhang, Stefano Crespi, Ryojun Toyoda, Romain Costil, Wesley R. Browne, Da-Hui Qu,* He Tian, and Ben L. Feringa*

雑誌: Journal of the American Chemical Society

巻: Volume144, Issue10, 4376-4382

出版年: 2022年


背景

1: 研究の背景(生体分子におけるキラリティーの重要性)

キラリティーは「生命の特徴」として知られる重要な性質

アミノ酸などのホモキラリティーは生命維持に不可欠

タンパク質構造においてジスルフィド結合は重要な役割を果たす

ジスルフィド結合の立体化学は生体分子の機能に影響を与える


2: 研究の課題(ジスルフィド結合のキラリティー制御)

ジスルフィド結合は動的な立体異性を示す

アミノ酸からジスルフィド結合へのキラリティー転写機構は不明

水素結合によるキラリティー制御の可能性

分子レベルと超分子レベルでのキラリティー制御が必要


方法

1: 分析手法

円二色性(CD)分光法による立体構造解析

フーリエ変換赤外分光法(FTIR)による水素結合解析

核磁気共鳴分光法(NMR)による分子構造解析

密度汎関数理論(DFT)による計算化学的解析


結果

1: 分子内キラリティー転写

S-S...H-N水素結合の形成を確認

温度依存的なキラリティー転写を観察

溶媒の極性がキラリティー転写に影響

エンタルピー変化とエントロピー変化を定量的に評価


2: 結晶構造解析

超分子ヘリカル構造の形成を確認

分子間C=O...H-N水素結合の存在

反平行なヘリカルストランドの配列

DNAの二重らせん構造に類似した特徴


考察

1: キラリティー転写のメカニズム

水素結合が立体制御に重要な役割を果たす

溶液中と固体状態で異なるキラリティー転写機構

置換基効果がキラリティー転写に影響

Thorpe-Ingold効果による構造制御


結論

ジスルフィド結合のキラリティー制御機構を解明

水素結合による立体選択的なキラリティー転写を実証

分子設計による超分子構造制御の可能性を示唆


将来の展望

タンパク質構造制御への応用

2024年11月9日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0181~

論文のタイトル: Manipulation of Gaseous Ions with Acoustic Fields at Atmospheric Pressure(大気圧下における音響場を用いたガスイオン操作)

著者: Yi You, Julia L. Danischewski, Brian T. Molnar, Jens Riedel*, Jacob T. Shelley*

雑誌: Journal of the American Chemical Society

巻: Volume146, Issue21, 14587–14592

出版年: 2024年


背景

1: イオン操作の現状と課題

イオンの動きの制御は質量分析や材料加工に不可欠

従来は電磁場を使用してイオンを制御

大気圧下では頻繁な分子衝突により電磁場の効果が低下

高電圧や複雑な装置構成が必要という課題


2: 新手法開発の動機

音響場によるイオン制御の可能性を偶然発見

音響浮遊装置使用時にイオンビームが検出されなかった

音響場がイオンの軌道を変更している可能性

低電力での新しいイオン操作手法の開発へ


3: 研究目的

音響場によるイオン操作(AIM)の実証

イオンの偏向、ゲーティング、集束の可能性検証

中性ガスとイオンの挙動の違いの解明

実用的なイオン操作手法としての可能性評価


方法

1: 実験方法

超音波共振器を用いた音響場の生成

コロナ放電によるイオン生成(5 kV, 0.67μA)

質量分析計によるイオン検出

窒素ガス流量: 0.85 L/min


2: 観察・測定手法

3次元空間でのイオン分布マッピング

音響場強度の同時測定

ストロボ撮影による中性ガス流の可視化

イオン種ごとの挙動の比較分析


結果

1: 主要な実験結果

イオンは音響場の静圧領域(ノード)を優先的に移動

中性ガスは音響場の影響を受けず直進

30 Vp-pという低電圧で効果的なイオン偏向を実現

イオン種により音響場への応答が異なることを確認


2: 2次元音響制御の結果

4つの超音波変換器による2次元音響場の形成

イオン強度の「ホットスポット」形成を確認

O2+イオンで3.6倍、水クラスターイオンで1.7倍の信号増強

イオン集束効果の実証


考察

1: メカニズム

クーロン力による長距離相互作用の影響

イオンの実効的な衝突断面積の増加

圧縮率係数の変化による音響場との相互作用

電場効果は排除(1.6 V/mm以下)


2: 応用可能性

低電力(<1 W)での大気圧イオン光学系として有望

物理的な障害物が不要で汚染リスクが低い

イオンの分離・選別への応用可能性

既存のイオン移動度分析との組み合わせの可能性


結論

音響場によるイオン操作の実証に成功

低電力でのイオン制御を実現


将来の展望

物理的障害物のない新しいイオン光学系としての利用

質量分析や材料加工への応用が期待される

2024年11月8日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0180~

論文のタイトル: Catalyst-Free, Three-Component Synthesis of Amidinomaleimides(触媒フリーな三成分カップリングによるアミジノマレイミドの合成)

著者: Wyatt R. Swift-Ramirez, Lindsay A. Whalen, Lia K. Thompson, Kaylee E. Shoemaker, Aris R. Rubio, and Gregory A. Weiss*

雑誌: Journal of Organic Chemistry

巻: Volume89, Issue18, 13756–13761

出版年: 2024年


背景

1: アミジン化合物の重要性

アミジン官能基は多様な生物活性を持つ

抗菌作用、抗炎症作用、鎮痛作用を示す

抗血小板作用も報告されている 

医薬品開発において注目される構造


2: 従来の合成法の課題

従来の合成法は金属触媒を必要とする

高温条件が必要

強い電子吸引性アジドを必要とする

グリーンケミストリーの観点から改善が必要


3: 研究の目的

触媒フリーな三成分カップリング反応の開発

マイルドな条件での合成法確立

水系溶媒での反応を可能に

カラムクロマトグラフィーなしでの精製を目指す


方法

1: 反応設計

アジドマレイミドを主要な出発物質として使用

アルデヒドと二級アミンを反応基質として選択

エナミン中間体を経由する反応機構を想定

一段階での多成分カップリングを計画


2: 最適化条件の検討

溶媒の種類と比率の検討

反応温度の影響評価(25-60℃)

反応時間の最適化(0.5-18時間)

基質濃度の調整


3: 基質適用範囲の評価

様々なアルデヒド類での検討

異なる二級アミン類での検討

異なるマレイミド類での検討

トリペプチドでの反応性確認


結果

1: 最適反応条件

溶媒:メタノール/酢酸エチル混合系が最適

温度:40℃で良好な収率

反応時間:18時間で高収率

基質比:1.25当量の過剰量が最適


2: 基質適用範囲

アルデヒド:62-66%の収率

二級アミン:68-89%の収率

環状・非環状アミン共に良好

トリペプチドでも87-91%の変換率


3: 生成物の特徴

E体選択的な生成

DMSO中で4ヶ月安定

多くの場合カラム精製不要

最大4つの異なる置換基導入可能


考察

1: 反応機構の考察

エナミン形成が初期段階

1,3-双極子付加反応が進行

トリアゾリン中間体を経由

窒素放出による反応の進行


2: 本手法の利点

触媒フリーな条件

マイルドな反応条件

簡便な精製方法

モジュラー性の高い合成法


3: 研究の限界点

シリカゲルでの分解

チオール-マレイミドクリック反応との非互換性

一部の基質での低収率

未保護カルボン酸との非互換性


結論

新規な触媒フリー三成分カップリング反応の開発

広い基質適用範囲の実証

簡便な精製法の確立


将来の展望

医薬品合成への応用

2024年11月7日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0179~

論文のタイトル: Rare Gold-Catalyzed 4-exo-dig Cyclization for Ring Expansion of Propargylic Aziridines toward Stereoselective (Z)-Alkylidene Azetidines, via Diborylalkyl Homopropargyl Amines(プロパルギルアジリジンの金触媒4-exo-dig環化による立体選択的(Z)-アルキリデンアゼチジンの合成)

著者: Oriol Salvadó, Jorge Pérez-Ruíz, Alba Mesas, M. Mar Díaz-Requejo,* Pedro J. Pérez,* and Elena Fernández*

雑誌: Organic Letters

巻: Volume26, Issue36, 7535–7540

出版年: 2024年


背景

1: 研究の背景(分子設計における環の大きさの重要性)

分子の骨格修正は、化学空間の微細な変更を考慮して行われる

環のサイズ変更は生物活性に大きな影響を与える

分子設計における結合の切断と再結合は重要な戦略

アジリジンからアゼチジンへの環拡大は挑戦的な課題


2: 既存の手法(アジリジンからアゼチジンへの既存の環拡大法)

バイオ触媒を用いた[1,2]-Stevens転位

フェナシルブロミド誘導体を用いたアンモニウムイリド経由の手法

可視光を用いた1-ブロモ-1-ニトロアルカンとの反応

これらの手法は全て外部からの炭素導入が必要


方法

1: 合成戦略(新規環拡大反応の設計)

プロパルギルアジリジンを出発物質として使用

α-ジボリルアルキルリチウム塩による位置選択的開環

金触媒を用いた環化反応

立体選択的な(Z)-2-アルキリデン-1-トシルアゼチジンの形成


結果

1: ジボリルアルキル化による位置選択的開環反応」

LDAを用いたジボリルアルカンの活性化

THF中、室温で16時間の反応

電子的性質により立体的に混んだ位置で開環が進行

高い位置選択性で目的物を取得(収率75-81%)


2: 金触媒による環化反応の特徴

[AuCl(PEt3)]/AgOTf触媒系を使用

90℃、16時間で反応を実施

4-exo-dig環化により4員環を形成

立体選択的に(Z)-アルキリデンアゼチジンを生成


考察

1: 反応機構の特徴

Baldwinの規則では不利とされる4-exo-dig環化

鈍角での攻撃により環化が可能に

プロパルギル位のメチル基の有無で環化様式が変化

電子供与基・求引基の効果を確認


結論

新規な4員環形成法の開発に成功

立体選択的な(Z)-アルキリデンアゼチジン合成を実現

生物活性が期待される骨格の効率的合成法を確立

抗菌活性を持つ可能性のある化合物群へのアクセスを実現


将来の展望

天然物合成などへの適用範囲の拡大

2024年11月6日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0178~

論文のタイトル: Triarylmethyl Cation Catalysis: A Tunable Lewis Acid Organo­catalyst for the Synthesis of Bisindolylmethanes(トリアリールメチルカチオン触媒:ビスインドリルメタン合成のための調整可能なルイス酸有機触媒)

著者: Nicholas G. Boekell, Dana J. Cerone, Maria M. Boucher, Phong K. Quach, Wilfried B. Tentchou Nganyak, Christine G. Reavis, Ifeanyi I. Okoh, Jordan O. A. Reid, Hayley E. Berg, Briana A. Chang, Cheyenne S. Brindle*

雑誌: SynOpen

巻: Volume1, Issue1, 97-102

出版年: 2017年


背景

1: 有機触媒の現状と課題

金属触媒に代わる環境調和型の有機触媒の需要が増加

これまでの有機触媒は主に求核性触媒やブレンステッド酸触媒が中心

ルイス酸型有機触媒の研究は比較的進んでいない

トリアリールメチル(トリチル)カチオンの触媒能が1980年代から報告


2: トリチルカチオン触媒の特徴と可能性

電子供与基の数により反応性を8桁の範囲で調整可能

様々な求核剤/親電子剤の組み合わせに対応できる可能性

商業的に入手可能な染料として使用されている

触媒の状態を色で視覚的に確認可能


方法

1: 実験デザイン

インドールとアルデヒドからビスインドリルメタンの合成を検討

様々な電子供与基を持つトリチル触媒を比較

溶媒条件の最適化を実施

基質適用範囲の検討


結果

1: 反応条件の最適化結果

マラカイトグリーン(触媒2g)が最も効果的

ジクロロメタン中、35℃で最高収率

触媒量は5 mol%が最適

環境調和型溶媒でも反応可能(アセトニトリル、エタノール)


2: 基質適用範囲

電子求引性、電子供与性アルデヒド共に高収率

脂肪族アルデヒドにも適用可能

様々な置換基を持つインドールで反応進行

反応時間は15分から24時間と基質依存的


考察

1: 触媒の反応性制御

電子供与基の数により触媒活性を制御可能

水との反応性とアルデヒド活性化のバランスが重要

反応の進行を色変化で確認可能

酸に敏感な基質にも適用可能な温和な条件


結論

環境調和型の新規ルイス酸触媒の開発に成功

基質に応じた触媒活性の調整が可能

広い基質適用範囲を実現

温和な条件下での効率的な反応を達成


将来の展望

種々の分光分析の併用による応用範囲の拡大

2024年11月5日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0177~

論文のタイトル: Intermolecular [2+2] Photocycloaddition of β-Nitrostyrenes to Olefins upon Irradiation with Visible Light(可視光照射によるβ-ニトロスチレンのオレフィンへの分子間[2+2]光付加環化反応)

著者: Lisa-Marie Mohr, Thorsten Bach

雑誌: Synlett

巻: Volume28, Issue20, 2946-2950

出版年: 2017年


背景

1: 光化学反応の歴史

[2+2]光付加環化反応は当初、可視光を用いて研究された

20世紀半ばから人工UV光源の登場により短波長(λ = 250-380 nm)照射が主流に

1970-80年代にエネルギー貯蔵システムの研究で長波長照射が再注目

芳香族カルボニル化合物や遷移金属塩が三重項増感剤として機能


2: ニトロスチレンの光化学

19世紀にtrans-β-ニトロスチレンの光二量化が太陽光照射で観察

オレフィンとの分子間[2+2]光付加環化は稀少で短波長光のみで実施

Chapmanらがオレフィンとの反応を言及するも詳細データなし 

Majimaらがインデンとの反応を報告(高圧水銀ランプ使用)


3: 研究目的

trans-β-ニトロスチレンのUV-Vis分光特性を解析

可視光照射による効率的な[2+2]光付加環化反応の開発

反応条件の最適化と基質適用範囲の検討

反応機構の解明


方法

1: 実験条件

濃度: 20 mM (CH2Cl2溶媒)

光源: 419 nmの蛍光ランプ 

温度: 室温

反応時間: 2-24時間

オレフィン: 10当量使用


2: 分析手法

UV-Vis分光法による吸収特性の解析

NMR分光法によるキャラクタリゼーション

NOESYによる立体化学の決定

三重項増感実験による反応機構解析


3: 最適化検討

波長の影響(300-517 nm)

溶媒効果(ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン)

オレフィン当量の効果

反応濃度の最適化


結果

1: 波長効果

300-419 nmで高収率(49-83%)

457-470 nmでも反応進行(18-50%)

517 nmでは反応せず

ジアステレオ選択性は約3:1で一定


2: 基質適用性

様々なオレフィンで反応進行(収率32-87%)

電子豊富な芳香環で高収率

パラシアノ置換体で選択性低下

シス体からトランス体への異性化観察


3: 反応機構

三重項状態を経由

1,4-ジラジカル中間体の形成

水素引き抜きによる副生成物の生成

チオキサントン添加で反応加速


考察

1: 反応の特徴

可視光での効率的な[2+2]光付加環化

穏和な条件下での反応進行

明確な立体選択性の発現

光化学的極性反転の実現


2: 反応機構の要点

三重項エネルギー移動の重要性

ジラジカル中間体の存在証明

立体選択性の発現機構

副反応の制御要因


3: 研究の意義

新しい合成手法の確立

環境調和型反応の開発

アミノシクロブタン類への変換可能性

光化学反応の新しい可能性


結論

β-ニトロスチレン類の可視光[2+2]光付加環化を実現

11例の環化体を収率32-87%で合成

反応機構を解明し、三重項経路を確認

穏和な条件での立体選択的な環形成を達成


将来の展望

さらなる収率・選択性の向上とスケールアップ

2024年11月4日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0176~

論文のタイトル: Electrophotocatalytic Hydroxymethylation of Azaarenes with Methanol(メタノールを用いたアザアレーンの電気光触媒的ヒドロキシメチル化)

著者: Beatriz Quevedo-Flores, Irene Bosque, Jose C. Gonzalez-Gomez

雑誌: Organic Letters

巻: Volume26, Issue35, 7447–7451

出版年: 2024年


背景

1: ヒドロキシメチル基導入の重要性

生理活性含窒素複素環への効果

溶解度(logP)への影響

薬理活性部位との水素結合形成

pirbuterol、renierol、losartanなどの医薬品に存在

他の官能基への変換が容易


2: メタノールを用いた直接的ヒドロキシメチル化の課題

メタノールのC-H結合の選択的活性化

プロトン化アザアレーンとの電荷移動の制御

ラジカル付加の可逆性

過剰酸化による副生成物の生成

スピンセンターシフトによるメチル化


方法

1: 反応条件の最適化

アクリジン光触媒A1の使用

塩化水素酸による活性化

青色LED照射(455nm)

グラファイト陽極、ニッケル陰極

定電流2mA条件


2: 二つの反応プロトコル

プロトコルA:LiCl/HCl系

キノリン類に有効

室温で実施可能

空気存在下で実施可能

プロトコルB:Bu4NBF4

イソキノリン類に有効

ジフェニル水素ホスフェート使用

塩化物イオン不要


結果

1: 基質適用範囲

2-アルキルキノリン類:60-89%収率

4-置換キノリン類:40-95%収率

ピリジン類:中程度〜良好な収率

医薬品類への応用可能

選択的な単一置換を達成


2: 実用性の検証

1.5V電池での反応可能

太陽光照射下での反応可能

スケールアップ実験(1.34mmol)に成功

並行反応による効率的合成

単純な後処理での単離が可能


考察

1: 反応機構の解明

ラジカル阻害剤による反応抑制

塩素ラジカルの捕捉実験

光誘起電子移動の確認

温和な酸化条件の重要性

空気の影響の検証


結論

メタノールを用いたスピンセンターシフトによるアザアレーンの新規電気光触媒的メチル化手法の確立

温和な条件下での選択的反応

実用的なスケールで適用可能


将来の展望

医薬品合成への応用可能性

環境調和型の反応プロセスの開発

Catch Key Points of a Paper ~0175~

論文のタイトル: Boron bis-(4-methylbenzoxazol-2-yl)-methanide complexes(ホウ素ビス-(4-メチルベンゾオキサゾール-2-イル)-メタニド錯体の合成と特性)

著者: Xiaobai Wang, Franziska Rüttger, Johannes Kretsch, Anne Kreyenschmidt, Regine Herbst-Irmer and Dietmar Stalke*

雑誌: Dalton Transactions

巻: Volume53, 8264-8268

出版年: 2024年


背景

1: ホウ素化合物の重要性

ホウ素化合物は独特な触媒特性を持つ

希少で高価な金属触媒の代替として期待

N,N-二座配位子との錯体形成が注目されている

BODIPYなどの蛍光材料としての応用可能性


2: 研究目的(Box配位子を用いた新規ホウ素錯体の開発)

13族元素の中でホウ素化合物の研究が不足

Box配位子(ビス-ベンゾオキサゾール-2-イル-メタン)の特性活用

新規ホウ素錯体の合成と構造解析

蛍光特性の評価


方法

1: 合成手順

Box配位子とBH3·THFの反応による化合物1の合成

化合物1とBX3(X = F, Cl, Br)の反応による化合物2-4の合成

トルエンまたはTHF中で95℃、2-3日間反応

結晶化による精製


2: 分析手法

単結晶X線構造解析

NMRスペクトル測定(1H, 11B, 13C, 19F)

蛍光分析

元素分析とマススペクトル


結果

1: 構造特性

すべての化合物でN,N-二座配位構造を確認

B-N結合長: 1.537-1.582 Å

N-B-N角: 104.71-109.5°

結晶構造における平面性の確認


2: 蛍光特性

化合物1: 発光最大波長 452 nm

化合物2-4: 388-404 nmの青色発光

量子収率: 化合物1で75.5%

BODIPYより短波長での発光を確認


考察

1: 構造的特徴

N,N-二座配位による安定な錯体形成

ハロゲン置換による構造への影響は最小限

結晶構造の高い対称性

置換基による電子的効果の制御


2: 応用可能性

青色蛍光材料としての potential

低酸化状態ホウ素化合物の安定化

小分子活性化触媒としての可能性

材料科学への応用展開


結論

新規Box配位子ホウ素錯体の合成に成功

構造と物性の体系的な解明

優れた青色発光特性の発見


将来の展望

触媒および材料応用

2024年11月3日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0174~

論文のタイトル: Multi-modal control over the assembly of a molecular motor bola-amphiphile in water(水中における分子モーターボラ両親媒性化合物の集合体形成の多重制御)

著者: Fan Xu, Lukas Pfeifer, Marc C. A. Stuart, Franco King-Chi Leung* and Ben L. Feringa*

雑誌: Chemical Communications

巻: Volume56, 7451-7454

出版年: 2020年


背景

1: 超分子システムの重要性

自然界の非共有結合による集合体形成は人工超分子システム設計の基礎

外部刺激に応答する超分子システムの開発が進展

水中での小分子有機化合物の自己集合制御が注目

光、pH、イオンなどの外部刺激による制御が可能


方法

1: 分子設計

第一世代分子モーターをベースに設計

カルボキシル基を両末端に配置

シス体-トランス体の光異性化が可能

pHおよびイオン応答性を付与


結果

1: 光応答性

トランス体からシス体への312 nm光照射による異性化

PSS状態でのシス体:トランス体比は63:37

365 nm光照射による可逆的な異性化

1H NMRによる構造確認


2: 集合体構造の光制御

トランス体: シート状構造を形成

光照射後: ミセルおよびベシクル構造への変化

365 nm光照射で元のシート状構造に回復

加熱-冷却サイクルで完全な構造回復


3: pH応答性

pH 8.8: シート状構造

pH 9.8: ディスク状構造(直径30-40nm)

pH 11.0: ミセル構造(直径4-5nm)

pHによる集合体構造の可逆的制御


4: イオン応答性

NaCl添加: ベシクル形成(直径100-200nm)

CaCl2添加: マクロスコピックな凝集体形成

Ca2+イオンとカルボキシレート基の強い相互作用

イオン種による異なる集合体構造


考察

1: 研究の特色

多重刺激応答性の実現

光・pH・イオンによる独立した構造制御

可逆的な構造変化の達成

分子設計の有効性の実証


結論

水中での分子モーター集合体の多重制御を実現

光・pH・イオンによる異なる集合体構造の形成

超分子材料の新しい設計指針の提示


将来の展望

環境適応材料やデリバリーシステムへの応用可能性


2024年11月2日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0173~

論文のタイトル: Clicking together Alkynes and Tetracyanoethylene

著者: Prof. Dr. Mogens Brøndsted Nielsen

雑誌: ChemPhysChem  

巻: Volume24, Issue15, e202300236

出版年: 2023年


背景

1: 研究の背景(環化付加–逆電子環化反応の概要)

環化付加–逆電子環化反応(CA-RE反応):アルキンとテトラシアノエチレン(TCNE)の反応

電子豊富なアルキンと電子不足オレフィンの[2+2]環化付加

生成物:置換1,1,4,4-テトラシアノブタ-1,3-ジエン(TCBD)

副生成物なし、原子効率の良い反応


2: CA-RE反応の特徴

"クリック様"反応:一部のアルキンで定量的収率

電子供与基の強さが収率に大きく影響

最近の進展:界面活性剤存在下で水中でも反応可能

生成物:レドックス活性なドナー-アクセプタークロモフォア


3: 研究の目的

CA-RE反応のメカニズム解明

単純な二次反応速度論や一次反応速度論に従わない理由の探索

反応促進要因の特定

自己触媒作用の可能性の検討


方法

1: 反応の追跡方法

1H -NMR分光法を使用

溶媒:C6D6、温度:300 K

基質、中間体、生成物のアリールプロトンをプローブとして使用

反応時間:約15時間


2: データ解析

カスタムメイドの反応速度論プログラムを使用

4つの異なるモデルを実験データにフィッティング

基質濃度を変えて得られたすべてのデータを同時にフィッティング

速度定数(k)を繰り返しスキャンし、最小偏差を探索


3: 反応メカニズムモデル

モデル1:一段階環化付加

モデル2:段階的環化付加

モデル3:一段階環化付加(自己触媒作用含む)

モデル4:段階的環化付加(自己触媒作用含む)


結果

1: 単純モデルの限界

モデル1と2:単一実験データには適合

異なる基質濃度の実験データ全体には不適合

予想以上に複雑なメカニズムの示唆


2: 自己触媒作用の発見

生成物Pを初期から添加すると反応が加速

モデル3と4:自己触媒作用を組み込んだ新メカニズム

特にモデル4が実験データに excellent fit


3: 速度定数の比較

k4/k2 = 62(モデル4):ABP複合体からの中間体形成が速い

k6/k5 = 0.05:C中間体からのzwitterion中間体形成が速い

k6/k4 = 4 × 10-5:最終RE段階が最も遅い


考察

1: 自己触媒作用のメカニズム

基質と生成物間のドナー-アクセプター錯体形成の可能性

錯体形成により基質の配向が最適化

アルキンからTCNEへの求核攻撃が促進


2: RE段階の特性

溶媒極性への依存性が小さい

協奏的メカニズムの支持

酢酸中でわずかに反応速度低下:アニリンのプロトン化が不利


3: CA-RE反応の応用

レドックス活性なドナー-アクセプタークロモフォアの合成

電子デバイスや光電子デバイスへの潜在的応用

フタロシアニンやサブフタロシアニンとの反応も可能


4: 研究の限界点

アニリン基質での検討に限定

自己触媒作用の詳細なメカニズムは未解明

計算化学による更なる解析が必要


結論

CA-RE反応:複雑なメカニズムを持つ"クリック様"反応

自己触媒作用の発見:反応促進の新たな要因

ドナー-アクセプター錯体形成による反応促進の可能性


将来の展望

今後の課題:計算化学による自己触媒作用の解明

新規機能性材料開発への応用が期待される

2024年11月1日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0172~

論文のタイトル: Long-Term Energy Storage Systems Based on the Dihydroazulene/Vinylheptafulvene Photo-/Thermoswitch

著者: Christina Schøttler, Siri Krogh Vegge, Martina Cacciarini, Mogens Brøndsted Nielsen

雑誌: ChemPhotoChem

巻: Volume6, Issue8, e202200037

出版年: 2022年


背景

1: 研究の背景

分子フォトスイッチは分子太陽熱エネルギー貯蔵(MOST)システムとして注目

MOSTシステムは光異性化により高エネルギー準安定異性体を生成

熱的に元の異性体に戻る際にエネルギーを放出

理想的なシステムには多くの要件が必要


2: 未解決の課題

太陽光スペクトルでの吸収

2つの異性体の吸収スペクトルの重複が小さい

光異性化の量子収率が高い  

準安定異性体の寿命が長い

異性体間のエネルギー差が大きい


3: 研究目的

ジヒドロアズレン(DHA)フォトスイッチの新規誘導体の合成

C2位にアルキンおよびノルボルナジエン(NBD)置換基を導入

対応するビニルヘプタフルベン(VHF)異性体の寿命延長を目指す


方法

1: 合成戦略

DHA 3aの4段階合成

既知の化合物5から出発

Knoevenagel縮合、トロピリウム塩との反応、酸化を経てVHF 3bを合成

VHF 3bの環化によりDHA 3aを得る


2: NBD-DHA 4aの合成

NBDコアを先に構築し、その後DHAを形成

化合物6とシクロペンタジエンのDiels-Alder反応でNBD 8aを合成

化合物8aからDHA-NBDジアッド4aを3段階で合成


3: 光学特性と異性化特性の評価

UV-Vis分光法による吸収スペクトル測定

LED光源を用いた光異性化実験

熱戻り反応の温度依存性測定

光異性化量子収率の測定


4: データ解析

アレニウスプロットによる半減期の推定

NMRスペクトル解析による構造確認

高分解能質量分析による分子量確認


結果

1: DHA 3aの特性

吸収極大: 363 nm (MeCN中)

VHF 3bの吸収極大: 514 nm 

DHA-VHF間の吸収極大の差: 151 nm

光異性化量子収率: 40%

VHF 3bの半減期(25°C): 22日


2: DHA-NBD 4aの特性

吸収極大: 387 nm (トルエン中)

VHF 4bの吸収極大: 466 nm

光異性化量子収率: 5%

VHF 4bの半減期(25°C): 5日

NBDの光活性は失われた


3: NBD 8aの特性

吸収極大: 368 nm (トルエン中)

QC 8bの吸収極大: 329 nm

QC 8bの半減期(25°C): 2.85時間

C(Me)=C(CN)2置換基のCreary置換基定数: 約2.1


考察

1: アルキン置換基の効果

VHF 3bの寿命が大幅に延長 (1bと比較して130倍以上)

DHA-VHF間の吸収極大の差が増大

分子量の小さな変更で顕著なMOST特性の向上


2: NBD置換基の影響

VHF 4bの寿命も延長 (1bと比較)

DHA部分の光活性は維持されたがNBD部分は失活

ジアッドシステムにおける光スイッチの相互作用を示唆


3: 構造と特性の関係

C2位置換基の混成状態がVHF安定性に影響

アルキン架橋によるヘプタフルベンとフェニル環の共平面性が寿命延長に寄与か

NBD-DHAジアッドの直接結合はNBDの光活性を阻害


4: C(Me)=C(CN)2置換基の効果

強力なラジカル安定化基として機能

QC-NBD逆反応の速度に大きな影響

経験的な関係式からCreary置換基定数を推定


結論

C2位にアルキンおよびNBD置換基を持つ新規DHA誘導体の合成に成功

VHF異性体の寿命が大幅に延長 (最長22日)

DHA-VHF間の吸収スペクトル分離が改善

分子量の小さな変更で顕著なMOST特性の向上を実現


将来の展望

フェニルエチニル置換基のさらなる機能化によるMOST要件の改善が期待される