著者:Tobias Heilmann, Juan M. Lopez-Soria, Johannes Ulbrich, Johannes Kircher, Zhen Li, Brigitte Worbs, Christopher Golz, Ricardo A. Mata, and Manuel Alcarazo*
雑誌: Angewandte Chemie International Edition
巻: 63, e202403826
出版年: 2024
背景
1: 研究背景(骨格編集技術の重要性)
骨格編集技術は薬物・農薬開発の加速に有効
特定原子の選択的な削除、挿入、交換が可能
生物活性化合物における窒素原子の重要性
窒素原子の導入・除去に関する手法が特に注目される
2: 既存の手法と課題(ヨードナイトレンの限界)
ヨードナイトレンは窒素原子操作の主要な試薬
酸化的条件下で in situ 生成が必要
酸化に敏感な官能基との不適合性
アルデヒドやアミンの意図しない変換が問題
3: 研究目的(新規窒素原子転移試薬の開発)
保存可能で酸化力のない窒素原子転移試薬の開発
スルホニウム塩を基盤とした試薬設計
スルホナイトレンBの反応性の探索
広範な官能基との適合性の実現
方法
1: 試薬の合成(N-(スルホニオ)スルフィルイミン試薬1の合成)
スルホキシド2を出発物質として使用
トリフル酸無水物による処理(-50°C)
(TMS)2NHの添加と一晩の撹拌
カラムクロマトグラフィーによる精製
マルチグラムスケールでの合成が可能
2: 構造解析(試薬1の構造特性)
X線回折分析による構造確認
C2v対称性を持つカチオン部分
S-N結合長: 1.657(3) Åと1.675(3) Å(短いS-N単結合)
S1-N1-S2結合角: 108.1°(sp2混成を示唆)
理論計算によるIBO解析の実施
3: 反応性の評価(試薬1の反応性評価)
モデル基質としてインデン3aを使用
Rh2(esp)2触媒存在下での反応
イソキノリン4aの生成を確認
反応条件の最適化(触媒量、塩基、温度など)
基質適用範囲の探索
結果
1: 試薬1の合成と特性(N-(スルホニオ)スルフィルイミン試薬1の特性)
67%の収率で白色微結晶粉末として得られた
15N標識版(1-15N)の合成にも成功
熱分解開始温度: 179°C(DSC分析)
爆発性や衝撃感度なし(吉田の相関に基づく予測)
60°Cで24時間加熱しても質量損失なし
2: インデンからイソキノリンへの変換(窒素原子挿入反応の最適化)
最適条件: Rh2(esp)2 (2 mol%), NaHCO3 (1.2 equiv), DCM, -50°C→rt
イソキノリン4aの収率: 95%(1H NMR)
触媒量を0.5 mol%まで減少させても高収率を維持
空気や湿気に対する耐性を確認
3: 基質適用範囲(窒素原子挿入反応の基質適用範囲)
アルキル、アリール、ヘテロアリール置換基に適用可能
ハロゲン、ニトロ、エステル、ケトン、アミド基との互換性
アルデヒドやベンジルアルコールなど酸化に敏感な官能基も保持
15N標識イソキノリン誘導体の合成にも成功
考察
1: 試薬1の特徴(N-(スルホニオ)スルフィルイミン試薬1の利点)
保存可能な固体試薬として使用可能
酸化力がなく、酸化に敏感な官能基との適合性
マルチグラムスケールでの合成が可能
15N標識体の合成にも応用可能
2: 反応機構の考察(窒素原子挿入反応の推定メカニズム)
Rh-ナイトレン錯体の形成
オレフィンとの[2+1]環化付加によるアジリジン中間体の生成
環拡大を経由したイソキノリンの形成
DFT計算によるエネルギー障壁の評価
3: 新規反応の発見(アリールシクロブテンの環縮小反応)
1-アリル-1-シアノシクロプロパンの生成
アジリジン化経路ではなく、環縮小経路が優先
電子求引基を持つ基質ではピロール生成も観察
ヨードナイトレン法との相補性を示唆
4: 研究の限界(本研究の制限と課題)
N-無保護インドールからキナゾリンへの変換は不成功
電子豊富なシクロブテン基質では二量化/重合化が競合
触媒的なナイトレン転移の直接観察には至らず
結論
安定なN-(スルホニオ)スルフィルイミン試薬1の開発に成功
Rh触媒下でのオレフィンへの選択的窒素原子転移を実現
インデンのイソキノリンへの環拡大反応を確立
アリールシクロブテンの1-シアノシクロプロパンへの変換を発見
酸化に敏感な官能基との高い適合性を実証
骨格編集技術への新たなアプローチを提供
将来の展望
さらなる変換反応の探索
電子豊富なシクロブテン基質では二量化/重合化が競合
触媒的なナイトレン転移の直接観察を含む詳細の解明
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