論文のタイトル: Intermolecular [2+2] Photocycloaddition of β-Nitrostyrenes to Olefins upon Irradiation with Visible Light(可視光照射によるβ-ニトロスチレンのオレフィンへの分子間[2+2]光付加環化反応)
著者: Lisa-Marie Mohr, Thorsten Bach
雑誌: Synlett
巻: Volume28, Issue20, 2946-2950
出版年: 2017年
背景
1: 光化学反応の歴史
[2+2]光付加環化反応は当初、可視光を用いて研究された
20世紀半ばから人工UV光源の登場により短波長(λ = 250-380 nm)照射が主流に
1970-80年代にエネルギー貯蔵システムの研究で長波長照射が再注目
芳香族カルボニル化合物や遷移金属塩が三重項増感剤として機能
2: ニトロスチレンの光化学
19世紀にtrans-β-ニトロスチレンの光二量化が太陽光照射で観察
オレフィンとの分子間[2+2]光付加環化は稀少で短波長光のみで実施
Chapmanらがオレフィンとの反応を言及するも詳細データなし
Majimaらがインデンとの反応を報告(高圧水銀ランプ使用)
3: 研究目的
trans-β-ニトロスチレンのUV-Vis分光特性を解析
可視光照射による効率的な[2+2]光付加環化反応の開発
反応条件の最適化と基質適用範囲の検討
反応機構の解明
方法
1: 実験条件
濃度: 20 mM (CH2Cl2溶媒)
光源: 419 nmの蛍光ランプ
温度: 室温
反応時間: 2-24時間
オレフィン: 10当量使用
2: 分析手法
UV-Vis分光法による吸収特性の解析
NMR分光法によるキャラクタリゼーション
NOESYによる立体化学の決定
三重項増感実験による反応機構解析
3: 最適化検討
波長の影響(300-517 nm)
溶媒効果(ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン)
オレフィン当量の効果
反応濃度の最適化
結果
1: 波長効果
300-419 nmで高収率(49-83%)
457-470 nmでも反応進行(18-50%)
517 nmでは反応せず
ジアステレオ選択性は約3:1で一定
2: 基質適用性
様々なオレフィンで反応進行(収率32-87%)
電子豊富な芳香環で高収率
パラシアノ置換体で選択性低下
シス体からトランス体への異性化観察
3: 反応機構
三重項状態を経由
1,4-ジラジカル中間体の形成
水素引き抜きによる副生成物の生成
チオキサントン添加で反応加速
考察
1: 反応の特徴
可視光での効率的な[2+2]光付加環化
穏和な条件下での反応進行
明確な立体選択性の発現
光化学的極性反転の実現
2: 反応機構の要点
三重項エネルギー移動の重要性
ジラジカル中間体の存在証明
立体選択性の発現機構
副反応の制御要因
3: 研究の意義
新しい合成手法の確立
環境調和型反応の開発
アミノシクロブタン類への変換可能性
光化学反応の新しい可能性
結論
β-ニトロスチレン類の可視光[2+2]光付加環化を実現
11例の環化体を収率32-87%で合成
反応機構を解明し、三重項経路を確認
穏和な条件での立体選択的な環形成を達成
将来の展望
さらなる収率・選択性の向上とスケールアップ