2024年9月30日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0142~

論文のタイトル: Photodriven Sm(III)-to-Sm(II) Reduction for Catalytic Applications(光駆動Sm(III)からSm(II)への還元と触媒応用)

著者: Christian M. Johansen, Emily A. Boyd, Drew E. Tarnopol, Jonas C. Peters

雑誌: Journal of the American Chemical Society

巻: 146, 37, 25456–25461

出版年: 2024


背景

1: SmI2の特性と課題

SmI2は多用途な一電子還元剤

大きく柔軟な配位圏が選択性を可能に

通常化学量論量で使用される

Sm(III)-アルコキシド種の形成で反応が停止

触媒的再生が困難


2: 既存の再生方法と問題点

従来法:ハロシラン、低原子価金属、電気化学的手法

問題点:過酷な条件、副生成物の生成

光駆動戦略が未開拓

内圏還元剤としてのSmI2(L)nの化学との互換性が課題


3: 研究目的

光化学的手法によるSmI2再生法の開発

SmI3およびSm(III)-アルコキシドからのSmI2生成

添加物存在下でのSm(II)種生成の実現

光駆動Sm触媒反応への応用


方法

1: 光還元アプローチ

ハンチュ(Hantzsch)エステル(HEH2)を光還元剤として使用

[Ir(dtbbpy)(ppy)2]+ を光触媒として使用

UV-vis分光法によるSmI2生成のモニタリング

サイクリックボルタンメトリーによる電気化学的特性評価


2: SmI3からのSmI2生成

SmI3、HEH2、2,6-ルチジン塩基の混合物を調製

440 nmの光照射

UV-visスペクトルによるSmI2特性ピークの観察

塩基の有無による影響の比較


3: Sm(OiPr)3からのSmI2生成

Sm(OiPr)3、テトラ-n-ヘプチルアンモニウムヨウ化物、HEH2の混合

酸(HTFSI)の添加

440 nmの光照射

UV-visおよびCVによる生成物の分析


結果

1: SmI3からのSmI2生成結果

HEH2とルチジン存在下で、SmI2特性ピーク(555 nm, 618 nm)を観察

最大収率約25%

塩基なしでは反応進行せず

[Ir3+]触媒使用で80%変換(2分)を達成


2: Sm(OiPr)3からのSmI2生成結果

酸添加により光照射下でSmI2生成を確認

CV研究により、酸添加でのSm種の還元電位変化を観察

[Ir3+]触媒使用で30%変換(2分)を達成


3: 添加物存在下でのSm(II)生成結果

プロトン性、キラル、ルイス塩基性添加物存在下でSm(II)生成可能

より還元力の強い光触媒 2,4,6-tris(diphenylamino)-3,5-difluorobenzonitrile (3DPA2FBN)使用でSmBr2、Sm(HMPA)42+生成


考察

1: 光還元メカニズム

HEH2の光励起による直接還元

[Ir3+]触媒を用いた還元的消光

プロトン移動を伴う電子移動(PCET)の可能性

添加物の役割:配位子効果、プロトン源


2: 従来法との比較

ルイス酸性金属添加物や副生成物なしで進行

多様な配位子との互換性

光駆動による穏和な条件下での反応


3: 応用可能性

ケトン-アクリレートカップリング反応への適用

光駆動Sm触媒反応の実現

異なる基質ペアでの反応性の違い


4: 研究の限界点

光還元の量子収率や効率に関する詳細な検討が必要

基質適用範囲の更なる拡大が課題

反応メカニズムの詳細な解明が今後の課題


結論

光駆動によるSm(III)からSm(II)への還元を実現

添加物存在下でのSm(II)種生成を可能に

光駆動Sm触媒反応の実証


将来の展望

Sm触媒の新たな応用可能性を開拓

2024年9月29日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0141~

論文のタイトル: Organic super-reducing photocatalysts generate solvated electrons via two consecutive photon induced processes(二段階の光誘起過程によって溶媒和電子を生成する有機超還元光触媒)

著者:Marco Villa, Andrea Fermi, Francesco Calogero, Xia Wu, Andrea Gualandi, Pier Giorgio Cozzi, Alessandro Troisi, Barbara Ventura, Paola Ceroni

雑誌: Chemical Science

DOI: 10.1039/d4sc04518a

出版年: 2024


背景

1: 研究背景

有機シアノアレーン化合物が光還元触媒として注目されている

連続光誘起電子移動(ConPeT)機構が提案されている 

ConPeT機構では1光子目で光触媒ラジカルアニオンを生成

2光子目でラジカルアニオンを励起し超還元剤となる


2: 未解決の問題点

ConPeT機構の直接的証拠が不足している

ラジカルアニオン励起状態の光物理的性質がほとんど不明

超還元過程の詳細なメカニズムが解明されていない


3: 研究目的

4CzIPNと4DPAIPNの光物理的性質を詳細に調査する

ラジカルアニオンの励起状態ダイナミクスを解明する  

超還元過程の新しいメカニズムを提案する


方法

1: 実験手法

定常状態および時間分解分光法を使用

フェムト秒からナノ秒の時間分解能で測定

計算化学的手法も併用して解析


2: 測定対象

4CzIPNと4DPAIPNの中性分子

電子供与体(TBAOx)存在下でのラジカルアニオン

ラジカルアニオンの励起状態


3: 解析項目

吸収・発光スペクトル 

励起状態寿命

過渡吸収スペクトル

電子移動反応速度


結果

1: ラジカルアニオンの性質

4CzIPNc-とDPAIPNc-の吸収帯を観測

ラジカルアニオンの発光は観測されず

D1(励起状態の寿命は非常に短い(~20 ps)


2: 溶媒和電子の生成

ラジカルアニオン励起後、1440 nmに新しい吸収帯

この吸収帯はアセトニトリル中の溶媒和電子と一致

溶媒和電子の寿命は数100 ps〜数ns


3: 基質との反応性

4-ブロモアニソールはD1状態を消光しない

1440 nm吸収帯は4-ブロモアニソール濃度に応じて減衰

反応速度定数3.4 × 10^10 M-1 s-1 (拡散律速)


考察

1: 新しい還元メカニズム

ConPeT機構ではなく、溶媒和電子が関与

2段階の光誘起過程で溶媒和電子を生成(ConPies)

1光子目でラジカルアニオン生成、2光子目で溶媒和電子生成


2: 分子構造と電子状態の重要性

フェニル核と周辺ユニットの電子的分離が重要

D2-D5状態が溶媒への電子移動を促進

逆電子移動が抑制される構造


3: 溶媒和電子の利点

高い拡散性により光触媒から離れた場所でも反応

ConPeTよりも長寿命で反応性が高い

アセトニトリル中でも効率的に生成・反応


結論

4CzIPNと4DPAIPNの超還元能は溶媒和電子生成に起因

2段階光誘起電子移動(ConPies)機構を提案

分子構造と電子状態の設計が高効率光触媒に重要

新しい光触媒設計への道を開く重要な知見


将来の展望

溶媒和電子の生成量子収率の正確な決定

他の溶媒系での挙動

長時間の光照射による副反応の探索


2024年9月28日土曜日

N-(スルホニオ)スルフィルイミン試薬についての考察

 Catch Key Points of a Paper ~0140~で紹介した論文: N-(Sulfonio)Sulfilimine Reagents: Non-Oxidizing Sources of Electrophilic Nitrogen Atom for Skeletal EditingのN-(スルホニオ)スルフィルイミン試薬について気になったので、少し深堀りしました。

ごちゃごちゃ考えたことを雑記として供養しておこうと思ったので以下つらつらと妄想をします。

まず、出発物質ですけど、DMSOと一緒で個人的に2重結合書くよりしっくり来るので、表記法に関しては有機典型元素化学~その1~を参照してください。この辺りは、DMSO結合をルイス構造式で書いてみると、違和感の正体がわかりやすいと思います。ただ、実際S-O単結合よりは短いので、一長一短なのですが。。。。ここで、スルホキシドのこだわりを話し出すとそれだけで、1記事書いてしまいそうなので、ここでは、S上に+のチャージ書いてますが、ローンペアある風に思ってください。

あと、SとO上のチャージも本当は2+と2-として量子化学ガン無視で形式的には書きたいのですが。。。形式的にそう書きたい理由は、酸素の方が電気陰性度が高いので、S-O結合の電子が酸素側に寄っているとすると、Oは元々の6電子より2電子多く持っており、一方のSは元々の6電子より2電子少なく持っている(SとCは電気陰性度ほぼ等しいので、1電子ずつ各原子の所有とする)と仮想的に考えるとその時の分子内の各原子の状態や性質をDFTでマリケンチャージ計算しなくても、個人的には大雑把にイメージしやすいからです。

つらつらと書きましたが、以下仮想的な妄想反応機構です。まぁ、Aが生成するプロセスは違和感ないと思います。-60℃、45分で進行するので、ほぼバリアレスで進行してますね。(TMS)2NH投入後も-15℃で進行してるあたり、総じて活性化障壁は低いかほぼないと言えそうです。



中間体BCDのところは、B書かずに直接書いてTMSOTfが脱離したD書いてもいいような気がしますし、TMSOTfの代わりにHOTfが脱離してN上にTMS2つが乗った中間体D’書いてもいいような気がしますね。ただ、D’めっちゃ嵩高くなるので、次進むのか?と考えました。HOTfが脱離して行く方がこの時点ではバリアレスになるのでより良い気がしますが、HOTfが脱離したら、(TMS)2NHとアンモニウム塩作るだろうなって思ったら、あれ?それダメじゃね?と、この時点では考えていました。それにD’ができたと仮定してもD’とアンモニウム塩作るだろうと。。。そしたら、どの道、中間体E作るときにTMSOTfが脱離していくのでは?などと、自分の考えに都合よく解釈してるような気がしなくもないですが、中間体DEFの経路で妄想しました。そして、TMSOTfが脱離したGが生成して、、、と考えたところで、あれ?どの道HOTfが(TMS)2NHとアンモニウム塩Iを作らないと、目的生成物Hできないやんと当たり前の事実に気が付きました。これ収率が67%に留まっているのってアンモニウム塩Iの生成が原因なのでは?と思いました。一方で、反応系中ではHに対してTMSOTfが2当量存在していても、Hが生成しているので、HとTMSOTfが反応してGのN上にHの代わりにTMSが乗った中間体G’の反応はほぼ不可逆なのかなと推測しました。

収率50%を超えているのはアンモニウム塩IからTMSOTfを脱離させて、TMSNH2として一部が再生すると考えれば、まぁおかしくはないですかね。実際の反応では(TMS)2NHを滴下しているので、(TMS)2NHが半量入った時点で、HI:TMSOTf:A:HOTfの比は1:1:2:2:0になっていて、Iから半量が再生して反応が進行するとすると、HI:TMSOTf:A:HOTfの比は1.5:0.5:3:1:1になってしまうので、さすがにHGの間の関係性は、Iの代わりにフリーのHOTfが反応系中で相対的に多く存在し始めるのはナンセンスだと思いますので、収率が67%に留まっているのはその辺りが理由なのではないかと妄想している次第です。

以上、ごちゃごちゃ考えたことの雑記の供養でした。

それではまた。







2024年9月27日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0140~

論文のタイトル: N-(Sulfonio)Sulfilimine Reagents: Non-Oxidizing Sources of Electrophilic Nitrogen Atom for Skeletal Editing

著者:Tobias Heilmann, Juan M. Lopez-Soria, Johannes Ulbrich, Johannes Kircher, Zhen Li, Brigitte Worbs, Christopher Golz, Ricardo A. Mata, and Manuel Alcarazo*

雑誌: Angewandte Chemie International Edition

巻: 63, e202403826

出版年: 2024


背景

1: 研究背景(骨格編集技術の重要性)

骨格編集技術は薬物・農薬開発の加速に有効

特定原子の選択的な削除、挿入、交換が可能

生物活性化合物における窒素原子の重要性

窒素原子の導入・除去に関する手法が特に注目される


2: 既存の手法と課題(ヨードナイトレンの限界)

ヨードナイトレンは窒素原子操作の主要な試薬

酸化的条件下で in situ 生成が必要

酸化に敏感な官能基との不適合性

アルデヒドやアミンの意図しない変換が問題


3: 研究目的(新規窒素原子転移試薬の開発)

保存可能で酸化力のない窒素原子転移試薬の開発

スルホニウム塩を基盤とした試薬設計

スルホナイトレンBの反応性の探索

広範な官能基との適合性の実現


方法

1: 試薬の合成(N-(スルホニオ)スルフィルイミン試薬1の合成)

スルホキシド2を出発物質として使用

トリフル酸無水物による処理(-50°C)

(TMS)2NHの添加と一晩の撹拌

カラムクロマトグラフィーによる精製

マルチグラムスケールでの合成が可能


2: 構造解析(試薬1の構造特性)

X線回折分析による構造確認

C2v対称性を持つカチオン部分

S-N結合長: 1.657(3) Åと1.675(3) Å(短いS-N単結合)

S1-N1-S2結合角: 108.1°(sp2混成を示唆)

理論計算によるIBO解析の実施


3: 反応性の評価(試薬1の反応性評価)

モデル基質としてインデン3aを使用

Rh2(esp)2触媒存在下での反応

イソキノリン4aの生成を確認

反応条件の最適化(触媒量、塩基、温度など)

基質適用範囲の探索


結果

1: 試薬1の合成と特性(N-(スルホニオ)スルフィルイミン試薬1の特性)

67%の収率で白色微結晶粉末として得られた

15N標識版(1-15N)の合成にも成功

熱分解開始温度: 179°C(DSC分析)

爆発性や衝撃感度なし(吉田の相関に基づく予測)

60°Cで24時間加熱しても質量損失なし


2: インデンからイソキノリンへの変換(窒素原子挿入反応の最適化)

最適条件: Rh2(esp)2 (2 mol%), NaHCO3 (1.2 equiv), DCM, -50°C→rt

イソキノリン4aの収率: 95%(1H NMR)

触媒量を0.5 mol%まで減少させても高収率を維持

空気や湿気に対する耐性を確認


3: 基質適用範囲(窒素原子挿入反応の基質適用範囲)

アルキル、アリール、ヘテロアリール置換基に適用可能

ハロゲン、ニトロ、エステル、ケトン、アミド基との互換性

アルデヒドやベンジルアルコールなど酸化に敏感な官能基も保持

15N標識イソキノリン誘導体の合成にも成功


考察

1: 試薬1の特徴(N-(スルホニオ)スルフィルイミン試薬1の利点)

保存可能な固体試薬として使用可能

酸化力がなく、酸化に敏感な官能基との適合性

マルチグラムスケールでの合成が可能

15N標識体の合成にも応用可能


2: 反応機構の考察(窒素原子挿入反応の推定メカニズム)

Rh-ナイトレン錯体の形成

オレフィンとの[2+1]環化付加によるアジリジン中間体の生成

環拡大を経由したイソキノリンの形成

DFT計算によるエネルギー障壁の評価


3: 新規反応の発見(アリールシクロブテンの環縮小反応)

1-アリル-1-シアノシクロプロパンの生成

アジリジン化経路ではなく、環縮小経路が優先

電子求引基を持つ基質ではピロール生成も観察

ヨードナイトレン法との相補性を示唆


4: 研究の限界(本研究の制限と課題)

N-無保護インドールからキナゾリンへの変換は不成功

電子豊富なシクロブテン基質では二量化/重合化が競合

触媒的なナイトレン転移の直接観察には至らず


結論

安定なN-(スルホニオ)スルフィルイミン試薬1の開発に成功

Rh触媒下でのオレフィンへの選択的窒素原子転移を実現

インデンのイソキノリンへの環拡大反応を確立

アリールシクロブテンの1-シアノシクロプロパンへの変換を発見

酸化に敏感な官能基との高い適合性を実証

骨格編集技術への新たなアプローチを提供


将来の展望

さらなる変換反応の探索

電子豊富なシクロブテン基質では二量化/重合化が競合

触媒的なナイトレン転移の直接観察を含む詳細の解明

2024年9月26日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0139~

論文のタイトル: Foundation for the ∆SCF Approach in Density Functional Theory

著者: Weitao Yang and Paul W. Ayers

プレプリントサーバー: arXiv

ID: arXiv:2403.04604v1 [physics.chem-ph]

投稿年: 7 Mar 2024


背景

1: 研究の背景(密度汎関数理論の現状)

密度汎関数理論(DFT)は元々、基底状態に限定されていた

光化学や非断熱ダイナミクスの重要性から、励起状態へのDFT拡張が求められている

初期の成功により、特定の対称性を持つ最低エネルギー励起状態にDFTが適用可能になった

しかし、これは励起状態のごく一部にしか適用できない


2: 未解決の問題(励起状態DFTの課題)

Hohenberg-Kohn定理の励起状態への直接的な拡張は不可能

励起状態の電子密度だけでは系の状態を完全に特定できない

励起状態を扱うには、電子密度以外の追加情報が必要

既存のアプローチには、励起レベル、基底状態密度、アンサンブル重み、密度行列などがある


3: 研究の目的(∆SCF法の理論的基礎の確立)

∆SCF法は励起状態計算に広く使用されているが、理論的基礎が不明確

本研究は、∆SCF法の厳密な理論的基礎を提供することを目的とする

基底状態と励起状態の両方に適用可能な普遍的な汎関数の構築を目指す

∆SCF法が基底状態用に開発された交換相関汎関数を励起状態に適用できる理由を解明する


方法

1: 理論的アプローチ(新しい汎関数の開発)

非相互作用系の定義変数を用いて励起状態理論を定式化

(1) 励起量子数nsとポテンシャルws(r)を用いた励起状態ポテンシャル汎関数理論(nPFT)

(2) 非相互作用波動関数Φを用いたΦ汎関数理論(ΦFT)

(3) 非相互作用1電子密度行列γs(r,r')を用いた密度行列汎関数理論(γsFT)

これら3つの変数セットとそれに対応するエネルギー汎関数の等価性を示す


2: 理論の拡張(基底状態から励起状態へ)

基底状態ポテンシャル汎関数理論を励起状態に拡張

励起状態Kohn-Sham(KS)方程式の導出

3つの汎関数の最小値が基底状態エネルギーとなることを示す

汎関数の他の停留点が励起状態エネルギーと電子密度を与えることを証明


3: 交換相関汎関数の構築(断熱接続法の応用)

断熱接続法を用いて交換相関エネルギー汎関数を構築

密度一定の断熱接続を選択し、励起状態密度を一定に保つ

基底状態と励起状態で同じ普遍的汎関数を使用できることを示す

これにより、∆SCF法で基底状態用に開発された近似を励起状態に適用できる理論的根拠を提供


結果

1: 新しい汎関数の特性(普遍的な基底・励起状態汎関数)

Ev[n,ws] = Ev[Φ] = Ev[γs]という3つの等価な普遍的汎関数を提示

これらの汎関数は基底状態と励起状態の両方に適用可能

汎関数の最小値が基底状態エネルギーと密度を与える

他の停留点が励起状態エネルギーと電子密度を提供


2: ∆SCF法の理論的基礎(∆SCF法の厳密性の証明)

∆SCF法が厳密であることを理論的に証明

基底状態と励起状態で同じ普遍的な交換相関汎関数が使用可能

これにより、基底状態用に開発された近似を励起状態に適用できる理由が明確に

ポテンシャルを基本変数として使用することで、∆SCF理論が非相互作用 v-表現可能性のみを要求


3: 変分原理の拡張(励起状態への変分原理の適用)

Ev[n,ws]に関する変分原理を導出

wsに関する変分原理は、対応するEv[Φ]とEv[γs]の変分原理を意味

OEP(最適化有効ポテンシャル)法の励起状態への一般化を提供

GKS(一般化Kohn-Sham)アプローチへの拡張も可能


考察

1: 主要な発見(∆SCF法の理論的正当化)

∆SCF法が厳密な理論的基礎を持つことを初めて証明

基底状態と励起状態で同じ交換相関汎関数が使用可能であることを示した

これにより、∆SCF法の広範な適用可能性が理論的に支持された


2: 新たな知見(新しい汎関数の普遍性)

Ev[n,ws], Ev[Φ], Ev[γs]という3つの等価な普遍的汎関数を提示

これらの汎関数は基底状態と励起状態の両方に適用可能

汎関数の停留点が励起状態のエネルギーと密度を与えることを証明


3: 先行研究との関連(既存のアプローチとの比較)

Görlingの実数ラベルνを用いたアプローチとは異なり、普遍的な汎関数を提供

Levy-Lieb formulation的なアプローチよりも、v-表現可能な密度に限定することで理論を簡素化

時間依存DFTや線形応答理論と比べ、より直接的に励起状態を扱える


4: 研究の限界(課題)

理論的な基礎を提供したが、実際の計算手法の開発は今後の課題

非相互作用v-表現可能性の仮定の妥当性検証が必要

より複雑な励起状態(例:電荷移動状態)への適用可能性の検討が必要


結論

∆SCF法の厳密な理論的基礎を初めて提供

基底状態と励起状態に適用可能な普遍的な汎関数を構築

この理論は、新しい交換相関汎関数の設計とテストに活用可能


将来の展望

今後、この理論に基づいた実際の計算手法の開発が期待される

複雑な励起状態や非断熱過程への応用が将来の研究課題

2024年9月25日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0138~

論文のタイトル: Kinetic and thermodynamic control of C(sp2)–H activation enables site-selective borylation(速度論および熱力学制御によるC(sp2)-H活性化の位置選択的ホウ素化)

著者: Jose B. Roque, Alex M. Shimozono, Tyler P. Pabst, Gabriele Hierlmeier, Paul O. Peterson, and Paul J. Chirik

雑誌: Science

巻: 382巻, 1165-1170ページ

出版年: 2023年


背景

1: C-H結合活性化の重要性

C-H結合活性化は化学合成を強化

不活性結合を直接活性化する方法を提供

医薬品、農薬、材料科学関連の芳香族化合物合成に応用可能

位置選択的反応の開発が大きな課題

既存の方法では1,3-置換などの合成が困難


2: C(sp2)-Hホウ素化の意義

C-B結合は様々な官能基に変換可能

イリジウム触媒が主流だが、立体効果に依存

配向基や複雑な配位子設計が必要

フルオロアレーンの遠隔C-Hホウ素化は特に困難

フッ素の弱い配位能と水素との類似サイズが原因


3: 本研究の目的

電子的に区別可能なC-H結合を識別する触媒の開発

立体効果や配向基に依存しない方法の確立

フルオロアレーンの遠隔ホウ素化の実現

第一列遷移金属触媒の限界を克服

電子豊富なピンサー配位子を持つコバルト触媒の開発


方法

1: 触媒設計と合成

N-アルキル-イミダゾール置換ピリジンジカルベン(ACNC)ピンサー配位子の設計

3,5-Me2-(iPrACNC)Co(Br)2 (3-Br2)の合成

化合物3-Br2からコバルト-メチル錯体(3-Me)の合成

X線回折による構造解析

SambVca 2.1を用いた立体地形図の作成


2: 触媒活性評価

標準条件: 1当量のアレーン、1当量のB2Pin2、5 mol%の3-Me

溶媒: THF、室温、24時間反応

19F NMR分光法による収率と位置選択性の決定

様々な置換基を持つフルオロアレーンの評価

ピリジン類や電子豊富なアレーンへの適用


3: 機構研究

量論反応によるコバルト(I)-フルオロアリール錯体の合成

NMR分光法による錯体の異性化過程の追跡

DFT計算によるフルオロアリール異性体のエネルギー比較

HBPinとB2Pin2を用いた触媒的ホウ素化の速度論的研究

選択性の切り替え実験


結果

1: 触媒の性能と基質適用範囲

3-置換フルオロアレーン: 高収率(>75%)、高選択性(>85:15 m:o)

2,6-ジフルオロアリール: 高収率(>80%)、高選択性(>87:13 m:o)

ピリジン類: 4位選択的ホウ素化、高収率・高選択性

電子豊富なアレーン: 1,3-ジメトキシベンゼンの50%変換(80℃)


2: 特殊な基質への適用

トリフルオロメトキシベンゼン: 91:9 m:o選択性(23℃)

ジフルオロメトキシ基: 84:16 m:o選択性

フェニルボロン酸エステル: パラ位選択的ホウ素化

クロロベンゼン: 61%収率、86:14 m:o選択性


3: 機構研究の結果

コバルト(I)-アリール錯体: オルト位C-H活性化が優先

触媒反応: メタ位ホウ素化が主生成物

時間経過とともにオルト異性体への変換を確認

DFT計算: オルト異性体が熱力学的に安定

HBPin使用時: オルト位ホウ素化が優先(24:76 ratio)


考察

1: 触媒設計の重要性

電子豊富なNHC配位子により高活性を実現

立体的に制御された触媒構造が重要

従来のコバルト触媒と比較して基質適用範囲が大幅に拡大

フルオロアレーンの遠隔ホウ素化を初めて実現


2: 位置選択性の起源

C-H活性化: メタ位が速度論的に有利

コバルト-アリール錯体: オルト位が熱力学的に安定

異性化には過剰のフルオロアレーンが必要

B2Pin2: 速いC-B結合形成によりメタ選択性を維持

HBPin: 遅いC-B結合形成により異性化が進行しオルト選択性


3: 選択性の切り替え

単一の触媒で選択性を制御可能

ホウ素化剤の選択により位置選択性を変更

B2Pin2の当量を増やすことでメタ選択性を向上

従来の手法(異なる配位子や金属錯体)と比較して簡便


4: 研究の限界点

電子豊富なアレーンでは高温(80℃)が必要

HBPinを用いる場合、過剰量のアレーンが必要

選択性の切り替えは一部の基質に限定

パラ位選択性の制御が困難


結論

高活性コバルト触媒によるC(sp2)-Hホウ素化を実現

フルオロアレーンの遠隔ホウ素化に成功

速度論的・熱力学的制御による選択性の切り替えを実証

位置選択的C-H官能基化の触媒設計原理を提供


将来の展望

スイッチ可能なC-Hホウ素化の適用範囲拡大が課題

2024年9月24日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0137~

論文のタイトル: Taming the Lewis Superacidity of Non-Planar Boranes: CH Bond Activation and Non-Classical Binding Modes at Boron(非平面ボランの超ルイス酸性の制御:C-H結合活性化と非古典的結合様式)

著者:Arnaud Osi, Damien Mahaut, Dr. Nikolay Tumanov, Dr. Luca Fusaro, Prof. Dr. Johan Wouters, Prof. Dr. Benoît Champagne, Dr. Aurélien Chardon, Prof. Dr. Guillaume Berionni

雑誌: Angewandte Chemie International Edition

巻: 61, e202112342

出版年: 2022


背景

1: ルイス酸の基礎

ルイス酸は電子対受容体として定義される

ボランは中性の三配位ボロン化合物

フラストレートルイスペア(FLP)の発見で注目を集める

非平面ボランは小分子活性化や新しい結合様式の可能性がある


2: 非平面ボランの課題

9-ボラトリプチセンは凝縮相で非常に不安定

弱いルイス塩基や弱い配位アニオンとの付加体としてのみ観察可能

強い共有結合の活性化や合成への応用は未探索


3: 研究の目的

非平面ボロンルイス超酸の合理的設計

特異な構造と反応性を持つ化合物の開発

非古典的な電子不足B-H-B結合の形成

強いC-H結合やC-Si結合の活性化の実現


方法

1: 化合物の合成

10-メシチル-9-スルホニウム-10-ボラトリプチセン3の合成

超強酸HCTf3を用いたB-C結合開裂によるトリフリド錯体4の生成

ヒドリド転移反応によるボロヒドリド5の合成


2: 構造解析

X線結晶構造解析による分子構造の決定

NMR分光法による溶液中の構造解析

自然結合軌道(NBO)解析による電子構造の調査


3: 反応性の評価

ルイス酸性度の測定(Gutmann-Becketテスト、赤外分光法)

フッ化物イオン親和性(FIA)の計算

様々な基質との反応性の調査(ベンゼン、トルエン、シランなど)


結果

1: 非古典的B-H-B結合の形成

化合物6の生成:2つの9-スルホニウム-10-ボラトリプチセン単位がH-で連結

B-H-B角度:168.0(3)°とほぼ直線的

B-H結合長:1.293(4) Åと通常のB-H結合より13%長い


2: 高いルイス酸性

Gutmann-Becketテスト:δ = 81.2 ppm(31P NMR)

気相FIA:854 kJ mol-1(B(C6F5)3の466 kJ mol-1を大きく上回る)

主要な陽イオン性ルイス酸と同等以上のFIA値


3: C-H結合活性化

非活性化芳香族C-H結合の活性化(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)

選択的なCsp3-H結合活性化(2-ジメチルアミノメシチレン)

Csp3-Si結合の選択的開裂(Ph-SiMe3、(Me3Si)3SiH)


考察

1: 非古典的B-H-B結合の意義

電子不足な3中心2電子結合の形成

カルベニウムイオンやシリリウムイオンとの類似性

高い安定性:HClやHNTf2による反応性なし


2: 超ルイス酸性の起源

非平面構造によるボロン原子の高い電子不足性

スルホニウムリンカーの強い電子吸引性

ピラミッド化による構造再編成エネルギーの最小化


3: C-H結合活性化の特徴

非活性化芳香族C-H結合の金属フリー活性化

立体障害に敏感な選択性

プロトデボロン化による触媒サイクルの可能性


4: 研究の限界

化合物の不安定性と取り扱いの難しさ

触媒的C-H官能基化の未達成

反応機構の詳細な解明が必要


結論

非平面ボロンルイス超酸の合理的設計と合成に成功

非古典的B-H-B結合の形成と特性解明

非活性C-H結合とC-Si結合の活性化を実現

遷移金属様の反応性を示す典型元素化合物の可能性


将来の展望

触媒的C-H官能基化反応の開発

2024年9月23日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0136~

論文のタイトル: "Naked Nickel"-Catalyzed Amination of Heteroaryl Bromides

著者: Rakan Saeb, Bryan Boulenger, and Josep Cornella

雑誌: Organic Letters

巻: 26, 28, 5928–5933

出版年: 2024


背景

1: C-N結合形成の重要性

C-N結合形成は現代の均一系触媒における重要な反応

医薬品、農薬、ポリマー、機能性材料の合成に大きな影響

従来はPd触媒を用いたBuchwald-Hartwig アミネーションが主流

近年、CuやNiを用いた代替法が注目されている


2: Niを用いたC-N結合形成の新展開

2016年: Buchwald と MacMillanによるフォトレドックス/Ni触媒の融合

2017年: Baranらによる電気化学的Ni触媒アミネーションの開発

2020年: Noceraらによる光や電気を用いないNi触媒プロトコルの報告

しかし、Noceraらの方法ではヘテロアリールブロミドの使用が困難


3: 本研究の目的

堅牢で空気安定な"naked nickel"錯体 [Ni(4-tBustb)3] の開発

ヘテロアリールブロミドとN系求核剤のカップリング反応への応用

外部配位子や光・電気化学的セットアップを必要としない方法の確立


方法

1: 反応条件の最適化

モデル反応: 3-ブロモピリジンとピペリジンのカップリング

触媒: Ni(4-tBustb)3 10 mol%

添加剤: Zn粉末 20 mol%、DABCO 1.8当量

溶媒: DMA (1 M)、温度: 60°C


2: 基質適用範囲の検討

ヘテロアリールブロミド: ピリジン、ピリミジン、キノリン等

アミン: 環状二級アミン、一級アミン、アニリン等

反応条件の微調整: 一級アミンの場合は条件を変更


3: 触媒の構造解析

Ni(4-tBustb)3とピペリジンの反応による錯体の単離

X線結晶構造解析によるNi(4-tBustb)2(piperidine)の構造決定


結果

1: 最適化反応条件の確立

3-ブロモピリジンとピペリジンのカップリング: 76%収率

空気中で6ヶ月保存した触媒でも同等の反応性を維持

NiBr2(dme)やNi(COD)2も良好な収率を示すが、取り扱いに注意が必要


2: ヘテロアリールブロミドの適用範囲

電子供与性/求引性置換基を持つピリジン誘導体: 良好な収率

キノリン、ナフチリジン、インドール、ベンゾフラン等: 高収率でカップリング

チオフェン誘導体: 中程度の収率


3: アミンの適用範囲

環状二級アミン(ピペリジン、ピロリジン等): 高収率

一級アルキルアミン: 条件調整により良好な収率

アニリン誘導体: 中程度から良好な収率


考察

1: "Naked Nickel"触媒の優位性

空気安定性: 長期保存後も活性を維持

広い基質適用範囲: 様々なヘテロアリールブロミドに対応

外部配位子不要: 反応系の簡略化が可能


2: 従来法との比較

Noceraらの方法: ヘテロアリールブロミドの使用が困難

本研究: ヘテロアリールブロミドを効率的にカップリング

NiBr2(dme)使用時よりも高い収率を達成


3: 反応機構の考察

Ni(4-tBustb)2(piperidine)錯体の単離に成功

アミンのNi中心への配位が触媒サイクルに重要な役割

Ni(I)/Ni(III)サイクルの可能性を示唆


4: 研究の限界点

電子豊富なアリールブロミドでは低収率

イミダゾール、プロトン性官能基を持つピリジン等で反応困難

嵩高いアミンや酸アミドでは適用困難


結論

"Naked Nickel"触媒を用いたヘテロアリールブロミドのアミネーション法を開発

外部配位子や光・電気化学的セットアップ不要の簡便な方法を確立

様々なヘテロアリールブロミドとアミンのカップリングに成功


将来の展望

反応機構の詳細解明と適用範囲のさらなる拡大

2024年9月22日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0135~

論文のタイトル: Kohn–Sham inversion with mathematical guarantees

著者: Michael F. Herbst, Vebjørn H. Bakkestuen, Andre Laestadius

プレプリントサーバー: arXiv

ID: arXiv:2409.04372v1 [physics.chem-ph]

投稿年: 6 Sep 2024


背景

1: 密度汎関数理論(DFT)の重要性

DFTは化学、材料科学、固体物理学で不可欠なツール

多体波動関数の代わりに電子密度ρ(r)を扱う

計算を大幅に簡略化

Kohn-Sham(KS)定式化が一般的に使用される


2: KS-DFTの課題

交換相関(xc)汎関数が未知で近似が必要

分数電荷を含むプロセスの正確な記述が困難

半導体のバンドギャップ問題が存在

より良いxc汎関数近似の開発が主要な研究課題


3: KS反転の可能性

KS反転はxc汎関数構築を支援するツールとして提案されている

与えられた基底状態密度からxcポテンシャルを求める

KS反転の堅牢で効率的な数値スキームの開発が課題

Moreau-Yosida(MY)正則化を用いた新しいアプローチが提案されている


方法

1: 周期系に対するMY正則化アプローチ

周期系に焦点を当て、効率的な数値スキームを開発

Density-Functional ToolKit (DFTK)を使用して実装

バルクシリコンなど実用的なシステムにKS反転を適用


2: MY正則化の数学的枠組み

密度汎関数FのMoreau-Yosida正則化を導入

ρgsの近似密度ρεgsを計算し、双対写像を利用

xcポテンシャルvxcをε→0+の極限として得る


3: 誤差解析と厳密な境界

近似写像の非拡大性を証明

xcポテンシャルに対する誤差境界を導出

数値計算で誤差境界を検証


4: 数値実装の詳細

BFGSベースの準ニュートン法を使用して近似密度を最適化

DoubleFloats.jlパッケージを使用して高精度計算を実行

GitHub上でソースコードと再現可能な結果を公開


結果

1: 「厳密な」反転の結果

バルクシリコンに対してKS反転を実行

εの減少に伴いxcポテンシャルが参照ポテンシャルに収束

ε~10-6で相対誤差が10%未満に

ポテンシャルの急峻な特徴の近くで収束が遅い


2: 密度の摂動に対する感度

参照基底状態密度ρgsに誤差Δρを導入

ε > ||Δρ||L2perの場合、ポテンシャルの収束特性は変化しない

より小さなεでは、ポテンシャルがV-normで参照から逸脱


3: 非拡大性と誤差境界の検証

近似写像の非拡大性を比Qερ)で数値的に確認

εが大きい場合Qε ≪ 1、ε→0+Qε→1-

誤差境界の比RεSεが理論的予測に従うことを確認


考察

1: MY反転スキームの利点

周期系に対して効率的な数値スキームを実現

厳密な数学的定式化との関連を維持

バルクシリコンなど実用的なシステムに適用可能


2: 誤差解析の意義

KS反転に対する初めての厳密な誤差境界を導出

数値計算で理論的予測を検証

より信頼性の高いKS反転スキーム開発への道を開く


3: 将来の研究方向

より複雑なシステムへの一般化

KS以外の正確なソースからの密度に対する適用

誤差推定のさらなる改善と効率化


4: 研究の限界

バルクシリコンのみを対象とした初期的な研究

より多様な系での検証が必要

計算効率のさらなる改善の余地がある


結論

MY枠組みを用いたKS反転の初めての物理系への適用

厳密な数学的結果と効率的な数値実装の結合

KS反転の数値解析への新しい洞察を提供


将来の展望

将来的な密度汎関数開発への貢献が期待される

量子埋め込み技術や最適化された有効ポテンシャルへの応用可能性

2024年9月21日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0134~

論文のタイトル: Synthesis and Characterization of an Eight-Membered Heterocyclic 1,3,5,7-Tetra(3-pyridyl)-1,3,5,7-tetrazacyclooctane(8員環複素環1,3,5,7-テトラ(3-ピリジル)-1,3,5,7-テトラザシクロオクタンの合成と特性評価)

著者: Li Li, Guo-Liang Dai, Xue Hua Zhu, Lei Yu, Hai Yan Li

出版: SynOpen  

巻: 7, 486–490

出版年: 2023


背景

1: 研究背景

シクロオクタンとその誘導体は数十年にわたり研究されてきた

8員環化合物は多様な立体配座を示す(ボートチェア、クラウン、ボートボートなど)

メチレン基をO、S、N原子で置換した8員環の研究は比較的少ない

既知の8員環複素環化合物には、1,5-ジアザシクロオクタン、1,5-ジチアシクロオクタンなどがある


2: 研究の重要性

8員環複素環化合物は大環状配位子として利用される

近年、O/N交互型やS/N交互型の8員環複素環化合物が報告されている

4つのN原子を含む8員環複素環化合物の報告は少ない

既知例には高エネルギー物質1,3,5,7-テトラニトロ-1,3,5,7-テトラザシクロオクタンがある


3: 研究目的

N,N'-ビス(3-ピリジル)メタンジアミンの合成と特性評価

1,3,5,7-テトラ(3-ピリジル)-1,3,5,7-テトラザシクロオクタンの合成

得られた化合物の結晶構造解析

理論計算による安定構造の確認


方法

1: 合成方法

N,N'-ビス(3-ピリジル)メタンジアミン(1)の合成:

  - 3-アミノピリジンとホルムアルデヒドをアセトニトリル中で反応

  - 80℃で16時間加熱還流

1,3,5,7-テトラ(3-ピリジル)-1,3,5,7-テトラザシクロオクタン(2)の合成:

  - 3-アミノピリジン、ホルムアルデヒド、アセトニトリルを密封容器中で反応

  - 90℃で10時間加熱


2: 構造解析手法

単結晶X線回折法による結晶構造解析

FT-IR分光法による構造確認

1H NMRおよび13C{1H} NMRスペクトル測定

質量分析による分子量確認

粉末X線回折による相純度の確認


3: 理論計算

DFT計算によるエネルギー的に安定な構造の探索

B3LYP/6-311++G**レベルでの構造最適化

振動解析による安定構造の確認

実験値との比較による理論レベルの妥当性確認


結果

1: 化合物1の構造

単結晶X線回折により単斜晶系P21/n空間群と決定

非対称単位中に2分子のN,N'-ビス(3-ピリジル)メタンジアミンを含む

Z型の形状で、2つのピリジン環が逆平行に配置

1H NMRスペクトルで構造を確認(δ = 7.95-4.63 ppm)


2: 化合物2の構造

単結晶X線回折により単斜晶系P21/c空間群と決定

非対称単位中に2分子の半分を含む

4つのピリジン環が空間的に互いに垂直に配置

N4C4複素環はツイストクラウン配座を取る

1H NMRスペクトル(δ = 8.13-4.87 ppm)と13C{1H} NMRスペクトル(δ = 142.30-83.26 ppm)で構造を確認


3: 理論計算結果

3つの安定配座を同定: ツイストクラウン、チェアチェア、ツイストボートボート

ツイストクラウン配座が最も安定

理論計算値と実験値の良好な一致を確認

結合長と結合角の理論値と実験値の比較を提示


考察

1: 合成条件の影響

反応物の比率と温度が8員環複素環化合物の形成に重要

室温以下での反応では1,5-ジオキサ-3,7-ジアザシクロオクタン誘導体が生成

高温条件(90℃)で1,3,5,7-テトラザシクロオクタン誘導体が生成

二段階反応による合成経路の確立


2: 構造的特徴

化合物2のN4C4複素環はツイストクラウン配座を取る

4つの対称独立なねじれ角: 110.70(12)°, -112.73(11)°, -31.72(15)°, -36.28(15)°

既報の1,3,5,7-テトラフェニルテトラゾシン(ツイストチェア配座)とは異なる

ピリジン環の立体障害や反応条件が配座に影響している可能性


3: 理論計算との整合性

DFT計算結果はツイストクラウン配座の安定性を支持

計算された結合長と結合角は実験値とよく一致

理論レベル(B3LYP/6-311++G**)の妥当性を確認

エネルギー的に不利な配座(チェアチェア、ツイストボートボート)も同定


4: 研究の限界点

反応メカニズムの詳細な解明には至っていない

他の置換基を持つ類縁体の合成と比較が行われていない

物性評価(熱安定性、溶解性など)が限定的

実用的な応用に向けた検討が不足している


結論

N,N'-ビス(3-ピリジル)メタンジアミンの新規合成法を確立

1,3,5,7-テトラ(3-ピリジル)-1,3,5,7-テトラザシクロオクタンの合成と構造決定に成功

ツイストクラウン配座の安定性を実験と理論の両面から証明


将来の展望

反応メカニズムの解明

類縁体の合成と物性比較

新規大環状配位子としての応用研究

2024年9月20日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0133~

論文のタイトル: Stereoselective Access to Diverse Alkaloid-Like Scaffolds via an Oxidation/Double-Mannich Reaction Sequence(酸化/二重マンニッヒ反応シーケンスによる多様なアルカロイド様骨格への立体選択的アクセス)

著者: Charles P. Mikan, Joseph O. Watson, Ryan Walton, Paul G. Waddell, Jonathan P. Knowles

出版: Organic Letters

巻: 26, 26, 5549–5553

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

新規小分子骨格へのアクセスは有機化学者にとって重要

3次元性の高い骨格は臨床試験での成功率が高い

架橋された二環式・多環式構造は生物活性が高く、合成的関心も高い


2: 未解決の課題

アルカロイド構造への合成アクセスは複雑な合成経路に限定されている

各合成経路は通常1つの環系にしかアクセスできない

より広範なアルカロイド様化学空間へのアクセスが望まれている


3: 研究の目的

簡単なアルケンから複雑な多環式骨格への変換法の開発

立体選択的な変換プロセスの確立

得られた骨格の多様な誘導体化の可能性の探索


方法

1: 合成戦略

ノルボルネン誘導体を出発物質として使用

酸化的開裂と二重マンニッヒ反応の連続反応を実施

tert-ブチルエステル基を立体制御に利用


2: 反応条件の最適化

二段階の酸化的開裂プロセスを開発

水-ジオキサン混合溶媒系を使用

ベンジルアミンを窒素源として使用


3: 生成物の構造決定と誘導体化

単結晶X線回折により生成物の立体化学を確認

エノールトリフレート形成の位置選択性を調査

鈴木カップリングなどのパラジウム触媒反応を実施


結果

1: 反応の基質適用範囲

N-PMBおよびO-ベンジル系での高収率を達成

ヘテロ環を含む基質も許容

endoおよびexoノルボルネン異性体から異なる生成物ジアステレオマーを生成


2: 生成物の誘導体化

N-ベンジル基の脱保護とアミド形成が可能

ケトンの立体選択的還元とアセチル化を実現

エノールトリフレート形成の位置選択性を制御


3: 骨格の再構築

エステル部分の脱保護と活性化により環形成を実現

8,5,5-三環式ラクタム骨格への変換に成功

得られた骨格の更なる誘導体化が可能


考察

1: 主要な発見

単純なノルボルネンから複雑な三環式骨格への変換を実現

高度な立体選択性と位置選択性を達成

多様な官能基化が可能な柔軟な合成中間体を得た


2: 研究の特色

8,5,5-三環式ラクタム骨格への新規変換法を開発

この骨格は更なる誘導体化が可能

アルカロイド様化合物ライブラリー合成への応用が期待される


3: 先行研究との比較

ロビンソンのトロピノン合成を拡張した手法

従来の還元的アミノ化と比べ、より複雑な骨格を構築可能

生体模倣的合成アプローチの新たな可能性を示唆


4: 研究の限界点

一部の基質で収率の低下が見られた

エノールトリフレート形成の位置選択性メカニズムは不明確


結論

単純なアルケンから複雑なアルカロイド様骨格への変換法を確立

高度な立体選択性と多様な誘導体化の可能性を実証


将来の展望

不斉合成への展開

医薬品候補化合物ライブラリーの拡充への貢献が期待される

非ノルボルネン系アルケンへの適用拡大

2024年9月19日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0132~

論文のタイトル: Photosensitizer-free singlet oxygen generation via a charge transfer transition involving molecular O2 toward highly efficient oxidative coupling of arylamines to azoaromatics

著者: Shivendra Singh and Tushar Kanti Mukherjee

出版: Chemical Science 

巻: 15, 13949-13957

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

一重項酸素O2(a1Δg)は有機変換や水の消毒、光線力学療法などに応用

従来は光増感剤(PS)を用いてO2(a1Δg)を生成

PSを用いる方法には適切な励起状態特性が必要で応用に制限あり

溶媒-O2錯体の電荷移動(CT)遷移によるPS不要のO2(a1Δg)生成が報告されている


2: 未解決の課題

CT遷移によるO2(a1Δg)生成の基礎的な光物理過程は研究されている

しかしCT遷移で生成したO2(a1Δg)を化学変換に利用した例はない

アゾ化合物合成では、高価な金属系光触媒が多く用いられている

環境に優しい水中での効率的なアゾ化合物合成法の開発が求められている


3: 研究の目的

水-O2錯体のCT遷移によるPS不要のO2(a1Δg)生成を実証

生成したO2(a1Δg)を用いてアリールアミンの酸化的カップリング反応を行う

触媒不要、水中、常圧下での効率的なアゾ化合物合成法の確立を目指す


方法

1: O2(a1Δg)の生成と検出 

UV-Visスペクトル測定によるCT吸収帯の確認

9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)を用いたO2(a1Δg)の検出

TEMPを用いたEPR測定によるO2(a1Δg)の検出


2: アリールアミンの酸化的カップリング反応

p-トルイジンをモデル基質として使用

K3PO4を塩基として添加

370 nm LEDで90分間照射

大気開放条件下、水中で反応を実施


3: 反応条件の最適化

光照射、塩基、酸素の有無による影響を調査

有機塩基(DABCO、ピペリジン)の効果も確認

メタノール、アセトニトリルなど他の溶媒での反応も検討


4: 反応機構の解明

BHTを用いたラジカルトラップ実験

DMPOを用いたスーパーオキシドラジカルの検出

H2O2検出用試験紙による過酸化水素の確認

LC-MSによるヒドラゾベンゼン中間体の同定


結果

1: O2(a1Δg)の生成

O2飽和溶媒で350 nm以上の長波長吸収帯を確認

DPAの吸光度減少とエンドペルオキシド生成を確認

EPRでO2(a1Δg)由来のシグナルを検出


2: アゾ化合物合成の最適化

370 nm照射下、90分で100%収率を達成

光照射と酸素が必須条件であることを確認

K3PO4、DABCO、ピペリジンなどの塩基が有効

水中で最も高い収率、メタノールでも90%の収率


3: 基質適用範囲と反応機構

電子供与性置換基を持つアニリン類で高収率(>90%)

電子吸引性置換基では収率が低下(p-クロロアニリン73%)

ヘテロカップリングも可能

アミンラジカル、スーパーオキシドラジカル、H2O2の生成を確認


考察

1: 主要な発見

水-O2錯体のCT遷移によるO2(a1Δg)生成を実証

生成したO2(a1Δg)を用いてアゾ化合物合成に成功

光触媒不要、水中、常圧下での効率的な合成法を確立


2: 反応の特徴

反応時間90分で高収率(100%)を達成

従来法(Ir系光触媒24時間、エオシンY 4時間)より大幅に短縮

基質適用範囲が広く、ヘテロカップリングも可能

グラムスケールでの合成にも成功


3: 反応機構

O2(a1Δg)からアミンへの1電子移動でアミンラジカル生成

アミンラジカルのカップリングでヒドラゾベンゼン中間体形成

さらなる酸化でアゾ化合物に変換

副生成物としてH2O2が生成


4: 研究の限界点

O2(a1Δg)の生成量子収率は測定していない

反応の量子収率は約0.15と比較的低い

電子吸引性置換基を持つ基質では収率が低下

p-ニトロアニリンでは反応が進行しない


結論

光増感剤不要のO2(a1Δg)生成とアゾ化合物合成を実現

環境に優しい水中での効率的な合成法を確立

CT遷移を利用した新たな光化学反応の可能性を示唆


将来の展望

他の有機変換反応への応用が期待される

O2(a1Δg)生成効率の向上が今後の課題

2024年9月18日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0131~

論文のタイトル: Rapid Access to Divergent Fused Polycycles Via One-Pot A3 Coupling and Intramolecular Diels-Alder Reaction

著者: Rajashekar Reddy Narra, Vignesh Gopalakrishnan Unnithan, Yifan Liu, Zhihong Guo*

出版: Chemistry - A European Journal

巻: 30, e202401449.

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景

ヘテロ環や炭素環は医薬品の重要な構造要素

既知薬物の環系の多くは芳香環と複素環を含む

飽和度の高い縮合多環系は稀だが、臨床的成功と関連

sp3炭素の割合が高いと選択性と溶解度が向上


2: 未解決の問題点

飽和縮合多環系の合成は困難

生体模倣カスケード反応や分子内ディールス・アルダー (IMDA) 反応では長い多段階合成が必要

ヘテロ原子を含む縮合多環系への迅速な合成アクセスが重要


3: 研究の目的

多成分反応とIMDA反応を組み合わせた一段階合成法の開発

A3カップリング反応を利用した新しい合成戦略の確立

多様な縮合多環系の迅速な合成アクセスの実現


方法

1: 研究デザイン

一段階反応によるヘテロ原子含有縮合多環系の合成

A3カップリング反応とIMDA反応の組み合わせ

様々な基質を用いた反応の適用範囲の検討


2: 反応条件の最適化

触媒、溶媒、温度などの反応条件の検討

CuI触媒、1,4-ジオキサン溶媒、100°Cが最適条件

不斉合成の試みは成功せず、ラセミ化が観察された


3: 基質適用範囲の検討

アルデヒド、アルキン、アミン基質の構造多様性を探索

置換基の効果や反応性への影響を調査

生成物の構造を1H NMR、13C NMR、2D NMR、HRMSで確認


4: 生成物の誘導体化

オキサ架橋二環部分の開環メタセシス反応

TiCl4を用いたオキサ架橋の開裂反応

1,6-エンイン部分の環化異性化反応


結果

1: 一段階反応の主な生成物

5/5/5三環系または5/5/6三環系の縮合多環化合物

非直線状5/5/6/5四環系化合物

オキサ架橋二環部分と1,6-エンイン部分を含む構造


2: 基質適用範囲

アルデヒド: フラン-2-カルバルデヒドが最適、5位置換基も許容

アルキン: 芳香族、脂肪族、シリル基などが適用可能

アミン: アルキル、ベンジル、シクロヘキシル、ヒドロキシアルキル基が適用可能


3: 誘導体化反応の結果

開環メタセシスによる多官能性二環系の合成

オキサ架橋開裂によるヘキサヒドロ-1H-イソインドール誘導体の合成

1,6-エンイン環化異性化による5/5/5/5四環系または5/5/5/5/5五環系の合成


考察

1: 主要な発見

A3カップリングとIMDA反応の組み合わせによる効率的な多環系合成

高い立体選択性でtrans-exo付加体が生成

基質の構造が生成物の多様性に大きく影響


2: 構造多様性

オキサ架橋二環部分と1,6-エンイン部分が多様な誘導体化を可能に

ヒドロキシ基を含む生成物からの追加環化反応による構造多様性の拡大

合計12種類の縮合多環系の合成に成功


3: 先行研究との比較

既存のPetasis反応/IMDA法やUgi反応/IMDA法と比較して、より複雑な多環系の合成が可能

生体模倣カスケード反応やIMDA反応による多段階合成法と比較して、迅速かつ効率的


4: 研究の意義

未探索の構造空間への迅速なアクセスを提供

生物活性物質探索のための多様な骨格合成法として有用

医薬品候補化合物ライブラリーの拡充に貢献


5: 研究の限界点

不斉合成が困難で、ラセミ体のみが得られる

一部の基質では望むIMDA反応が進行せず、A3カップリング生成物のみが得られる

生成物の生物活性評価は未実施


結論

A3カップリングとIMDA反応の組み合わせによる効率的な縮合多環系合成法を開発

多様な置換基を許容し、高い構造多様性を実現

生成物の誘導体化により、さらなる構造多様性の拡大が可能


将来の展望

本手法は新規生物活性物質の探索に有用なツールとなる可能性

今後は生成物の生物活性評価や不斉合成法の開発が課題

2024年9月17日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0130~

論文のタイトル: A Stoichiometric Haloform Coupling for Ester Synthesis with Secondary Alcohols(二級アルコールを用いるエステル合成のための化学量論的ハロホルムカップリング反応)

著者: Albert C. Rowett, Stephen G. Sweeting, David M. Heard, Alastair J. J. Lennox*

雑誌: Angewandte Chemie International Edition

出版年: 2024年


背景

1: ハロホルム反応の背景

1822年にG.-S. Serullasによって初めて報告された最古の有機合成反応の1つ

メチルケトンからカルボン酸への変換に広く利用されている

医薬品、天然物、香料の合成などに応用されている


2: エステル合成における課題

1944年にメチルエステル合成への応用が発見された

単純な一級アルコールでの反応は確立されている

二級アルコールを用いた反応例はほとんどない

溶媒量のアルコールが必要とされ、複雑なエステル合成に制限がある


3: 研究の目的

メチルケトンと1当量の広範囲なアルコールのカップリング反応の開発

一級および二級アルコールの両方に適用可能な一般的なハロホルム反応の確立

従来のハロホルム反応では合成困難だった構造的に複雑なエステルの直接構築


方法

1: 反応条件の最適化

一級アルコールを用いた反応条件の最適化

二級アルコールに適した反応条件の探索

ヨウ素とDBUを用いた無水条件下での反応


2: 機構解析と速度論的モデリング

競争実験による一級と二級アルコールの反応性比較

19F NMRを用いた反応時間経過の追跡

COPASIソフトウェアを用いた詳細な反応速度論モデルの構築


3: 基質適用範囲の探索

電子的に多様なアセトフェノン誘導体の検討

様々な一級および二級アルコールの適用

天然物由来の二級アルコールを含む複雑な基質の検討


結果

1: 一級アルコールとの反応

電子中性、電子不足、電子豊富な一級ベンジルアルコールが成功裏にカップリング

脂肪族一級アルコール、N-およびO-ヘテロ環状アルコールも適用可能

α,β-不飽和メチルケトンも適切な基質として機能


2: 二級アルコールとの反応

電子不足および電子豊富なベンジルアルコールが適合

立体的に嵩高いベンジルアルコールも反応可能

脂肪族二級アルコールも良好な収率で反応


3: 反応機構の解明

アセトフェノンのヨウ素化が平衡状態にあることを発見

二級アルコールの置換反応が一級アルコールよりも大幅に遅いことを確認

DBU·HIの生成が二級アルコールを用いた場合のエステル形成を阻害


考察

1: 反応条件の最適化

ヨウ素とDBUの濃度を上げることで、トリヨード中間体の生成を促進

モレキュラーシーブスの添加によりカルボン酸副生成物を除去

二級アルコールに適した反応条件を確立


2: 反応機構の考察

トリヨードアセトフェノン中間体の存在を示唆

DBU·HIによる脱ヨウ素化と二級アルコールによる置換反応の競合を提案

反応速度論モデルによる予測と実験結果の一致


3: 基質適用範囲の広さ

電子的に多様なアセトフェノン誘導体が適用可能

立体的に嵩高い二級アルコールも良好な収率で反応

天然物由来の複雑な二級アルコールにも適用可能


4: 研究の意義と限界

従来困難だった二級アルコールを用いたエステル合成を実現

反応機構の詳細な解明により、新たな反応設計の指針を提供

一部の電子豊富な芳香族化合物や端末アルキンには適用困難


結論

一級および二級アルコールに適用可能な一般的なハロホルムカップリング反応を開発

反応機構の解明により、効率的な二級アルコールのカップリングを実現

複雑な構造を持つエステルの直接合成が可能に


将来の展望

今後、より幅広い基質への適用や大規模合成への展開が期待される

2024年9月16日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0129~

論文のタイトル: Electron Donor–Acceptor Complex-Enabled Autoinductive Conversion of Acylnitromethanes to Acylnitrile Oxides in a Photochemical Machetti–De Sarlo Reaction: Synthesis of 5-Substituted 3-Acylisoxazoles(電子供与体-受容体錯体を利用した光化学的Machetti-De Sarlo反応:アシルニトロメタンからアシルニトリルオキシドへの自己誘導型変換による5-置換3-アシルイソキサゾールの合成)

著者: Piyaporn Arunkirirote, Pornteera Suwalak, Nattawadee Chaisan, Jumreang Tummatorn, Somsak Ruchirawat, and Charnsak Thongsornkleeb

出版: Organic Letters

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景(光化学反応の重要性)

光は有機変換における「痕跡のない」促進剤として注目されている

遷移金属錯体や有機染料が光増感剤として利用されてきた

電荷移動(CT)錯体、特に電子供与体-受容体(EDA)錯体の使用が増加

EDA錯体は独特の赤色シフトを示し、光増感剤として機能する


2: 未解決の課題(Machetti-De Sarlo ”MDS”反応の限界)

MDSの反応は通常熱条件下で行われてきた

これまで光化学的アプローチは実現されていなかった

反応の効率や適用範囲に制限があった

より穏和な条件での反応開発が求められていた


3: 研究目的(光化学的MDS反応の開発)

アシルニトロメタンと末端アルキンから5-置換3-アシルイソキサゾールを合成

新規EDA錯体を光増感剤として利用

反応の適用範囲と効率を向上

反応メカニズムの解明


方法

1: 反応設計

光化学的MDS反応の条件最適化

アシルニトロメタン、触媒量のLiOtBu、HFIPを用いてEDA錯体を形成

390 nmのLED光を照射

ベンゾイルニトロメタン(1a)とフェニルアセチレン(2a)をモデル基質として使用

酸素の排除は不要で、実用的な反応条件を確立


2: アルキン基質の適用範囲

様々な置換基を持つアリールアセチレンを検討

電子供与性、電子吸引性置換基の影響を評価


3: アシルニトロメタン基質の適用範囲

様々な置換基を持つアシルニトロメタンを検討

電子供与性、電子吸引性置換基の影響を評価

ハロゲン置換基の位置による反応性の違いを観察


結果

1: 反応結果

最適条件下で、多くの基質が中程度から良好な収率で目的物を与えた

4-ハロアリールアルキンが特に高い収率を示した(77-80%)

電子供与性基や電子吸引性基を持つ基質も適用可能

反応時間は基質によって5-24時間と幅があった


2: 基質の適用範囲

ヘテロ環を含むアルキンも適用可能

アルキルアセチレンにも適用可能だが、長い反応時間が必要

アルキル置換基を持つアシルニトロメタンも適用可能


3: EDA錯体形成と反応経路

UV-vis吸収スペクトルによりEDA錯体の形成を確認

自己誘導型の反応速度論的挙動を観察

ニトリト陰イオン触媒の生成を提案

ニトリルオキシド中間体を経由する反応機構を提案


考察

1: 光化学的MDS反応の利点

熱条件下よりも穏和な条件で反応が進行

高濃度(最大1.0 M)での反応が可能

誘導期が短く、より速い変換が可能

酸素存在下でも反応が進行し、実用性が高い


2:他の双極子求性剤との反応

スチレンやジフェニルアセチレンとの反応は複雑な混合物を与えた

エチルニトロアセテートとの反応は不完全だが、目的物を38%の収率で与えた

逆の化学量論比(アルキン1当量、アシルニトロメタン2当量)でも反応は進行


3: 反応のスケールアップと応用

ミリモールスケールでの反応でも中程度の収率(55%)を維持

HFIPの使用量を1 mLに抑えることが可能

ラジカル捕捉実験によりラジカル中間体の存在を示唆

生物学的に関連する分子への応用の可能性を示唆


結論

初めての光化学的MDS反応を開発

新規EDA錯体を光増感剤として利用

幅広い基質適用範囲と中程度から良好な収率を達成

自己誘導型の反応メカニズムを提案

実用的で穏和な条件下での反応を実現


将来の展望

光化学的MDS反応の更なる最適化と基質適用範囲の拡大

新規EDA錯体の設計による反応効率の向上

生物活性を持つイソキサゾール誘導体の合成への応用

連続フロー反応システムへの適用による大規模合成の検討

2024年9月15日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0128~

論文のタイトル: Streamlining the Synthesis of Pyridones through Oxidative Amination of Cyclopentenones

著者: Bence B. Botlik, Micha Weber, Florian Ruepp, Kazuki Kawanaka, Patrick Finkelstein, and Bill Morandi*

出版: Angewandte Chemie International Edition 

巻: e202408230

出版年: 2024


背景

1: 研究の背景(ピリドンの重要性)

N-ヘテロ環化合物は有機化学で広く使用される

FDA承認薬の半数以上にN-ヘテロ環が含まれる

ピリドンは上位200の医薬品に5つ含まれる

有機金属化学でも広く使用される


2: 未解決の課題(従来のピリドン合成法の課題)

古典的な縮合プロセスは長工程を要する

前駆体の前機能化が必要

過酷な反応条件を使用

汎用性に欠ける


3: 研究の目的

シクロペンテノンからピリドンへの直接変換法の開発

酸化的アミノ化による炭素骨格への窒素原子導入

操作が簡単で迅速な合成法の確立

官能基許容性と位置選択性の向上


方法

1: 反応設計

シクロペンテノンからシリルエノールエーテルを形成

超原子価ヨウ素試薬と窒素源を用いた窒素原子挿入

芳香化によるピリドン形成


2: 反応条件の最適化

シリル化剤の検討 (TBS、TIPS、TMSなど)

酸化剤の選択 (PIDA、PhI(OPiv)2、PIFAなど)

窒素源の検討 (カルバミン酸アンモニウム、塩化アンモニウム+炭酸カリウム)

溶媒系の最適化 (THF:メタノール = 1:1)


3: 反応スコープの検討

様々な置換基を持つシクロペンテノン誘導体の使用

1-インダノン誘導体を用いたイソキノリノン合成

官能基許容性の評価 (ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミド、アミンなど)


4: 15N標識化合物の合成

15NH4Clを用いた同位体標識ピリドンの合成

15N-ピルフェニドン類似体の合成

15N-キニソカインの合成


結果

1: 最適反応条件

TBSOTf、PIDA、カルバミン酸アンモニウムの組み合わせが最適

THF:メタノール = 1:1の溶媒系

室温で30分以内に反応完結


2: 基質スコープ

無置換および3-アルキル/アリール置換ピリドン合成に成功

イソキノリノン誘導体の位置選択的合成を達成

多置換ピリドンの合成も可能 (2k2l-2o)


3: 官能基許容性

ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、アミド、アミン、エステル、アルキンなどが許容

15N標識化合物の合成に成功 (15N-2f15N-2o15N-2s)

グラムスケール合成と誘導体化にも成功 (2c)


考察

1: 反応の特徴

操作が簡単で迅速な一段階合成

温和な条件下での反応 (室温、短時間)

完全な位置選択性を示す

広い官能基許容性


2: 従来法との比較

ベックマン転位とは異なる位置選択性 (2f")

前駆体の前機能化が不要

過酷な条件を必要としない


3: 15N標識化合物の意義

NMR研究への応用が可能

反応メカニズム解明への貢献

医薬品合成への応用 (15N-ピルフェニドン類似体、15N-キニソカイン)


4: 反応メカニズムの考察

シリルエノールエーテルからN-ヨードニウムアジリジン中間体の形成

環開裂とシリル基の脱離

芳香化によるピリドン形成


5: 研究の限界点

一部の基質で収率が中程度

反応メカニズムの詳細な解明が必要

さらなる基質スコープの拡大の可能性


結論

シクロペンテノンからピリドンへの効率的な合成法を開発

温和な条件、高い位置選択性、広い官能基許容性を実現

15N標識化合物の簡便な合成法を確立


将来の展望

学術研究および産業応用への貢献

さらなる反応メカニズム解明と基質スコープ拡大

2024年9月14日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0127~

論文のタイトル: Practical Site-Selective Oxidation of Glycosides with Palladium(II) Acetate/Neocuproine

著者: Niels R. M. Reintjens , Imke M. A. Bartels , Nittert Marinus , Sarina C. Massmann , Daan V. Bunt , Marthe T. C. Walvoort , Martin D. Witte∗ , Adriaan J. Minnaard∗

出版: Synlett 

巻: 35, 1291–1295

出版年: 2024


背景

1: カルボニル基の重要性

カルボニル基は有機合成化学の中心的役割を果たす

炭水化物の修飾にはヒドロキシ基の酸化が重要

位置選択的な酸化は保護基戦略や非保護炭水化物の修飾に有用

一級ヒドロキシ基の酸化は比較的確立されている


2: 二級ヒドロキシ基の選択的酸化の課題

非保護炭水化物の二級ヒドロキシ基の位置選択的酸化は困難

過去10年間で進展があったが、まだ課題が残る

Waymouthらの[(neocuproine)PdOAc]2(OTf)2触媒が注目される

この触媒は様々な基質に適用可能だが、普及が遅い


3: 簡便な酸化プロトコルの開発

商業的に入手可能なPd(OAc)2とneocuproineを用いた触媒系の開発

メタノール中での触媒のin situ調製

スクリーニング用の汎用性の高いプロトコルの確立

カラムクロマトグラフィーを避けた簡便な精製方法の開発


方法

1: 触媒系の最適化と基質適用範囲の調査

Pd(OAc)2とneocuproineを用いたin situ触媒系の開発

メタノール中での反応条件の最適化

様々な糖質基質に対する酸化反応の適用

簡便な精製方法の確立


2: 反応パラメーターの調整

溶媒:メタノールを選択(0.2 M濃度)

温度:50°Cで反応を実施

触媒量:Pd(OAc)2(5 mol%)、neocuproine (5 mol%)

酸化剤:ベンゾキノン (1.05当量)

反応時間:一晩(約18時間)


3: 簡便な精製プロトコル

反応混合物を濃縮後、水を添加

ジエチルエーテルで洗浄し、副生成物を除去

水層をシリンジフィルター(0.45μmと0.1μm)で濾過

凍結乾燥により最終製品を得る

純度90%以上の製品を得ることが可能


結果

1: 様々なグルコシドの酸化結果

メチル-α-グルコピラノシド:定量的収率(10グラムスケール)

チオグルコピラノシド:77%収率

保護グルコピラノシド:54-85%収率

キシロピラノシド:85%収率

グルクロノピラノシド:74%収率


2: 複雑な糖類の酸化

メチル-α-セロビオシド:62%収率

tert-ブチルベンジル-α-マルトシド:27%収率(副生成物の生成)

ダパグリフロジン:62%収率


3: 他の糖類の酸化挙動

メチルL-ラムノピラノシド:複雑な混合物を生成

メチルD-マンノピラノシド:複雑な混合物を生成

メチルD-ガラクトピラノシド:複雑な混合物を生成

プエラリン:C(3)からC(2)への転位生成物を形成(48%収率)


考察

1: in situ触媒系の有効性

Pd(OAc)2とneocuproineのin situ触媒系が機能することを実証

メタノール中での反応が高い収率を示す

グルコシドに対して特に効果的

簡便な精製法により、高純度の製品を得ることが可能


2: 基質の範囲と限界

グルコシド:高収率で目的の3-ケト糖を生成

二糖類:セロビオースは良好な収率、マルトースは課題あり

非グルコシド:過酸化や転位反応が課題

C-グリコシド:転位生成物の形成に注意が必要


3: Waymouthの触媒との比較

[(neocuproine)PdOAc]2(OTf)2触媒に比べ、活性はやや低い

しかし、商業的に入手可能な試薬で調製可能

スクリーニング用途に適している

一部の基質では同等以上の収率を達成


4: 方法の制限と課題

非グルコシドでの選択性の低さ

一部の基質での過酸化や転位反応

複雑な二糖類での収率の低下

高温(50°C)での反応が必要


結論

簡便な位置選択的糖質酸化法の確立

in situ調製可能なPd触媒系を用いた糖質の位置選択的酸化法を開発

グルコシドに対して高い効率と選択性を示す

簡便な精製法により、実用的なプロトコルを確立

非保護炭水化物の修飾における新たなツールを提供


将来の展望

非グルコシドへの適用拡大と選択性の向上

2024年9月13日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0126~

論文のタイトル: Transition Metal Mimetic π-Activation by Cationic Bismuth(III) Catalysts for Allylic C–H Functionalization of Olefins Using C═O and C═N Electrophiles(遷移金属様のπ活性化によるカチオン性ビスマス(III)触媒を用いたオレフィンのアリル位C-H官能基化)

著者: Ruihan Wang, Sebastián Martínez, Johannes Schwarzmann, Christopher Z. Zhao, Jacqueline Ramler, Crispin Lichtenberg, Yi-Ming Wang

出版: Journal of the American Chemical Society

巻: 146, 32, 22122–22128

出版年: 2024


背景

1: 研究背景

典型元素触媒の開発が注目されている

遷移金属触媒の代替として持続可能性が期待される

ビスマスは安定、無毒、安価、地球上に豊富に存在する元素

ビスマスの触媒としての可能性が注目されている


2: 未解決の課題

典型元素によるC(sp3)-H官能基化反応は稀少

ビスマス-オレフィン相互作用の直接的な証拠が不足

アリル位C-H官能基化における選択性制御が課題


3: 研究目的

カチオン性ビスマス(III)触媒の開発

オレフィンのアリル位C-H官能基化反応の確立

ビスマス-オレフィン相互作用の解明

反応機構の詳細な解析


方法

1: 触媒設計と最適化

様々なカチオン性ビスマス(III)錯体を合成

1,4-ペンタジエンとアルデヒドの反応を最適化

Lewis酸、塩基、溶媒の影響を調査


2: 基質適用範囲の検討

様々な電子求引性基質との反応を検討

アルデヒド、α-ケトエステル、N-スルホニルケチミン等

異なるオレフィン基質(アリルベンゼン、1,4-ジエン等)


3: 機構解析

速度論的同位体効果の測定

量論反応によるアリルビスマス中間体の検出

DFT計算による反応経路の解析

NMR、IR、質量分析によるBi-オレフィン相互作用の解明


結果

1: 最適化された反応条件

触媒: Bi1 (20 mol%)

塩基: 2,2,6,6-テトラメチルピペリジン (3.0 当量)

Lewis酸: TMSOTf (2.3 当量)

溶媒: 1,2-ジクロロエタン

温度: 70℃


2: 基質適用範囲

アルデヒド、α-ケトエステル、N-スルホニルケチミンと反応

1,4-ジエン、アリルベンゼン、単純アルケンが適用可能

高い位置選択性と立体選択性を達成 (>9:1 b/l, >5:1 d.r.)


3: 機構解析結果

速度論的同位体効果: kH/kD = 4.1

アリルビスマス中間体をHRMSで検出

DFT計算により閉環遷移状態を経由する機構を提案

Bi-オレフィン相互作用のNBOエネルギー: 15.6-20.6 kcal/mol


考察

1: 主要な発見

カチオン性ビスマス(III)触媒による新規C(sp3)-H官能基化

1,4-ジエンの選択的γ位官能基化を達成

従来の遷移金属触媒とは異なる位置選択性


2: 新たな知見

Bi-オレフィン相互作用の直接的な証拠を初めて提示

アリルビスマス中間体の生成と反応性を実験的に確認

計算化学により反応機構の詳細を解明


3: 先行研究との比較

典型元素によるC(sp3)-H官能基化の稀少な例

遷移金属様の反応性をビスマス触媒で実現

1,4-ジエンの位置選択的官能基化は従来法と異なる


4: 研究の限界点

触媒量が比較的多い (20 mol%)

基質適用範囲にまだ制限がある

不斉反応への展開が今後の課題


結論

カチオン性ビスマス(III)触媒による新規C-H官能基化反応を開発

Bi-オレフィン相互作用の直接的証拠を初めて提示

反応機構の詳細を実験と理論計算により解明

典型元素触媒の新たな可能性を示唆


将来の展望

不斉反応や他の官能基化への展開が期待される

2024年9月12日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0125~

論文のタイトル: A Scalable, One-Pot Synthesis of 1,2,3,4,5-Pentacarbomethoxy-cyclopentadiene

著者: M. Alex Radtke, Caroline C. Dudley, Jacob M. O'Leary, Tristan H. Lambert

出版: Synthesis

巻: 51, 1135–1138

出版年: 2019


背景

1: PCCPの重要性

1,2,3,4,5-ペンタカルボメトキシシクロペンタジエン(PCCP)は強い有機酸

有用な有機触媒の前駆体として機能

キラルブレンステッド酸やシリコンベースのルイス酸触媒に応用可能

1942年にOtto Dielsにより初めて報告された


2: 従来のPCCP合成法の問題点

2段階の合成過程が必要

中間体の精製が困難で副生成物が多い

高温での反応が必要

合成に3日間を要する労働集約的なプロセス


3: 研究の目的

PCCPの合成プロセスを改善する

ワンポット合成法の開発を目指す

室温での反応を実現する

中間体の単離を不要にする


方法

1: 新規合成法の開発アプローチ

ジメチルマロン酸エステルとジメチルアセチレンジカルボキシレートを原料として使用

溶媒条件の最適化を検討

有機塩基や水性塩基溶液の使用を評価

相間移動触媒の導入を検討


2: 反応条件の最適化

ピリジンと酢酸の触媒システムを維持

ジエチルエーテルの代わりにジクロロメタンを溶媒として使用

室温での反応を実現

大規模合成(約50g)でも安全に実施可能


3: ワンポット合成の確立

オクタカルボメトキシシクロヘプタジエン中間体の単離を回避

飽和K2CO3水溶液を用いた二相系反応を採用

ベンジルトリメチルアンモニウムクロリドを相間移動触媒として使用

16時間の反応時間で目的物を得る


結果

1: 新規合成法の成果

PCCPを48%の収率で合成(38.3gスケール)

従来法と比較して13%の収率向上を達成

反応時間を3日間から24時間に短縮

室温での反応を実現し、安全性を向上


2: 反応の均一性向上

従来法で生じていた取り扱いにくい不溶性物質の形成を回避

均一な反応溶液を得ることに成功

精製プロセスが簡略化され、取り扱いが容易に


3: 構造確認

1H NMR、13C NMR、HRMSによる生成物の構造確認

特徴的なNMRシグナル:δ = 20.11 (s, 1 H)、4.06 (s, 6 H)、3.92 (s, 6 H)、3.79 (s, 3 H)

HRMS: m/z [M – H]- calcd for C15H15O10: 355.0671; found: 355.06125


考察

1: 新規合成法の利点

ワンポット合成による操作の簡略化

室温での反応による安全性と省エネルギー性の向上

中間体単離の回避による時間と労力の節約

スケールアップが容易で、大量合成に適した手法


2: 従来法との比較

収率の向上:48%(新法)vs 35%(従来法)

反応時間の短縮:24時間(新法)vs 3日間(従来法)

精製プロセスの簡略化:均一溶液からの単離が可能に

安全性の向上:室温反応による発熱リスクの低減


3: PCCPの応用可能性

有機ブレンステッド酸触媒への応用

シリコンベースのルイス酸触媒としての利用

キラル触媒の開発における重要な前駆体

金属-PCCP錯体を用いた新規触媒系の探索


4: 研究の限界点

収率48%でまだ改善の余地がある

長時間(16時間)の反応時間が必要

相間移動触媒の使用による追加のコスト

水性塩基の使用による廃液処理の問題


結論

PCCPの効率的なワンポット合成法を開発

収率、反応時間、安全性の大幅な改善を実現

有機触媒開発における重要な前駆体の入手が容易に


将来の展望

さらなる条件最適化や新規応用の探索が期待される

2024年9月11日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0124~

論文のタイトル: Rh → Sb Interactions Supported by Tris(8-quinolyl)antimony Ligands(Rh → Sb 相互作用:トリス(8-キノリル)アンチモンリガンドによる支持)

著者: Casey R. Wade, Brendan L. Murphy, Shantabh Bedajna, François P. Gabbaï*

出版: Organometallics

出版年: 2024


背景

1: 研究背景

L型とZ型配位子を組み合わせた両親媒性システムが注目されている

グループ13元素をσ受容体として含む配位子の研究が活発

グループ15元素をZ型配位子とする非典型的なシステムも研究されている

リンとアンチモンを用いた遷移金属錯体の研究が進展


2: 既存研究と課題

アンチモン部位がZ型配位子として作用する錯体が報告されている

M → Sb相互作用の大きさは、アンチモンの酸化状態や電荷により調整可能

これらの効果は遷移金属中心の触媒特性向上に利用できる

L型支持配位子の性質が錯体の特性に与える影響は未解明


3: 研究目的

電子供与性窒素配位子を持つスチビンの酸化還元非無垢性を調査

トリス(8-キノリル)スチビンと(MeCN)3RhCl3の反応を検討

新規Rh-Sb錯体の合成と構造解析

Rh-Sb結合の性質を理論計算により解明


方法

1: 配位子合成

トリス(8-キノリル)スチビン(LQuin)の合成

  - 8-リチオキノリン3当量とSbCl3 1当量をTHF中で反応

  - -78°Cで反応を行い、黄色粉末として得られた

トリス(6-メチル-8-キノリル)スチビン(LQuin-Me)も同様に合成


2: 錯体合成

LQuinと(MeCN)3RhCl3をDMSO中で反応させ、錯体1を合成

LQuin-Meと(MeCN)3RhCl3を反応させ、錯体2を合成

単結晶X線構造解析により錯体の構造を決定


3: 理論計算

密度汎関数理論(DFT)計算により錯体1の構造を最適化

Natural Bond Orbital (NBO)解析によりRh-Sb結合の性質を調査

結合軌道の分極度を計算し、結合の性質を評価


結果

1: 配位子の構造

LQuinの1H NMRスペクトルで6本の置換キノリル基由来のシグナルを確認

単結晶X線構造解析によりLQuinの固体構造を決定

中心SbとキノリルのN原子間に短い接触(平均3.08 Å)を観測


2: 錯体1の構造

SbがRh-Cl結合に形式的に挿入した構造

Sb-Cl3結合長: 2.5414(18) Å(Ph3SbCl2の平均2.46 Åに近い)

Sb-Rh結合長: 2.4662(13) Å

Rh-Cl1結合長: 2.7071(19) Å(Rh-Cl2: 2.3585(17) Åより長い)


3: 理論計算結果

NBO解析でRhとSbを結ぶ結合性軌道を同定

結合軌道の組成: 66.1% Rh / 33.9% Sb

Rh-Sb結合がRh原子側に分極していることを示唆

Rh-Cl1結合もCl原子側に大きく分極


考察

1: Rh-Sb結合の性質

Rh-Sb結合はRh原子側に分極

2つの共鳴構造で記述可能:

  I: SbIVRhII錯体(共有結合)

  II: RhI錯体(Z型SbV配位子で安定化)


2: Rh-Cl結合の特徴

Rh-Cl1結合もCl原子側に大きく分極

NBO解析により、lp(Cltrans) → σ*(Rh-Sb)とlp(Cltrans) → s(Rh)の相互作用を確認

第3の共鳴構造III: Rh-Cl結合の強い分極を説明


3: 錯体の電子構造

3つの共鳴構造を統一的に説明する描像:

  - d8平面四角形RhI錯体

  - 充填されたdz2軌道からSbVZ型配位子への電子供与

Z型配位子のtrans位をより Lewis酸性に


4: 研究の意義

新規アンチモン中心三脚型配位子の合成に成功

Rh-Sb相互作用の極性を実験的・理論的に解明


結論

キノリルドナーリガンドを持つアンチモン中心三脚型配位子を合成

RhCl3との錯形成でSb中心がRh-Cl結合に酸化的挿入

極性Rh-Sb相互作用を持つ新規錯体を得た

RhI中心がSbのZ型配位子への供与で安定化されていると解釈可能


将来の展望

触媒応用に向けた研究

さらなる錯体の多様性や反応性の探索

2024年9月10日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0123~

論文のタイトル: Complex Boron-Containing Molecules through a 1,2-Metalate Rearrangement/anti-S N 2′ Elimination/Cycloaddition Reaction Sequence(複雑なホウ素含有分子の合成: 1,2-メタレート転位/anti-SN2'脱離/環化付加反応の連続)

著者: Chloe Tillin, Raphael Bigler, Renata Calo-Lapido, Beatrice S. L. Collins, Adam Noble, Varinder K. Aggarwal

出版: Synlett

巻: 30, 449-453

出版年: 2019年


背景

1: 研究背景

ホウ素エステルは有機合成で非常に多用途

立体特異的な変換反応が多数存在

α-アミノホウ素酸はセリンプロテアーゼの強力な阻害剤

複雑な構造を持つアルキルホウ素エステルの合成は課題


2: 未解決の問題

高度に官能基化された有機ホウ素分子の合成法が限られている

複数の直交した反応性を持つ分子の合成が困難

立体選択的な合成法の開発が必要


3: 研究目的

複雑な三次元構造を持つホウ素化合物の合成法開発

高い立体選択性と官能基許容性を実現

ワンポット反応による効率的な合成を目指す


方法

1: 反応設計

1,2-メタレート転位/anti-SN2'脱離の連続反応を利用

脱芳香化中間体をDiels-Alder環化付加反応で捕捉

PTADをジエノフィルとして使用


2: 反応条件の最適化

リチオ化ベンジルアミンとホウ素エステルから出発

ClCO2CMe2CCl3でアミンを活性化

PTADを添加して室温で1時間撹拌


3: 基質適用範囲の検討

様々なホウ素エステル基質を検討

置換ベンジルアミン類の反応性を評価

光学活性なα-メチルベンジルアミンを使用


結果

1: ホウ素エステル基質の適用範囲

かさ高いホウ素エステルでは高いsyn選択性 (17:1 ~ >20:1 dr)

小さなホウ素エステルではanti選択性 (1:1.6 ~ 1:3.0 dr)

様々な官能基(Boc保護アミン、アジド、アルデヒドなど)が許容される


2: ベンジルアミン基質の適用範囲

メチル基やフッ素置換基が許容される

電子豊富なベンジルアミンは単離が困難

収率34-83%、高いジアステレオ選択性 (>20:1 dr)


3: 光学活性基質の反応

光学純度を高く保持して反応が進行 (95:5 er)

高いジアステレオ選択性 (>20:1 dr)

マッチド/ミスマッチド効果は観察されず


考察

1: ジアステレオ選択性の考察

かさ高いR基ではBpin基の方が立体的に小さい

小さなR基ではBpin基の方が立体的に大きい

フェニル基では中間的な選択性を示す


2: 立体特異性の考察

ボロネート錯体の低エネルギー配座が選択的にN-アシル化

高い立体特異性でInt-I中間体が生成

環化付加過程で立体化学が保持される


3: 反応の有用性

複雑な三次元構造を一段階で構築可能

高度に官能基化された分子が得られる

光学活性な三級ホウ素化合物の合成法として有用


4: 研究の限界

電子豊富なベンジルアミンでは単離が困難

一部の基質で低いジアステレオ選択性

PTADのみが有効なジエノフィル


結論

1,2-メタレート転位/anti-SN2'脱離/環化付加の連続反応を開発

複雑な三次元構造を持つホウ素化合物の立体選択的合成に成功

高い官能基許容性と光学純度の保持を実現


将来の展望

得られた化合物の官能基変換

2024年9月9日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0122~

論文のタイトル: A Useful Method for the Conversion of Olefins to Nitro Olefins

著者: G. Sudhakar Reddy and E. J. Corey

出版: Organic Letters

巻: 23, 3399−3402

出版年: 2021


背景

1: 研究の背景

ニトロオレフィンは重要な有機合成中間体

従来の合成法には複数のステップや特殊な条件が必要

簡便で効率的な合成法の開発が求められていた

シクロペンテンからニトロシクロペンテンへの変換が報告された


2: 未解決の問題点

従来法の欠点:多段階反応や高圧・特殊条件が必要

CF3SO2ONO2が反応中間体として関与する可能性

様々なオレフィンへの適用可能性が未検討

反応機構の詳細が不明確


3: 研究の目的

トリフリルニトラートを用いたニトロ化反応の適用範囲の拡大

様々なオレフィン基質に対する反応性の検討

反応の操作性と安全性の向上

新規ニトロオレフィン合成法の確立


方法

1: 反応条件の最適化

テトラ-n-ブチルアンモニウムニトラートを使用

トリフルオロメタンスルホン酸無水物(トリフリック無水物)を添加

ジクロロメタン溶媒中、30℃で反応

テトラ-n-ブチルアンモニウムトリフラートの添加効果を検討


2: 基質の選択と反応条件

5〜8員環シクロアルケンを主な基質として使用

電子豊富なオレフィンと電子不足オレフィンの両方を検討

反応温度:30℃(一般的な条件)、-30℃(反応性の高い基質)

反応時間:基質に応じて調整


3: 生成物の単離と構造決定

シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製

1H NMR、13C NMRによる構造確認

既知化合物との物性データの比較

新規化合物の場合、2D NMR等による詳細な構造解析


結果

1: 環状オレフィンのニトロ化

5〜8員環シクロアルケンが高収率でニトロ化(70-80%)

電子不足オレフィン(エノン類)も効率的にニトロ化

位置選択性:主に共役ニトロオレフィンを生成

1-ニトロシクロペンテンは反応条件下で安定


2: 鎖状オレフィンのニトロ化

トリ置換電子豊富オレフィンは低温(-30℃)で反応

E,E-ファルネソールBOCエステルは選択的にアリル位ニトロ化

内部二重結合は反応せず、末端アリル位のみニトロ化

基質構造により共役/アリル位ニトロ化の選択性が変化


3: 芳香族置換オレフィンのニトロ化

スチレン誘導体はオルト位選択的にニトロ化

パラ位ニトロ化生成物は検出されず

電子求引基を持つスチレン誘導体も同様の選択性

フェニルプロピオン酸エステルはパラ位ニトロ化


考察

1: 反応の適用範囲

幅広いオレフィン基質に適用可能

π電子豊富および電子不足オレフィンの両方に有効

環状/鎖状オレフィン、芳香族置換オレフィンに適用可能

位置選択性は基質構造に依存


2: 反応機構の考察

トリフリルニトラート(CF3SO2ONO2)が活性種として作用

β-ニトロカルボカチオン中間体の形成を示唆

テトラ-n-ブチルアンモニウムトリフラートがプロトン受容体として機能

芳香族系での[4+2]環化付加機構の可能性


3: 方法論の利点

操作が簡便で安全性が高い

室温付近で反応が進行(一部の基質は低温)

高圧条件や特殊な装置が不要

ラボスケールでの合成に適している


4: 研究の限界点

1-ニトロシクロペンテンの反応性が低い

一部の基質で位置選択性の制御が困難

複雑な構造を持つ基質での予期せぬ転位反応

反応機構の詳細な解明が今後の課題


結論

トリフリルニトラートを用いた新規ニトロオレフィン合成法を確立

幅広い基質に適用可能で、高収率かつ位置選択的

操作性と安全性に優れ、ラボスケール合成に適している


将来の展望

有機合成中間体としてのニトロオレフィンの利用拡大

反応機構の詳細解明と選択性制御が今後の研究課題

2024年9月8日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0121~

論文のタイトル: Experimental and Calculated Electrochemical Potentials of Common Organic Molecules for Applications to Single-Electron Redox Chemistry(一般的な有機分子の実験的および計算された電気化学的電位:一電子レドックス化学への応用)

著者: Hudson G. Roth, Nathan A. Romero, David A. Nicewicz

出版: Synlett 

巻: 27, 714-723

出版年: 2016


背景

1: 研究背景

光レドックス触媒が新しい結合形成手法を開拓

光誘起電子移動(PET)が重要な役割を果たす

PETの熱力学的評価にはレドックス電位が必要

無機・有機金属錯体のレドックス電位は広く研究されている


2: 未解決の問題

有機基質のレドックス電位データが不足

有機分子は不可逆的なサイクリックボルタンメトリー(CV)を示すことが多い

不可逆系での正確なE°1/2値の決定は複雑


3: 研究目的

180以上の有機基質のハーフピーク電位(Ep/2)を測定

簡単な計算手法で有機基質のレドックス電位を決定

実験値と計算値の相関を検証


方法

1: 実験方法

サイクリックボルタンメトリー(CV)を使用

標準的な条件で測定を実施(同一スキャン速度など)

内部一貫性を維持するため同一の実験セットアップを使用

Fc+/Fcカップルの実験的E°1/2値を基準として報告


2: 計算方法

密度汎関数理論(DFT)計算を実施

B3LYPおよびM06-2X汎関数を使用

6-31+G(d,p)基底関数セットを採用

CPCMモデルでアセトニトリル溶媒効果を考慮


3: データ解析

実験的Ep/2値と計算値を比較

各官能基グループごとにデータを整理

電位はSCE(飽和カロメル電極)基準で報告


結果

1: 有機基質の実験的レドックス電位

芳香族炭化水素、アリールアセチレン: +1.5〜+2.5 V vs SCE

アルケン: +1.0〜+2.5 V vs SCE

フェノール、エーテル: +1.0〜+3.0 V vs SCE

アミン、チオフェノール: 0〜+2.0 V vs SCE


2: 官能基別の傾向

酸化電位: O > S > N の順で減少

ハロゲン化物の酸化/還元: I > Br > Cl の順で容易

カルボニル化合物: -2.5〜+3.0 V vs SCE の広い範囲に分布


3: 計算値と実験値の相関

B3LYP/6-31+G(d,p)が全体的に良好な相関を示す

M06-2Xは酸化電位を過大評価する傾向

一部の系(ハロゲン化物イオン、複素環など)で顕著な偏差


考察

1: 主要な発見

Ep/2値はE°1/2の良い近似となる

DFT計算は溶液中のレドックス電位予測に有用

B3LYPがM06-2Xより全体的に優れたパフォーマンス


2: 計算手法の利点と制限

簡便な計算手法で妥当な相関が得られる

アニオン種の取り扱いに改善の余地あり

対称性や非局在化が変化する系で課題が残る


3: データの応用

光レドックス触媒反応の設計に有用

PETの熱力学的評価が容易に

未知化合物のレドックス特性予測に活用可能


4: 研究の限界

不可逆系での正確なE°1/2値の決定は依然として課題

溶媒効果の取り扱いに改善の余地

一部の複素環化合物で計算値と実験値に乖離


結論

180以上の有機化合物のEp/2値を報告

DFT計算によるレドックス電位予測法を確立

光レドックス触媒反応開発の基盤データを提供


将来の展望

計算手法の更なる改良により予測精度向上が期待される

2024年9月7日土曜日

Catch Key Points of a Paper ~0120~

論文のタイトル: Total Synthesis of Ganoapplanin Enabled by a Radical Addition/Aldol Reaction Cascade

著者: Nicolas Müller, Ondřej Kováč, Alexander Rode, Daniel Atzl, and Thomas Magauer

出版: Journal of the American Chemical Society

巻: 146, 33, 22937–22942

出版年: 2024


背景

1: ガノデルマメロテルペノイドの概要

ガノデルマ属の菌類から単離された構造的に多様な天然物

100以上の化合物が知られている

共通の構造:ハイドロキノン部位とテルペノイド骨格の結合

3つのサブクラス:直鎖型、多環式、二量体型


2: ガノアプラニンの特徴

2016年にQiuによってGanoderma applanatumから単離

5つの連続する立体中心(うち2つが第四級)を持つ

前例のないスピロビスアセタール骨格を有する

T型電位依存性カルシウムチャネルの阻害活性を示す


3: 研究の目的

ガノアプラニンの初の全合成を達成する

複雑な構造を構築するための新しい合成戦略を開発する

生合成経路に着想を得た収束的な合成アプローチを実現する


方法

1: 合成戦略の概要

芳香族ポリケチド骨格と二環式テルペノイド断片の収束的カップリング

チタン(IV)媒介ヨードラクトン化による立体選択的合成

ラジカル付加/アルドール反応カスケードによる断片の融合

後期段階での酸化による官能基化


2: テルペノイド断片の合成

アルデヒド17とビニルヨージド18のNozaki-Hiyama-Kishi反応

Ti(Ot-Bu)4、CuO、ヨウ素を用いた立体選択的ヨードラクトン化

Krapcho条件下でのメチルエステルの除去

アリル化とオゾン分解によるアルデヒド15の合成


3: 芳香族断片の合成

フェノール22からの保護と還元によるベンジルアルコール23の合成

メシル化/臭素化によるベンジル臭化物24の合成

1,4-ヒドロキノンとのエーテル化によるベンジルエーテル25の合成

PIDA酸化によるキノンモノアセタール14の合成


4: 断片のカップリングと後期段階の変換

トリエチルボラン/酸素系を用いたラジカル開始

トリブチルスズヒドリドによる分子内ラジカル1,4-付加

分子間アルドール反応による断片の融合

後期段階での酸化によるスピロビスアセタールとラクトンの構築


結果

1: テルペノイド断片の合成結果

ヨードラクトン化による単一ジアステレオマーの形成(61%収率)

アルデヒド15の効率的な合成を達成


2: 芳香族断片の合成と断片カップリング

キノンモノアセタール14の高収率合成(82%)

ラジカル1,4-付加/アルドール反応カスケードによる脱芳香族化アセタール13の形成(81%収率)


3: ガノアプラニンの完成

選択的C4a酸化によるキノン29の形成

スピロビスアセタール11の立体選択的構築

銅(I)媒介酸化によるラクトン31の形成(47%収率)

最終的な脱アセチル化によるガノアプラニン(7)の合成


考察

1: 合成戦略の有効性

収束的アプローチによる効率的な全合成の実現

立体選択的ヨードラクトン化の成功

ラジカル/アルドール反応カスケードの新規性と有用性


2: 後期段階酸化の重要性

C4a位の選択的酸化によるスピロビスアセタール形成

ラクトン構築のタイミングが重要(早期導入は不適)


3: 保護基戦略の重要性

フェノールのアセチル保護が後期段階の変換に必須

ベンジル保護基の使用は最終段階の脱保護を困難にする


4: 研究の限界点

ラセミ体の合成(光学活性体の合成は未達成)

一部の変換における収率の改善余地


結論

ガノアプラニンの初の全合成を達成

新規ラジカル付加/アルドール反応カスケードの開発

後期段階酸化戦略の有効性を実証

本合成戦略は構造的に類似した天然物合成にも応用可能


将来の展望

光学活性体の合成

生物活性評価

類縁体合成

2024年9月6日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0119~

論文のタイトル: Cobalt–Magnesium and Cobalt–Calcium Heterotrimetallic Dinitrogen Complexes(コバルト-マグネシウムおよびコバルト-カルシウムヘテロ三核窒素錯体)

著者: Jocelyn Polanco, Theresa Knoell, Abolghasem Gus Bakhoda

出版: SynOpen

巻: 8, 63–67

出版年: 2024


背景

1: 窒素活性化の重要性

窒素活性化は無機・有機金属化学者の大きな関心事

アンモニア合成の代替ルート探索が目的

現行のハーバー・ボッシュ法は世界の一次エネルギーの1-2%を消費

CO2の排出量も世界の1%以上


2: 遷移金属を用いた窒素活性化

Ti, V, Cr, Mo, W, Re, Fe, Ru, Os, Coなどの遷移金属が研究されている

Mo, Fe錯体が最も有望な触媒として知られる

Coを含む卑金属系への関心が高まっている


3: アルカリ土類金属の利用

MgやCaなどのアルカリ土類金属による窒素活性化の研究は少ない

Mgを用いた研究例はいくつか報告されている

Caを用いた研究はさらに少ない


方法

1: 錯体の合成方法

[iPr2NN]Co(μ-Cl)2Li(thf)2前駆体を用いて合成

金属MgまたはCa粉末で還元

THF溶媒中、室温で反応


2: 生成物の単離と精製

セライト濾過で不溶物を除去

n-ペンタンに溶解し、シリンジフィルター濾過

-35℃で結晶化


3: 分析手法

1H NMR分光法で構造解析

IR分光法でN-N結合の活性化を評価

X線結晶構造解析で分子構造を決定

元素分析で組成を確認


結果

1: 得られた錯体の構造

{iPr2NNCo(μ-N2)}2Mg(thf)4 (2)とCa類似体(3)の合成に成功

化合物2の収率38%、3の収率21%

X線構造解析により[Co-N≡N-M-N≡N-Co]コアを確認(M = Mg, Ca)


2: 分光学的特性

化合物2のIRスペクトル: N-N伸縮振動 1882 cm-1

化合物3のIRスペクトル: N-N伸縮振動 1868 cm-1

両錯体とも遊離N2 (2331 cm-1)と比べて低波数シフト


3: 結晶構造の特徴

化合物2: Co-NN 1.685(3) Å, Mg-NN 2.07(7) Å, N-N 1.158(6) Å

化合物3: Co-NN 1.683(3) Å, Ca-NN 2.343(3) Å, N-N 1.149(3) Å

両錯体とも遊離N2 (1.11 Å)より長いN-N結合距離


考察

1: N2活性化の程度

IRスペクトルからN2の活性化を確認

MgとCaで活性化の程度に大きな差は見られない

アルカリ金属(Na, K)を用いた先行研究と比較して活性化は弱い


2: 構造の特徴

中心金属イオン(Mg2+, Ca2+)が八面体配位環境

2つの[iPr2NNCo(μ-N2)]-フラグメントが軸位に配位

4つのTHF分子が赤道位に配位


3: プロトン化反応

Brookhartの酸での処理によりNH3生成を確認

化合物2: 1.9-2.6%のNH3収率

化合物3: 3.2-3.8%のNH3収率

低収率だが、N2の活性化を示唆


4: 研究の限界点

NH3生成収率が低い

かさ高いβ-ジケチミナート配位子がN2へのアクセスを阻害

反応機構の詳細は不明


結論

Co-Mg, Co-Ca三核錯体によるN2活性化に成功

アルカリ土類金属(Mg, Ca)でもN2活性化が可能

アルカリ金属(Na, K)と比べ活性化の程度は低い

NH3生成を確認、さらなる触媒設計の指針を提供


将来の展望

配位子設計の最適化によるN2へのアクセス改善

反応機構の詳細解明

触媒活性向上のための新規金属組み合わせの探索

2024年9月5日木曜日

Catch Key Points of a Paper ~0118~

論文のタイトル: Versatile, Modular, and General Strategy for the Synthesis of α-Amino Carbonyls

著者: Jianzhong Liu and Matthew J. Gaunt*

出版: Journal of the American Chemical Society

出版年: 2024


背景

1: 研究背景

α-アミノカルボニル化合物は医薬品開発において重要な構造

アルキルアミンの塩基性を調整することで、生理活性分子の設計に影響

アミド、エステル、ケトン基をアルキルアミンに隣接させることが一般的

新しいα-アミノカルボニル合成法の開発が継続的な課題


2: 既存の合成法の限界

多段階反応や特殊な求電子剤が必要

カルボニル化合物の種類に制限あり

Strecker反応:有毒なシアン化物塩の使用、さらなる変換が必要

Ugi反応:有毒で不安定なイソニトリルの使用、二級アミド誘導体に限定


3: 研究目的

新しい多成分反応によるα-アミノカルボニル合成法の開発

既存のUgi反応やStrecker反応の利点を持ちつつ欠点を克服

単一ステップで合成可能で、豊富なC(sp3)リッチな原料から合成

アレイ型ライブラリー合成に適用可能な方法の確立


方法

1: 反応設計

可視光と Lewis 酸を用いたカルバモイルラジカルの生成

in situ 生成されたイミニウムイオンへのラジカル付加

4-カルボキサミド-1,4-ジヒドロピリジン (DHP) をラジカル前駆体として使用


2: 反応条件の最適化

溶媒:ジクロロメタン

光源:青色LED

Lewis酸:TBS-OTfとSc(OTf)3の組み合わせ

モレキュラーシーブス4Åの添加


3: 反応範囲の探索

アミン成分:環状・鎖状二級アミン、一級アミン

アルデヒド成分:α分岐、ヘテロ環、直鎖置換基を持つアルデヒド

カルバモイルラジカル前駆体:環状二級アミド、アニリド、一級アミド誘導体


結果

1: α-アミノアミド合成の基質適用性

様々な二級アミン、一級アミンで良好な収率

α分岐、ヘテロ環、直鎖置換基を持つアルデヒドが適用可能

シクロブタノンから四置換α-アミノアミドの合成に成功


2: カルバモイルラジカル前駆体の多様性

環状二級アミド、アニリド、一級アミド誘導体が良好な収率

α-アミノ酸由来の前駆体を用いた非天然型ジペプチドの合成


3: α-アミノケトン合成への応用

4-ケト-DHPを用いたα-アミノケトン合成に成功

二級アミン、一級アミンともに幅広い基質適用性

アルデヒド、ケトンの両方が利用可能


考察

1: 反応メカニズムの考察

Lewis酸によるDHPの活性化がカルバモイルラジカル生成に重要

UV-visスペクトルによるLewis酸効果の確認

速度論的解析からDHPの開裂が律速段階であることを示唆


2: 既存法との比較

Ugi反応やStrecker反応と比較して広い基質適用性

有毒な試薬を使用せず、環境にやさしい反応条件

単一ステップでα-アミノカルボニル化合物の合成が可能


3: ライブラリー合成への応用

2次元アレイ合成による48種のα-アミノアミド合成

高純度の化合物ライブラリーを効率的に作成

生物活性評価に直接使用可能な品質


4: 医薬品合成への応用

既存医薬品の1ステップ合成に成功(ブプロピオン、リドカインなど)

類縁体合成も容易に実施可能

創薬研究への応用が期待される


結論

新しいα-アミノカルボニル合成法の確立

広い基質適用性と操作の簡便さを実現

医薬品候補化合物ライブラリーの効率的な構築が可能


将来の展望

今後の創薬研究や有機合成化学の発展への貢献

2024年9月4日水曜日

Catch Key Points of a Paper ~0117~

論文のタイトル: A Convenient Route to 2-Bromo-3-chloronorbornadiene and 2,3-Dibromonorbornadiene(2-ブロモ-3-クロロノルボルナジエンと2,3-ジブロモノルボルナジエンへの便利な合成ルート)

著者: Anders Lennartson, Maria Quant, Kasper Moth-Poulsen*

出版: Synlett

巻: 26, 1501-1504

出版年: 2015


背景

1: ノルボルナジエンの重要性

ノルボルナジエンは1951年に初めて合成された

光誘起[2+2]分子内環化付加反応でクアドリシクラン(2)に変換可能

この反応は可逆的で、太陽エネルギー貯蔵に利用できる

分子太陽熱(MOST)エネルギー貯蔵システムとして知られる


2: 2-ブロモ-3-クロロノルボルナジエン(3)の重要性

2,3位を選択的に置換可能な重要な前駆体

2つの連続的鈴木クロスカップリング反応で置換可能

従来の合成法は発がん性のある1,2-ジブロモエタン(一部の国では使用が制限されている)を使用


3: 研究の目的

1,2-ジブロモエタンを使わない3の新しい合成ルートの開発

p-トルエンスルホニルブロミドを代替臭素源として使用

反応時間の短縮と収率の向上を目指す

2,3-ジブロモノルボルナジエン(8)の合成法も改良


方法

1: 2-ブロモ-3-クロロノルボルナジエン(3)の合成

ノルボルナジエンをSchlosserの塩基で脱プロトン化

p-トルエンスルホニルクロリドで塩素化

n-ブチルリチウムで再度脱プロトン化

p-トルエンスルホニルブロミドで臭素化


2: 2,3-ジブロモノルボルナジエン(8)の合成

ノルボルナジエンをSchlosserの塩基で脱プロトン化

p-トルエンスルホニルブロミドを0.5当量添加

再度p-トルエンスルホニルブロミドを0.5当量添加


3: 反応条件の最適化

ノルボルナジエンの過剰量を1.2当量に削減

反応温度を-84°Cから-41°Cに調整

反応時間を短縮


結果

1: 2-ブロモ-3-クロロノルボルナジエン(3)の合成結果

収率: 50%(従来法と同程度)

ノルボルナジエンベースの収率: 42%(従来法の12%から大幅改善)

ワンポット反応で合成可能


2: 2,3-ジブロモノルボルナジエン(8)の合成結果

収率: 37%(従来法の65%より低下)

ノルボルナジエンベースの収率: 15%(従来法の16%とほぼ同等)

反応時間が大幅に短縮


3: 新合成法の利点

毒性の高い1,2-ジブロモエタンの使用を回避

反応時間の大幅な短縮を実現

化合物3の合成においてノルボルナジエンの利用効率が向上

化合物8の合成も従来法と同程度の効率を維持


考察

1: 2-ブロモ-3-クロロノルボルナジエン(3)の合成改善

p-トルエンスルホニルブロミドが効果的な臭素化剤として機能

ワンポット反応により、中間体の単離が不要に

ノルボルナジエンの利用効率が大幅に向上(12%→42%)


2: 2,3-ジブロモノルボルナジエン(8)の合成

全体の収率は低下したが、ノルボルナジエンベースでは同等

反応時間の短縮により、1日で合成可能に

毒性の高い試薬を避けることで、安全性が向上


3: 新合成法の意義

環境に優しい合成ルートの確立

実験室での使いやすさの向上(短時間で合成可能)

MOSTシステム研究への貢献の可能性


4: 研究の限界

化合物8の合成における収率の低下

長期保存安定性に関する詳細な検討が必要

スケールアップ時の課題が未検討


結論

2-ブロモ-3-クロロノルボルナジエン(3)と2,3-ジブロモノルボルナジエン(8)の新しい合成ルートを確立

毒性の高い1,2-ジブロモエタンの使用を回避し、環境負荷を低減

反応時間の大幅な短縮により、実験室での利便性が向上


将来の展望

MOSTシステムなど、ノルボルナジエン誘導体の研究開発への貢献

さらなる最適化や大規模合成に向けた研究が期待される

2024年9月3日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0116~

論文のタイトル: Stereoelectronic effects in intramolecular S→N acyl migrations in diastereoisomeric 3-amino- and 3-methylamino-1,2,3-triphenylpropyl thiolacetates

著者: FVanya B. Kurteva, Maria J. Lyapova, and Ivan G. Pojarlieff

出版: ARKIVOC  

巻: (ii) 91-100

出版年: 2006 


背景

1: 研究の背景

立体電子効果は多くの変換反応で重要な役割を果たす

Deslongchampsの立体電子理論:隣接ヘテロ原子上の2つの孤立電子対が切断結合に対してアンチペリプラナー配座を取る

この理論は多くの実験的証拠によって支持されている

しかし、一部の研究者から批判もある


2: 未解決の問題

立体電子効果のシステイン系プロテアーゼへの関連性は不明確

低温での立体電子効果の妥当性に疑問がある

室温での中間体の分解経路が不明確


3: 研究の目的

トリフェニルプロパン骨格を持つジアステレオ異性体アミノチオールアセテートの分子内S→N アシル転移を調査

立体電子効果の役割を解明する

Deslongchampsのアンチペリプラナー孤立電子対仮説の検証


方法

1: 研究デザイン

ジアステレオ異性体3-アミノ-および3-メチルアミノ-1,2,3-トリフェニルプロピルチオールアセテートの合成

トリエチルアミン触媒下での分子内S→N アシル転移の速度論的研究

IR分光法による反応モニタリング


2: 実験手順

0.02 M チオールアセテート溶液を調製

10倍モル過剰のトリエチルアミンを添加

25±0.5°Cで反応を実施

適切な間隔でIRスペクトルを記録


3: データ解析

GRAFIT 4プログラムを用いた非線形曲線フィッティング

一次反応速度式を使用

初期および最終吸光度を調整可能パラメータとして扱う


結果

1: 反応速度定数

化合物ET-1: (1.2 ± 0.1) x 10^-4 sec^-1

化合物ET-2: 7 x 10^-6 sec^-1 (概算)

化合物TE-2: (3.7 ± 0.6) x 10^-6 sec^-1

化合物EE-2: (6.7 ± 0.2) x 10^-7 sec^-1


2: 立体配置の影響

化合物EE-2は、TE-2ET-2よりも6倍および10倍遅く反応

化合物ET-2TE-2よりも速く反応する傾向


3: N-置換基の影響

化合物ET-1ET-2よりも20倍速く反応

活性化自由エネルギーの差は約1.8 kcal/mol


考察

1: 立体電子効果の証拠

化合物EE-2の遅い反応速度は、1,3-平行Ph↔Me相互作用による

この相互作用は、ET-2TE-2の1,3-平行Ph↔O-相互作用よりも強い

これはDeslongchampsの立体電子仮説と一致


2: 反応機構の考察

C-S結合の開裂が律速段階であると仮定

これはKaloustianとNaderの低温での結果と一致

システインプロテアーゼの作用機構への示唆


3: N-メチル置換の影響

N-メチル基が軸位に強制されることで、EE異性体の反応性が大きく低下

これにより、予想される反応性の順序が変化


4: 研究の限界

反応速度の差は極端に大きくはない

塩基触媒によるアミノリシスでは、通常アミノ基の脱プロトン化が律速段階


結論

ジアステレオ異性体アミノチオールアセテートの分子内S→N アシル転移の反応性は立体電子効果によって説明可能

Deslongchampsのアンチペリプラナー孤立電子対仮説が支持された

システインプロテアーゼの作用機構解明への手がかりを提供


将来の展望

より広範な基質での検証や酵素反応への応用が期待される

2024年9月2日月曜日

Catch Key Points of a Paper ~0115~

論文のタイトル: Crystallographic and spectroscopic studies on persistent triarylpropargyl cations

著者: Takuya Shimajiri, Taiga Tsue, Shumpei Koakutsu, Yusuke Ishigaki, Takanori Suzuki

出版: Chemical Communications

巻: 60, 7152-7155

出版年: 2024


背景

1: 研究背景

カルボカチオンは有機化学における重要な化学種

非共役カルボカチオンは高反応性

トリアリールメチルカチオンは比較的安定

平面性の高いトリアリールメチルカチオンは魅力的な特性を持つ


2: 未解決の問題

トリアリールプロパルギルカチオンの報告は少ない

電子吸引性の-CRC-基により不安定

X線結晶構造解析に適した安定性を持つ例がない


3: 研究目的

電子的安定化と立体保護を施したトリアリールプロパルギルカチオンの設計

X線結晶構造解析による詳細な構造決定

電子状態と分子間相互作用の解明


方法

1: 分子設計と合成

メシチルエチニル基置換ジアリールメチルカチオンの設計

プロパルギルアルコール前駆体の合成

酸処理によるカチオンの生成


2: 構造解析

X線結晶構造解析による分子構造の決定

UV/Visスペクトル測定による電子状態の評価

IRスペクトル測定によるCRC伸縮振動の観察


3: 理論計算

DFT計算によるHOMO-LUMO分布の予測

自然電荷解析による電荷分布の評価

結合長変化の予測と実験値との比較


結果

1: 分子構造

X線構造解析により平面構造を確認

化合物1+TfO-: y1 = 31°, y2 = 38°

化合物2+TfO-: 完全平面構造 (y1 = y2 = 0°)


2: 電子状態

UV/Visスペクトル: λmax = 543-547 nm

50-100 nm の赤方シフトを観測

IRスペクトル: CRC伸縮振動 2115-2131 cm-1


3: 結晶構造

化合物2+TfO-: 電荷分離型集合体を形成

化合物2+BF4-: 最短C…C接触 3.40 Å

化合物2+NTf2-: 二種類の多形を観測


考察

1: 分子構造の特徴

-CRC-基の挿入により平面性が向上

立体保護により C3 位置が安定化

結合交替の減少を確認


2: 電子状態の考察

π共役の効率化により赤方シフトが発生

CRC伸縮振動の低波数シフトは非局在化を示唆

HOMO-LUMO分布の広がりを確認


3: 結晶構造の特徴

対イオンの選択により集合様式を制御可能

π-π相互作用と分散力が集合体形成に寄与

電荷分離型集合体の形成メカニズムを提案


4: 研究の限界

水の添加により分解が起こる

長期保存は固体状態で可能だが、溶液中での安定性に制限あり

対イオンの種類による物性変化の詳細なメカニズム解明が必要


結論

初のX線構造解析によるトリアリールプロパルギルカチオンの構造決定

電荷分離型集合体の新規結晶モチーフを発見


将来の展望

新しい色素や電子材料のプラットフォームとしての可能性

対イオン選択による固体物性制御の可能性を示唆

2024年9月1日日曜日

Catch Key Points of a Paper ~0114~

論文のタイトル: Determining the Relative Configuration of Propargyl Cyclopropanes by Co-Crystallization(共結晶化によるプロパルギルシクロプロパンの相対配置の決定)

著者: Felix Krupp, Marie-Idrissa Picher, Wolfgang Frey, Bernd Plietker, Clemens Richert

出版: Synlett 

巻: Volume32, 350-353

出版年: 2021


背景

1: 研究背景

有機合成反応では複数の立体異性体が生成することが多い

ジアステレオマーの区別は通常NMRスペクトロスコピーで行われる

化学シフトや結合定数の差が小さい場合、区別が困難

複雑な分子では、ピークの重なりが正確な帰属を妨げる


2: 未解決の問題

NMR法が失敗した場合、結晶化が難しい化合物の立体配置決定が課題

X線結晶構造解析は構造決定に有効だが、単結晶の取得が必要

単結晶を得ることが困難な化合物が多く存在する

ラセミ混合物は純粋な化合物よりも結晶化が困難


3: 研究目的

テトラアリルアダマンタンを用いた共結晶化法の適用範囲拡大

鉄触媒によるシクロプロパン化反応生成物の相対配置決定

結晶化が困難な有機分子の立体化学配置決定手法の確立

迅速かつ少量のサンプルで結果を得る方法の開発


方法

1: 共結晶化法

結晶化シャペロンとして1,3,5,7-テトラキス(2-ブロモ-4-メトキシフェニル)アダマンタン(TBro)を使用

30 μLのHPLC精製済みラセミ混合物と5 mgのTBroを混合

70°Cに加熱して均一溶液を形成

ホットプレートをオフにして自然冷却により結晶化


2: X線結晶構造解析

結晶化翌日に適切な結晶を選択

X線回折測定を実施

得られたデータをもとに相対配置を決定

結晶構造をケンブリッジ結晶構造データベースに登録


3: 分析対象化合物

cis-1およびtrans-1: プロパルギルシクロプロパン誘導体

cis-2およびtrans-2: プロパルギルシクロプロパン誘導体

上記化合物のラセミ混合物を使用

1:4のcis-1/trans-1混合物も分析対象として使用


結果

1: 共結晶構造の形成

cis-1、trans-1、trans-2がTBroと共結晶を形成

cis-2はTBroとの共結晶形成に失敗

3つの異なる結晶系(三方晶系、単斜晶系、三斜晶系)を観察

すべての場合でラセミ共結晶構造を取得


2: 相対配置の決定

cis-1、trans-1、trans-2の相対配置を明確に決定

非対称単位中に2分子の分析対象化合物を含む

1分子は良く整列し、もう1分子は部分的に無秩序

TBro分子間に分析対象分子の層が形成される


3: 混合物からの結晶化

1:4のcis-1/trans-1混合物からの結晶化に成功

主要なジアステレオマー(trans-1)のラセミ結晶構造を取得

構造決定に2日未満の時間で成功

良く整列した分析対象分子を含む結晶構造を得る


考察

1: 主要な発見

テトラアリルアダマンタンを用いた共結晶化法の有効性を確認

ラセミ混合物の相対配置決定に成功

従来の結晶化手法よりも少量のサンプルで結果を取得


2: 方法の利点

溶媒のスクリーニングや特別な結晶化条件が不要

48時間以内に最終結果を得ることが可能

複数の立体異性体を含む混合物からも主要成分の構造決定が可能


3: 応用可能性

有機合成反応の方法開発や触媒研究の加速に貢献

天然物の構造決定にも応用可能

立体化学が重要な有機化学分野全般での活用が期待される


4: 研究の限界

一部の化合物(cis-2)では共結晶形成に失敗

複雑な混合物からの選択的結晶化には課題が残る

結晶性包接化合物の形成メカニズムの詳細は不明


結論

テトラアリルアダマンタンを用いた共結晶化法の適用範囲を拡大

ラセミ混合物の相対配置決定に成功し、手法の有効性を実証

迅速かつ少量サンプルでの構造決定が可能に


将来の展望

有機合成や天然物化学での活用が期待される

結晶化メカニズムの解明や適用範囲のさらなる拡大が今後の課題