著者: Shivendra Singh and Tushar Kanti Mukherjee
出版: Chemical Science
巻: 15, 13949-13957
出版年: 2024
背景
1: 研究の背景
一重項酸素O2(a1Δg)は有機変換や水の消毒、光線力学療法などに応用
従来は光増感剤(PS)を用いてO2(a1Δg)を生成
PSを用いる方法には適切な励起状態特性が必要で応用に制限あり
溶媒-O2錯体の電荷移動(CT)遷移によるPS不要のO2(a1Δg)生成が報告されている
2: 未解決の課題
CT遷移によるO2(a1Δg)生成の基礎的な光物理過程は研究されている
しかしCT遷移で生成したO2(a1Δg)を化学変換に利用した例はない
アゾ化合物合成では、高価な金属系光触媒が多く用いられている
環境に優しい水中での効率的なアゾ化合物合成法の開発が求められている
3: 研究の目的
水-O2錯体のCT遷移によるPS不要のO2(a1Δg)生成を実証
生成したO2(a1Δg)を用いてアリールアミンの酸化的カップリング反応を行う
触媒不要、水中、常圧下での効率的なアゾ化合物合成法の確立を目指す
方法
1: O2(a1Δg)の生成と検出
UV-Visスペクトル測定によるCT吸収帯の確認
9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)を用いたO2(a1Δg)の検出
TEMPを用いたEPR測定によるO2(a1Δg)の検出
2: アリールアミンの酸化的カップリング反応
p-トルイジンをモデル基質として使用
K3PO4を塩基として添加
370 nm LEDで90分間照射
大気開放条件下、水中で反応を実施
3: 反応条件の最適化
光照射、塩基、酸素の有無による影響を調査
有機塩基(DABCO、ピペリジン)の効果も確認
メタノール、アセトニトリルなど他の溶媒での反応も検討
4: 反応機構の解明
BHTを用いたラジカルトラップ実験
DMPOを用いたスーパーオキシドラジカルの検出
H2O2検出用試験紙による過酸化水素の確認
LC-MSによるヒドラゾベンゼン中間体の同定
結果
1: O2(a1Δg)の生成
O2飽和溶媒で350 nm以上の長波長吸収帯を確認
DPAの吸光度減少とエンドペルオキシド生成を確認
EPRでO2(a1Δg)由来のシグナルを検出
2: アゾ化合物合成の最適化
370 nm照射下、90分で100%収率を達成
光照射と酸素が必須条件であることを確認
K3PO4、DABCO、ピペリジンなどの塩基が有効
水中で最も高い収率、メタノールでも90%の収率
3: 基質適用範囲と反応機構
電子供与性置換基を持つアニリン類で高収率(>90%)
電子吸引性置換基では収率が低下(p-クロロアニリン73%)
ヘテロカップリングも可能
アミンラジカル、スーパーオキシドラジカル、H2O2の生成を確認
考察
1: 主要な発見
水-O2錯体のCT遷移によるO2(a1Δg)生成を実証
生成したO2(a1Δg)を用いてアゾ化合物合成に成功
光触媒不要、水中、常圧下での効率的な合成法を確立
2: 反応の特徴
反応時間90分で高収率(100%)を達成
従来法(Ir系光触媒24時間、エオシンY 4時間)より大幅に短縮
基質適用範囲が広く、ヘテロカップリングも可能
グラムスケールでの合成にも成功
3: 反応機構
O2(a1Δg)からアミンへの1電子移動でアミンラジカル生成
アミンラジカルのカップリングでヒドラゾベンゼン中間体形成
さらなる酸化でアゾ化合物に変換
副生成物としてH2O2が生成
4: 研究の限界点
O2(a1Δg)の生成量子収率は測定していない
反応の量子収率は約0.15と比較的低い
電子吸引性置換基を持つ基質では収率が低下
p-ニトロアニリンでは反応が進行しない
結論
光増感剤不要のO2(a1Δg)生成とアゾ化合物合成を実現
環境に優しい水中での効率的な合成法を確立
CT遷移を利用した新たな光化学反応の可能性を示唆
将来の展望
他の有機変換反応への応用が期待される
O2(a1Δg)生成効率の向上が今後の課題
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