2024年8月24日土曜日

ペリ環状反応とFMO理論おさらい2012

ペリ環状反応とFMO理論および関連する概念について、JAGDAMBA SINGHとJAYA SINGHの書籍Photochemistry and Pericyclic Reactionsに沿っておさらいします。

軌道対称性は、ペリ環状反応が可能かどうか、可能であれば、熱的に起こるのか、光化学的に起こるのかを決定する上で重要な役割を果たします。

1. 電子環状反応

電子環状反応は、単一のπ結合が環状系の開環または閉環をもたらすように再編成される、ペリ環状反応の1種です。これらの反応は、反応に関与するπ電子の数と、反応が熱的に誘起されるか光化学的に誘起されるかによって、同旋的または逆旋的のいずれかの立体特異的な様式で進行します。フロンティア分子軌道(FMO)法を用いると、この概念を理解することができます。

軌道対称性の概念を使用して、特定の電子環状反応が同旋的または逆旋的に進行するかどうかを予測できます。この分析には、反応物と生成物の分子軌道(MO)、特に最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)の対称性を考慮することが含まれます。

例えば、1,3-ブタジエンからシクロブテンへの変換を考えてみましょう。シクロブテンを形成するには、分子の両端にあるp軌道が互いに重なり合う必要があります。

基底状態、すなわち熱条件下では、1,3-ブタジエンのHOMOはC2-C3の中心を対称面にして逆対称です。両方のp軌道が同じ位相になった場合のみ、すなわち反応が同旋的に進行する許容されます。

対照的に、1,3-ブタジエンが光化学的に励起されると、軌道はC2-C3の中心を対称面にして対称になります。この場合、シクロブテンを形成するには、逆旋的に分子の両端にあるp軌道が互いに重なり合うことで許容されます。

要約すると、電子環状反応における軌道対称性は、反応が熱的条件下または光化学的条件下のいずれで許容されるかを決定する上で重要な役割を果たします。反応物と生成物のMOの対称性を考慮することにより、反応の許容される立体特異的経過を予測できます。


2. 電子環状反応におけるHückel-Möbius法

Hückel-Möbius法は、環状反応、特に電子環状反応の経過を予測するために使用できる簡便な方法です。この方法は、ペリ環状反応の遷移状態における軌道の環状配列を調べることによって、その反応が許容されるかどうかを迅速に評価します。

この方法は、芳香族性のヒュッケル則に基づいています。この規則では、単環式の平面共役系は、(4n + 2)π個の共役または非局在化電子を持つ場合、芳香族性であり、その結果、基底状態で安定であるとされています。同様に、単環式の平面共役系は、(4n)π個の共役または非局在化電子を持つ場合、反芳香族性となります。この系は、基底状態で不安定です。しかし、これらの規則は、原子軌道の配列にノードが存在することによって逆転することがあります。したがって、(4n + 2)π個の電子とノードを持つ系は反芳香族性であり、(4n)π個の電子とノードを持つ系は芳香族性となります。

言い換えれば、ノードを持たない系、すなわち「ヒュッケル系」と呼ばれる系では、(4n + 2)π個の電子は芳香族性で基底状態で安定であり、(4n)π個の電子は反芳香族性で基底状態で不安定です。ノードを持つ系、すなわち「メビウス系」と呼ばれる系では、(4n)π個の電子は芳香族性で基底状態で安定であり、(4n + 2)π個の電子は反芳香族性で基底状態で不安定です。 これらの規則を電子環状反応に適用すると、熱反応は芳香族性の遷移状態を経て進行するのに対し、光化学反応は反芳香族性の遷移状態を経て進行することが一般化されます。

例えば、1,3-ブタジエンからシクロブテンへの変換では、遷移状態には4個の電子と1つのノードが存在します。これは芳香族性のメビウス系であるため、熱的に許容されます。しかし、仮に4個の電子とノードがない場合、反芳香族性のヒュッケル系であり、光化学的に許容されることになります。

簡単に言うと、ヒュッケル・メビウス法は、(4n + 2)π個の電子を持つ系はノードがない場合にのみ芳香族性となり、(4n)π個の電子を持つ系はノードがある場合にのみ芳香族性となることを示唆しています。環状反応の遷移状態は、これらの規則に従って分類することができます。熱反応は芳香族性の遷移状態(すなわち、ノードのない(4n + 2)π個の電子またはノードのある(4n)π個の電子)を経て進行し、光化学反応は反芳香族性の遷移状態(すなわち、ノードのある(4n + 2)π個の電子またはノードのない(4n)π個の電子)を経て進行します。


3. [4+2] 環状付加と [2+2] 環状付加反応

[4+2] 環状付加反応: このタイプの反応(例:ディールス・アルダー反応)は、4π電子系(ジエン)と2π電子系(ジエノフィル)が関与します。基底状態では、ジエンのHOMOとジエノフィルのLUMOは、同位相の軌道ローブの重なりが結合性相互作用を起こし、新しいシグマ結合の形成につながる相互作用ができます。したがって、[4+2] 環状付加は熱的に許容されます。

一方、ジエンの励起状態を考えると、ジエノフィルの基底状態LUMOとの相互作用は対称性が許容されません。これは、軌道ローブの重なりが位相がずれており、反結合性相互作用が生じるためです。したがって、[4+2] 環状付加は光化学的には許容されません。

[2+2] 環状付加反応: この反応では、2つの2π電子系が関与します。基底状態では、2つのエチレン分子(またはその他の [2+2] 系)のHOMOとLUMOの相互作用は、軌道対称性のために禁制です。これは、軌道が結合のための正しい位相になっていないためです。したがって、熱的に誘起される [2+2] 環状付加は対称性が禁制の反応です。しかし、励起状態の1つのエチレン分子を考えると、その軌道は、もう1つのエチレン分子の基底状態LUMOと対称的に許容される相互作用ができます。したがって、[2+2] 環状付加は光化学的に許容されます。

要約すると、

[4+2] 環状付加: 基底状態の反応物は対称的に許容される相互作用をするため、熱的に許容されます。励起状態の反応物は対称性が禁制の相互作用をするため、光化学的には許容されません。

[2+2] 環状付加: 基底状態の反応物は対称性が禁制の相互作用をするため、熱的に許容されません。励起状態の反応物は対称的に許容される相互作用をするため、光化学的には許容されます。

一般に、環状付加反応では、軌道対称性の保存の原理に従う反応だけが許容されます。この原理は、反応が協奏的に進行する場合、すなわち、結合の切断と形成がすべて同時に起こる場合、反応に関与する軌道の対称性は、反応物から生成物、そして遷移状態へと維持されなければなりません。軌道相関図やウッドワード・ホフマン則などのツールを使用して、環状付加反応の許容性や立体化学的結果を予測することができます。


4. 1,3-双極子付加環化反応

1,3-双極子付加環化反応は、ディールス・アルダー反応(DA反応)と同様に、協奏的な[4π+2π]環化付加反応です。この反応は、4π電子を持つ1,3-双極子分子と、2π電子を持つ親双極子試薬との間で起こります。

 - 1,3-双極子付加環化反応とディールス・アルダー反応の類似点

    どちらも協奏的な[4π+2π]環化付加反応

    どちらも立体特異的なsyn付加反応

 - 1,3-双極子付加環化反応とDA反応の相違点

    DA反応は、ジエンと親ジエン試薬との間で起こるが、1,3-双極子付加環化反応は、1,3-双極子分子と親双極子試薬との間で起こる。

    1,3-双極子付加環化反応では、反応に関与する原子の種類や結合の種類が多様

 - 立体選択性と位置選択性

    立体選択性

    1,3-双極子付加環化反応は、DA反応と同様に、立体特異的なsyn付加反応

    反応が遷移状態を経て進行し、その遷移状態では、新たに形成される結合がすべて同じ側から形成される。

    位置選択性

    反応に関与する1,3-双極子分子と親双極子試薬の電子的および立体的な要因によって決まる。

 - 電子的要因

    電子求引性基は、親双極子試薬のLUMOを安定化させ、電子豊富部位での反応を促進する。

    電子供与性基は、親双極子試薬のHOMOを安定化させ、電子不足部位での反応を促進する。

 - 立体要因

   立体障害の大きい置換基は、反応速度を低下させる(遷移状態における立体反発が大きくなる)。


5. シグマトロピー転位における軌道対称性の役割

最後に、[1, 2] および [1, 3] シグマトロピー転位における熱的および光化学的許容性の背後にある理論を、フロンティア分子軌道(FMO)法を用いて説明します。このアプローチは、反応に関与する電子の数が許容されるかどうかを予測するために使用できます。先と同様に、一般に、反応に関与する電子の数が (4q + 2) の場合、その反応は熱的に許容され、反応に関与する電子の数が 4n の場合、その反応は光化学的に許容されます。

[1, 2] シグマトロピー転位: 熱的 [1, 2] シグマトロピー転位における超面移動は幾何学的には可能であるが、対称性によって許容されません。これは、基底状態 HOMO の対称性が、このモードでの結合性相互作用を妨げるためです。移動する基が分子を「一周」する必要があり、これは小さな環では不可能だからとも言えます。しかし、光化学的に励起された状態では、異なる対称性を持つため、超面 [1, 2] シフトが可能になります。

[1, 3] シグマトロピー転位: 熱的 [1, 3] シグマトロピー転位におけるスプラ面シフトは、対称性によっても許容され、幾何学的にも可能です。これは、基底状態 HOMO の対称性が、このモードでの結合性相互作用を可能にするためです。逆に、光化学的 [1, 3] シグマトロピー転位では、励起状態の軌道対称性により、スプラ面移動が対称性によって妨げられます。

反応の特徴として、[1, 2] シグマトロピー転位は、結合が移動する原子の両側で切断および形成されるため、反応に関与する電子は 4 個になります。これは、熱的に許容される [1, 3] シグマトロピー転位とは対照的であり、結合が切断および形成される原子の間に中間体が存在します。

一方、熱的に許容されるシグマトロピー転位反応は、スプラ面移動過程によって進行しますが、光化学的に許容されるシグマトロピー転位反応は、アンタラ面過程によって進行します。スプラ面過程は、反応中の軌道間の重なりが反応種の同じ面で起こる場合に発生します。アンタラ面過程は、反応中の軌道間の重なりが反応種の反対の面で起こる場合に発生します。

要約すると、シグマトロピー転位における HOMO と LUMO の役割は次のとおりです。

これらの軌道の対称性は、反応が熱的条件下と光化学的条件下のどちらで許容されるかを決定します。

熱反応では基底状態 HOMO が考慮されますが、光化学反応では励起状態が考慮されます。

これらの軌道相互作用の許容性により、スプラ面またはアンタラ面などの転位の特定の立体化学的経路が決定されます。


6. シグマトロピー転位における[m,n]の次数

シグマトロピー転位における[m,n]の次数は、移動に関与する原子または基の相対位置を示すために使用されます。 この番号付けシステムは、環状遷移状態に関与するπ電子の数によって分類される環化付加や電子環状反応の分類方法とは異なります。

シグマトロピー転位の次数を分類するために使用される方法は、原子または基の移動に関与する位置に数字を割り当てることによって決定されます。 最初の原子(移動する基)には数字「1」が割り当てられ、次に、結合している原子鎖に沿って順番に番号が付けられます。 移動基が最終的に結合する原子の番号は「j」で表されます。 この番号付けに基づいて、シグマトロピー転位は [1,j] 転位として分類されます。

たとえば、[2, 3] シグマトロピー転位では、移動する基は、元の位置から 3 つの原子離れた位置に移動します。アリル系を例として使用して、シグマトロピー転位の番号付けシステムをさらに説明します。 アリル系には 3 つの炭素原子と 3 つの p 軌道があるため、3 つの分子軌道があります。 これらの軌道は、エチレンの 1 つの分子軌道と 2 つの孤立した p 軌道の線形結合によって得られます。 線形結合は、常にエネルギー差が最小の 2 つの軌道間で行われます。 したがって、アリル系では、線形結合は 1 つのエチレン MO と 1 つの p 軌道の間で行われます。 これは、π±p および π*±p 相互作用の結果のみを考慮する必要があることを意味します。


7. 軌道の対称性の保存則

熱的[2+2] 環化付加反応が禁制となる理由は、軌道の対称性の保存則を用いて説明できます。この原則は、協奏的なペリ環状反応では、出発物質の分子軌道が、軌道の対称性を保持しながら、生成物の分子軌道に変換されなければならないと言えます。対称性が反応の過程で保持されれば、反応は起こり、その過程は対称性許容過程として知られています。対称性が反応の過程で保持されない場合、その反応は対称性禁制過程として知られています。

軌道の対称性を考慮すると、2 つのエチレン分子間の基底状態 HOMO と LUMO の間には結合性重なりがないことが分かります。これは、軌道が結合するためには、重なり合う軌道の位相が同じでなければならないためです。2 つのエチレン分子、またはその他の [2+2] 系の基底状態 HOMO と LUMO では、これが当てはまりません。軌道の位相が結合に適していないため、熱的に誘起された [2+2] 環化付加は対称性禁制反応と言われています。 熱反応は、(4q + 2)s 成分と (4r)a 成分の総数が奇数のときに許容されます。 [2+2] 環化付加では、(4q + 2)s 成分の数は 2、(4r)a 成分の数は 0 です。 合計は 2(偶数)なので、この反応は熱的には許容されません。

しかし、エチレンとシクロブタンの第 1 励起状態の間には相関関係があるため、光化学プロセスは対称性によって許容されます。 FMOアプローチは、HOMO の対称性と、反応が二分子反応の場合は 2 番目のパートナーの LUMO を調べることで、与えられたペリ環状反応が許容されるかどうかを迅速に予測する方法です。

一方、光化学的[4+2]環化付加反応が対称禁制となる理由は、反応物と生成物の基底状態軌道間の相関関係がないためです。 このタイプの反応の反応条件は、[2+2]環化付加反応とは異なります。 熱的に許容される[4+2]環化付加反応は、光化学的には禁制です。 これは、[4+2]系の光化学的環化付加が対称禁制反応であるためです。 対照的に、[2+2]環化付加反応は、光化学的に許容されます。環化付加反応における軌道の対称性を調べることで、これを理解することができます。結合が起こるためには、重なり合う軌道の位相が同じでなければなりません。 [4+2]環化付加では、基底状態の反応物の軌道が生成物の基底状態の軌道と相関しているため、熱的に許容されます。一方、光化学的な変換は、反応物の第1励起状態が生成物の第1励起状態と相関していないため不可能です。むしろ、生成物の上位励起状態と相関しています。

0 件のコメント:

コメントを投稿