2024年8月2日金曜日

Catch Key Points of a Paper ~0088~

論文のタイトル: A Zwitterionic, 10 π Aromatic Hemisphere(新しい概念: 双性イオン性10π電子芳香族半球分子)

著者: Nema Hafezi, Wondimagegn T. Shewa, James C. Fettinger, Mark Mascal

出版: Angewandte Chemie International Edition

巻: 56, 14141-14144

出版年: 2017年 


背景

1: 芳香族化合物の歴史

芳香族性の概念は長い歴史を持つ

Hückelの4n+2則が基本原理

より大きな環状π電子系への関心

n=7までの親炭化水素が合成済み

10π電子芳香族性の実現は挑戦的


2: 10π電子芳香族性へのアプローチ

平面シクロデカペンタエンは仮想的

融合芳香族系では個別に6π性を示す

環縮小+負電荷導入: [C9]-, [C8]2-など

架橋による平面性強制: ビシクロ[4.4.1]ウンデカペンタエンなど

三環式メタノ架橋アナログも知られる


3: 研究の目的

架橋と環縮小を組み合わせた新しいアプローチ

四級アンモニウム中心による電荷バランス

全体として中性のzwitterionic 10π系の設計

アザトリキナン骨格に基づく新規分子10の合成


方法

1: 合成戦略

アザトリキナセン11を出発物質として使用

メチル化によるアンモニウム塩12の合成

臭素化によるジブロモ体13の合成

塩基による脱HBrと脱プロトン化で目的物10を得る


2: 構造解析手法

1H-NMR、13C-NMR、14N-NMRによる構造確認

X線結晶構造解析による固体状態の構造決定

理論計算(DFT)による電子構造の解析

NICS値計算による芳香族性の評価


3: 物性評価

溶解性試験: ペンタンへの溶解性確認

酸性度評価: 酢酸、メタンスルホン酸との反応性

求核置換反応: シアン化ナトリウムとの反応


結果

1: 化合物10の合成と構造

高収率で目的の化合物10を合成

NMRスペクトルが芳香族性を示唆

X線結晶構造解析で分子構造を確認

計算結果が実験データと良く一致


2: 芳香族性の評価


C-C結合長の均一化 (Δr = 0.0237 Å)

NICS(1)値: -12.31 ppm (ベンゼンより低い)

14N-NMRシフト: 144.6 ppm (非芳香族前駆体より低磁場)


3: 結晶構造と分子間相互作用

分子が平行にスリップスタック配列

アンモニウムメチル基と10π環の凹面部分が接触

静電ポテンシャルマップが相互作用を支持


考察

1: 新規10π芳香族系の特徴

内部電荷補償による安定なzwitterion構造

弱塩基性かつ炭化水素溶媒に可溶

C3v対称性と永久的な曲率を持つ

従来のアニオン性芳香族とは異なる特性


2: 電荷補償の効果

アンモニウム基との3つの結合が重要

正電荷が芳香環の上部にあることで効果的

pKa < 4と推定される高い安定性


3: 結晶パッキングの特徴

静電相互作用とホスト-ゲスト型相互作用

メチル基と10π環の凹面部分の相補的な関係

分子設計による自己組織化の可能性


4: 研究の限界点

反応性や物性の詳細な評価は今後の課題

類似化合物との直接比較データが限られている

理論計算の精度に依存する部分がある


結論

新しい10π芳香族半球分子の設計と合成に成功

内部電荷補償による安定なzwitterion構造を実現

芳香族性と曲率を併せ持つユニークな分子設計


将来の展望

新しい機能性材料や超分子構造体への応用可能性

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