論文のタイトル: Kinetic and thermodynamic control of C(sp2)–H activation enables site-selective borylation(速度論および熱力学制御によるC(sp2)-H活性化の位置選択的ホウ素化)
著者: Jose B. Roque, Alex M. Shimozono, Tyler P. Pabst, Gabriele Hierlmeier, Paul O. Peterson, and Paul J. Chirik
雑誌: Science
巻: 382巻, 1165-1170ページ
出版年: 2023年
背景
1: C-H結合活性化の重要性
C-H結合活性化は化学合成を強化
不活性結合を直接活性化する方法を提供
医薬品、農薬、材料科学関連の芳香族化合物合成に応用可能
位置選択的反応の開発が大きな課題
既存の方法では1,3-置換などの合成が困難
2: C(sp2)-Hホウ素化の意義
C-B結合は様々な官能基に変換可能
イリジウム触媒が主流だが、立体効果に依存
配向基や複雑な配位子設計が必要
フルオロアレーンの遠隔C-Hホウ素化は特に困難
フッ素の弱い配位能と水素との類似サイズが原因
3: 本研究の目的
電子的に区別可能なC-H結合を識別する触媒の開発
立体効果や配向基に依存しない方法の確立
フルオロアレーンの遠隔ホウ素化の実現
第一列遷移金属触媒の限界を克服
電子豊富なピンサー配位子を持つコバルト触媒の開発
方法
1: 触媒設計と合成
N-アルキル-イミダゾール置換ピリジンジカルベン(ACNC)ピンサー配位子の設計
3,5-Me2-(iPrACNC)Co(Br)2 (3-Br2)の合成
化合物3-Br2からコバルト-メチル錯体(3-Me)の合成
X線回折による構造解析
SambVca 2.1を用いた立体地形図の作成
2: 触媒活性評価
標準条件: 1当量のアレーン、1当量のB2Pin2、5 mol%の3-Me
溶媒: THF、室温、24時間反応
19F NMR分光法による収率と位置選択性の決定
様々な置換基を持つフルオロアレーンの評価
ピリジン類や電子豊富なアレーンへの適用
3: 機構研究
量論反応によるコバルト(I)-フルオロアリール錯体の合成
NMR分光法による錯体の異性化過程の追跡
DFT計算によるフルオロアリール異性体のエネルギー比較
HBPinとB2Pin2を用いた触媒的ホウ素化の速度論的研究
選択性の切り替え実験
結果
1: 触媒の性能と基質適用範囲
3-置換フルオロアレーン: 高収率(>75%)、高選択性(>85:15 m:o)
2,6-ジフルオロアリール: 高収率(>80%)、高選択性(>87:13 m:o)
ピリジン類: 4位選択的ホウ素化、高収率・高選択性
電子豊富なアレーン: 1,3-ジメトキシベンゼンの50%変換(80℃)
2: 特殊な基質への適用
トリフルオロメトキシベンゼン: 91:9 m:o選択性(23℃)
ジフルオロメトキシ基: 84:16 m:o選択性
フェニルボロン酸エステル: パラ位選択的ホウ素化
クロロベンゼン: 61%収率、86:14 m:o選択性
3: 機構研究の結果
コバルト(I)-アリール錯体: オルト位C-H活性化が優先
触媒反応: メタ位ホウ素化が主生成物
時間経過とともにオルト異性体への変換を確認
DFT計算: オルト異性体が熱力学的に安定
HBPin使用時: オルト位ホウ素化が優先(24:76 ratio)
考察
1: 触媒設計の重要性
電子豊富なNHC配位子により高活性を実現
立体的に制御された触媒構造が重要
従来のコバルト触媒と比較して基質適用範囲が大幅に拡大
フルオロアレーンの遠隔ホウ素化を初めて実現
2: 位置選択性の起源
C-H活性化: メタ位が速度論的に有利
コバルト-アリール錯体: オルト位が熱力学的に安定
異性化には過剰のフルオロアレーンが必要
B2Pin2: 速いC-B結合形成によりメタ選択性を維持
HBPin: 遅いC-B結合形成により異性化が進行しオルト選択性
3: 選択性の切り替え
単一の触媒で選択性を制御可能
ホウ素化剤の選択により位置選択性を変更
B2Pin2の当量を増やすことでメタ選択性を向上
従来の手法(異なる配位子や金属錯体)と比較して簡便
4: 研究の限界点
電子豊富なアレーンでは高温(80℃)が必要
HBPinを用いる場合、過剰量のアレーンが必要
選択性の切り替えは一部の基質に限定
パラ位選択性の制御が困難
結論
高活性コバルト触媒によるC(sp2)-Hホウ素化を実現
フルオロアレーンの遠隔ホウ素化に成功
速度論的・熱力学的制御による選択性の切り替えを実証
位置選択的C-H官能基化の触媒設計原理を提供
将来の展望
スイッチ可能なC-Hホウ素化の適用範囲拡大が課題
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