論文のタイトル: A Zwitterionic, 10 π Aromatic Hemisphere(新しい概念: 双性イオン性10π電子芳香族半球分子)
著者: Nema Hafezi, Wondimagegn T. Shewa, James C. Fettinger, Mark Mascal
出版: Angewandte Chemie International Edition
巻: 56, 14141-14144
出版年: 2017年
背景
1: 芳香族化合物の歴史
芳香族性の概念は長い歴史を持つ
Hückelの4n+2則が基本原理
より大きな環状π電子系への関心
n=7までの親炭化水素が合成済み
10π電子芳香族性の実現は挑戦的
2: 10π電子芳香族性へのアプローチ
平面シクロデカペンタエンは仮想的
融合芳香族系では個別に6π性を示す
環縮小+負電荷導入: [C9]-, [C8]2-など
架橋による平面性強制: ビシクロ[4.4.1]ウンデカペンタエンなど
三環式メタノ架橋アナログも知られる
3: 研究の目的
架橋と環縮小を組み合わせた新しいアプローチ
四級アンモニウム中心による電荷バランス
全体として中性のzwitterionic 10π系の設計
アザトリキナン骨格に基づく新規分子10の合成
方法
1: 合成戦略
アザトリキナセン11を出発物質として使用
メチル化によるアンモニウム塩12の合成
臭素化によるジブロモ体13の合成
塩基による脱HBrと脱プロトン化で目的物10を得る
2: 構造解析手法
1H-NMR、13C-NMR、14N-NMRによる構造確認
X線結晶構造解析による固体状態の構造決定
理論計算(DFT)による電子構造の解析
NICS値計算による芳香族性の評価
3: 物性評価
溶解性試験: ペンタンへの溶解性確認
酸性度評価: 酢酸、メタンスルホン酸との反応性
求核置換反応: シアン化ナトリウムとの反応
結果
1: 化合物10の合成と構造
高収率で目的の化合物10を合成
NMRスペクトルが芳香族性を示唆
X線結晶構造解析で分子構造を確認
計算結果が実験データと良く一致
2: 芳香族性の評価
C-C結合長の均一化 (Δr = 0.0237 Å)
NICS(1)値: -12.31 ppm (ベンゼンより低い)
14N-NMRシフト: 144.6 ppm (非芳香族前駆体より低磁場)
3: 結晶構造と分子間相互作用
分子が平行にスリップスタック配列
アンモニウムメチル基と10π環の凹面部分が接触
静電ポテンシャルマップが相互作用を支持
考察
1: 新規10π芳香族系の特徴
内部電荷補償による安定なzwitterion構造
弱塩基性かつ炭化水素溶媒に可溶
C3v対称性と永久的な曲率を持つ
従来のアニオン性芳香族とは異なる特性
2: 電荷補償の効果
アンモニウム基との3つの結合が重要
正電荷が芳香環の上部にあることで効果的
pKa < 4と推定される高い安定性
3: 結晶パッキングの特徴
静電相互作用とホスト-ゲスト型相互作用
メチル基と10π環の凹面部分の相補的な関係
分子設計による自己組織化の可能性
4: 研究の限界点
反応性や物性の詳細な評価は今後の課題
類似化合物との直接比較データが限られている
理論計算の精度に依存する部分がある
結論
新しい10π芳香族半球分子の設計と合成に成功
内部電荷補償による安定なzwitterion構造を実現
芳香族性と曲率を併せ持つユニークな分子設計
将来の展望
新しい機能性材料や超分子構造体への応用可能性
0 件のコメント:
コメントを投稿