2024年9月25日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0138~

論文のタイトル: Kinetic and thermodynamic control of C(sp2)–H activation enables site-selective borylation(速度論および熱力学制御によるC(sp2)-H活性化の位置選択的ホウ素化)

著者: Jose B. Roque, Alex M. Shimozono, Tyler P. Pabst, Gabriele Hierlmeier, Paul O. Peterson, and Paul J. Chirik

雑誌: Science

巻: 382巻, 1165-1170ページ

出版年: 2023年


背景

1: C-H結合活性化の重要性

C-H結合活性化は化学合成を強化

不活性結合を直接活性化する方法を提供

医薬品、農薬、材料科学関連の芳香族化合物合成に応用可能

位置選択的反応の開発が大きな課題

既存の方法では1,3-置換などの合成が困難


2: C(sp2)-Hホウ素化の意義

C-B結合は様々な官能基に変換可能

イリジウム触媒が主流だが、立体効果に依存

配向基や複雑な配位子設計が必要

フルオロアレーンの遠隔C-Hホウ素化は特に困難

フッ素の弱い配位能と水素との類似サイズが原因


3: 本研究の目的

電子的に区別可能なC-H結合を識別する触媒の開発

立体効果や配向基に依存しない方法の確立

フルオロアレーンの遠隔ホウ素化の実現

第一列遷移金属触媒の限界を克服

電子豊富なピンサー配位子を持つコバルト触媒の開発


方法

1: 触媒設計と合成

N-アルキル-イミダゾール置換ピリジンジカルベン(ACNC)ピンサー配位子の設計

3,5-Me2-(iPrACNC)Co(Br)2 (3-Br2)の合成

化合物3-Br2からコバルト-メチル錯体(3-Me)の合成

X線回折による構造解析

SambVca 2.1を用いた立体地形図の作成


2: 触媒活性評価

標準条件: 1当量のアレーン、1当量のB2Pin2、5 mol%の3-Me

溶媒: THF、室温、24時間反応

19F NMR分光法による収率と位置選択性の決定

様々な置換基を持つフルオロアレーンの評価

ピリジン類や電子豊富なアレーンへの適用


3: 機構研究

量論反応によるコバルト(I)-フルオロアリール錯体の合成

NMR分光法による錯体の異性化過程の追跡

DFT計算によるフルオロアリール異性体のエネルギー比較

HBPinとB2Pin2を用いた触媒的ホウ素化の速度論的研究

選択性の切り替え実験


結果

1: 触媒の性能と基質適用範囲

3-置換フルオロアレーン: 高収率(>75%)、高選択性(>85:15 m:o)

2,6-ジフルオロアリール: 高収率(>80%)、高選択性(>87:13 m:o)

ピリジン類: 4位選択的ホウ素化、高収率・高選択性

電子豊富なアレーン: 1,3-ジメトキシベンゼンの50%変換(80℃)


2: 特殊な基質への適用

トリフルオロメトキシベンゼン: 91:9 m:o選択性(23℃)

ジフルオロメトキシ基: 84:16 m:o選択性

フェニルボロン酸エステル: パラ位選択的ホウ素化

クロロベンゼン: 61%収率、86:14 m:o選択性


3: 機構研究の結果

コバルト(I)-アリール錯体: オルト位C-H活性化が優先

触媒反応: メタ位ホウ素化が主生成物

時間経過とともにオルト異性体への変換を確認

DFT計算: オルト異性体が熱力学的に安定

HBPin使用時: オルト位ホウ素化が優先(24:76 ratio)


考察

1: 触媒設計の重要性

電子豊富なNHC配位子により高活性を実現

立体的に制御された触媒構造が重要

従来のコバルト触媒と比較して基質適用範囲が大幅に拡大

フルオロアレーンの遠隔ホウ素化を初めて実現


2: 位置選択性の起源

C-H活性化: メタ位が速度論的に有利

コバルト-アリール錯体: オルト位が熱力学的に安定

異性化には過剰のフルオロアレーンが必要

B2Pin2: 速いC-B結合形成によりメタ選択性を維持

HBPin: 遅いC-B結合形成により異性化が進行しオルト選択性


3: 選択性の切り替え

単一の触媒で選択性を制御可能

ホウ素化剤の選択により位置選択性を変更

B2Pin2の当量を増やすことでメタ選択性を向上

従来の手法(異なる配位子や金属錯体)と比較して簡便


4: 研究の限界点

電子豊富なアレーンでは高温(80℃)が必要

HBPinを用いる場合、過剰量のアレーンが必要

選択性の切り替えは一部の基質に限定

パラ位選択性の制御が困難


結論

高活性コバルト触媒によるC(sp2)-Hホウ素化を実現

フルオロアレーンの遠隔ホウ素化に成功

速度論的・熱力学的制御による選択性の切り替えを実証

位置選択的C-H官能基化の触媒設計原理を提供


将来の展望

スイッチ可能なC-Hホウ素化の適用範囲拡大が課題

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