論文のタイトル: Rh → Sb Interactions Supported by Tris(8-quinolyl)antimony Ligands(Rh → Sb 相互作用:トリス(8-キノリル)アンチモンリガンドによる支持)
著者: Casey R. Wade, Brendan L. Murphy, Shantabh Bedajna, François P. Gabbaï*
出版: Organometallics
出版年: 2024
背景
1: 研究背景
L型とZ型配位子を組み合わせた両親媒性システムが注目されている
グループ13元素をσ受容体として含む配位子の研究が活発
グループ15元素をZ型配位子とする非典型的なシステムも研究されている
リンとアンチモンを用いた遷移金属錯体の研究が進展
2: 既存研究と課題
アンチモン部位がZ型配位子として作用する錯体が報告されている
M → Sb相互作用の大きさは、アンチモンの酸化状態や電荷により調整可能
これらの効果は遷移金属中心の触媒特性向上に利用できる
L型支持配位子の性質が錯体の特性に与える影響は未解明
3: 研究目的
電子供与性窒素配位子を持つスチビンの酸化還元非無垢性を調査
トリス(8-キノリル)スチビンと(MeCN)3RhCl3の反応を検討
新規Rh-Sb錯体の合成と構造解析
Rh-Sb結合の性質を理論計算により解明
方法
1: 配位子合成
トリス(8-キノリル)スチビン(LQuin)の合成
- 8-リチオキノリン3当量とSbCl3 1当量をTHF中で反応
- -78°Cで反応を行い、黄色粉末として得られた
トリス(6-メチル-8-キノリル)スチビン(LQuin-Me)も同様に合成
2: 錯体合成
LQuinと(MeCN)3RhCl3をDMSO中で反応させ、錯体1を合成
LQuin-Meと(MeCN)3RhCl3を反応させ、錯体2を合成
単結晶X線構造解析により錯体の構造を決定
3: 理論計算
密度汎関数理論(DFT)計算により錯体1の構造を最適化
Natural Bond Orbital (NBO)解析によりRh-Sb結合の性質を調査
結合軌道の分極度を計算し、結合の性質を評価
結果
1: 配位子の構造
LQuinの1H NMRスペクトルで6本の置換キノリル基由来のシグナルを確認
単結晶X線構造解析によりLQuinの固体構造を決定
中心SbとキノリルのN原子間に短い接触(平均3.08 Å)を観測
2: 錯体1の構造
SbがRh-Cl結合に形式的に挿入した構造
Sb-Cl3結合長: 2.5414(18) Å(Ph3SbCl2の平均2.46 Åに近い)
Sb-Rh結合長: 2.4662(13) Å
Rh-Cl1結合長: 2.7071(19) Å(Rh-Cl2: 2.3585(17) Åより長い)
3: 理論計算結果
NBO解析でRhとSbを結ぶ結合性軌道を同定
結合軌道の組成: 66.1% Rh / 33.9% Sb
Rh-Sb結合がRh原子側に分極していることを示唆
Rh-Cl1結合もCl原子側に大きく分極
考察
1: Rh-Sb結合の性質
Rh-Sb結合はRh原子側に分極
2つの共鳴構造で記述可能:
I: SbIVRhII錯体(共有結合)
II: RhI錯体(Z型SbV配位子で安定化)
2: Rh-Cl結合の特徴
Rh-Cl1結合もCl原子側に大きく分極
NBO解析により、lp(Cltrans) → σ*(Rh-Sb)とlp(Cltrans) → s(Rh)の相互作用を確認
第3の共鳴構造III: Rh-Cl結合の強い分極を説明
3: 錯体の電子構造
3つの共鳴構造を統一的に説明する描像:
- d8平面四角形RhI錯体
- 充填されたdz2軌道からSbVZ型配位子への電子供与
Z型配位子のtrans位をより Lewis酸性に
4: 研究の意義
新規アンチモン中心三脚型配位子の合成に成功
Rh-Sb相互作用の極性を実験的・理論的に解明
結論
キノリルドナーリガンドを持つアンチモン中心三脚型配位子を合成
RhCl3との錯形成でSb中心がRh-Cl結合に酸化的挿入
極性Rh-Sb相互作用を持つ新規錯体を得た
RhI中心がSbのZ型配位子への供与で安定化されていると解釈可能
将来の展望
触媒応用に向けた研究
さらなる錯体の多様性や反応性の探索
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