論文のタイトル: Experimental and Calculated Electrochemical Potentials of Common Organic Molecules for Applications to Single-Electron Redox Chemistry(一般的な有機分子の実験的および計算された電気化学的電位:一電子レドックス化学への応用)
著者: Hudson G. Roth, Nathan A. Romero, David A. Nicewicz
出版: Synlett
巻: 27, 714-723
出版年: 2016
背景
1: 研究背景
光レドックス触媒が新しい結合形成手法を開拓
光誘起電子移動(PET)が重要な役割を果たす
PETの熱力学的評価にはレドックス電位が必要
無機・有機金属錯体のレドックス電位は広く研究されている
2: 未解決の問題
有機基質のレドックス電位データが不足
有機分子は不可逆的なサイクリックボルタンメトリー(CV)を示すことが多い
不可逆系での正確なE°1/2値の決定は複雑
3: 研究目的
180以上の有機基質のハーフピーク電位(Ep/2)を測定
簡単な計算手法で有機基質のレドックス電位を決定
実験値と計算値の相関を検証
方法
1: 実験方法
サイクリックボルタンメトリー(CV)を使用
標準的な条件で測定を実施(同一スキャン速度など)
内部一貫性を維持するため同一の実験セットアップを使用
Fc+/Fcカップルの実験的E°1/2値を基準として報告
2: 計算方法
密度汎関数理論(DFT)計算を実施
B3LYPおよびM06-2X汎関数を使用
6-31+G(d,p)基底関数セットを採用
CPCMモデルでアセトニトリル溶媒効果を考慮
3: データ解析
実験的Ep/2値と計算値を比較
各官能基グループごとにデータを整理
電位はSCE(飽和カロメル電極)基準で報告
結果
1: 有機基質の実験的レドックス電位
芳香族炭化水素、アリールアセチレン: +1.5〜+2.5 V vs SCE
アルケン: +1.0〜+2.5 V vs SCE
フェノール、エーテル: +1.0〜+3.0 V vs SCE
アミン、チオフェノール: 0〜+2.0 V vs SCE
2: 官能基別の傾向
酸化電位: O > S > N の順で減少
ハロゲン化物の酸化/還元: I > Br > Cl の順で容易
カルボニル化合物: -2.5〜+3.0 V vs SCE の広い範囲に分布
3: 計算値と実験値の相関
B3LYP/6-31+G(d,p)が全体的に良好な相関を示す
M06-2Xは酸化電位を過大評価する傾向
一部の系(ハロゲン化物イオン、複素環など)で顕著な偏差
考察
1: 主要な発見
Ep/2値はE°1/2の良い近似となる
DFT計算は溶液中のレドックス電位予測に有用
B3LYPがM06-2Xより全体的に優れたパフォーマンス
2: 計算手法の利点と制限
簡便な計算手法で妥当な相関が得られる
アニオン種の取り扱いに改善の余地あり
対称性や非局在化が変化する系で課題が残る
3: データの応用
光レドックス触媒反応の設計に有用
PETの熱力学的評価が容易に
未知化合物のレドックス特性予測に活用可能
4: 研究の限界
不可逆系での正確なE°1/2値の決定は依然として課題
溶媒効果の取り扱いに改善の余地
一部の複素環化合物で計算値と実験値に乖離
結論
180以上の有機化合物のEp/2値を報告
DFT計算によるレドックス電位予測法を確立
光レドックス触媒反応開発の基盤データを提供
将来の展望
計算手法の更なる改良により予測精度向上が期待される
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