論文のタイトル: Interrupted SNAr-Alkylation Dearomatization
著者: Bilal Altundas, John-Paul R. Marrazzo, Tore Brinck, Christopher Absil, and Fraser F. Fleming
出版: JACS Au
巻: 2024, 4, 1118−1124
出版年: 2024年
背景
1: 研究背景
芳香族化合物は産業プロセス、生物学的機構、医薬品有効成分として重要
芳香族化合物の脱芳香化は高価値製品への変換に有効
既存の脱芳香化法は強い還元条件を必要とする場合が多い
より穏和な条件での新しい脱芳香化戦略が求められている
2: 研究の課題
単純なベンゼン誘導体の脱芳香化は、π系の安定性のため困難
古典的な溶解金属還元は強い還元条件を必要とする
σ錯体を経由する新しい脱芳香化経路の開発が望まれる
3: 研究目的
リチウム化ニトリルやイソシアニドを用いた穏和な脱芳香化法の開発
溶媒効果を利用したσ錯体の形成と捕捉による複雑なシクロヘキサジエンの合成
置換ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピリジンの効率的な脱芳香化
方法
1: 脱芳香化手順
ベンゾニトリル(1.0当量)をリチウム化ニトリルのTHF溶液(-78°C)に添加
1時間後、求電子剤(2.1当量)を添加
反応混合物を水で処理し、有機層を抽出・精製
2: 最適化研究
溶媒効果の検討(ヘキサン、トルエン、エーテル、THF、DME、ジグリム)
リチウム化ニトリルの当量、反応温度、時間の最適化
18-crown-6の添加効果の検討
3: 基質適用範囲の検討
様々な置換ベンゾニトリル、ナフタレン、アントラセン、ピリジンの反応
リチウム化イソシアニドを用いた反応の検討
異なる求電子剤(ベンジルブロミド、アリルブロミド、ヨウ化メチル)の使用
4: 計算化学的解析
M06-2X/jun-cc-pVTZレベルでの計算
局所電子付着エネルギーを用いた位置選択性の予測
反応機構の解明のための自由エネルギー計算
結果
1: 溶媒効果と反応最適化
ジグリムが最も高い収率(91%)を示した
THFでは48%、DMEでは64%の収率
リチウムカチオンの溶媒和が反応効率に重要な役割を果たす
2: 基質適用範囲
様々な置換ベンゾニトリルが効率的に脱芳香化された
ナフタレン、アントラセン、ピリジンも反応に適用可能
リチウム化イソシアニドも効果的な求核剤として機能
3: 位置選択性と立体選択性
オルト位またはパラ位での選択的な反応が観察された
ほとんどの場合、単一のジアステレオマーが得られた
ヨウ化メチルを用いた場合のみ、ジアステレオマー混合物が生成
考察
1: 反応機構の考察
σ錯体の形成が反応の鍵となる中間体
ジグリム中でのリチウムカチオンの溶媒和が反応を促進
求電子剤による捕捉が律速段階である可能性
2: 計算化学的知見
局所電子付着エネルギーが位置選択性を予測するのに有効
パラ位での攻撃が熱力学的に有利
リチウムカチオンの存在が反応障壁に影響を与える
3: 従来法との比較
本法は、従来の溶解金属還元法よりも穏和な条件で進行
複雑なシクロヘキサジエン骨格を短工程で構築可能
高い官能基許容性を示す
4: 研究の限界点
ベンゾニトリル自体の反応性は低い
一部の求電子剤では反応が進行しない
反応のスケールアップに関する検討が不十分
結論
リチウム化ニトリル/イソシアニドを用いた新規脱芳香化法を開発
穏和な条件下で複雑なシクロヘキサジエン骨格を構築可能
位置選択的かつジアステレオ選択的な反応
将来の展望
生物活性分子合成への応用が期待される
反応機構のさらなる解明と基質適用範囲の拡大
0 件のコメント:
コメントを投稿