論文のタイトル: Methyl Anion Affinities of the Canonical Organic Functional Groups(有機官能基の標準的なメチルアニオン親和性)
著者: Aaron Mood, Mohammadamin Tavakoli, Eugene Gutman, Dora Kadish, Pierre Baldi, David L. Van Vranken*
出版: The Journal of Organic Chemistry
巻: 85, 6, 4096–4102
出版年: 2020年
背景
1: 研究の背景
Mayrらの先駆的研究により、溶液中の求核性と親電子性を独立して定量化できるようになった
Mayr方程式: log k20° = sN sE (E + N)で反応速度定数を予測可能
Eは親電子性パラメータ、Nは求核性パラメータを表す
sN は求核剤特有の感度パラメータ、 sE は1に近しい
2: 未解決の問題点
現在のMayr Eパラメータは約33桁の範囲をカバー
非常に反応性の高い/低い基については未解明
例:t-ブチルカチオン、エステルカルボニル、アミドカルボニル、酸塩化物、イミン、アルキルハライド、炭素-炭素結合
3: 研究の目的
メチルアニオン親和性(MAA)とMayr Eパラメータの相関関係を調査
溶媒和モデルを用いたMAA計算(MAA*)の有効性を検証
幅広い有機官能基のMAA*を計算し、Mayr Eスケールでの位置づけを明らかにする
方法
1: 計算方法
PBE0(disp)/def2-TZVP法を使用
COSMO(∞)溶媒和モデルを適用
生成物の自由エネルギー(G298)からMAA*を算出
2: 対象とした電子求引性官能基
空のp軌道:ベンジルカチオン、アリルカチオン、トロピリウムイオン
空のπ*軌道:ケトン、イミニウムイオン、α,β-不飽和ケトン、アクリル酸エステル等
空のσ*軌道:塩素化剤、フッ素化剤、トリフルオロメチル硫黄化剤
3: データ解析
実験的に決定されたMayr Eパラメータとの相関を調査
75分子(28/32官能基)を選択し、MAA*とMayr Eの線形回帰分析を実施
ケトン類は別途解析
結果
1: MAA*とMayr Eの相関
MAA*はMayr Eパラメータと良好な線形相関を示した(R2 = 0.96)
中性および陽イオン性電子求引基の両方で相関が確認された
ケトン類は例外的に異なる相関を示した
2: 標準的な電子求引基のMAA*
エタンのC-C結合(σ*CC)のMAA*は-70に相当
アセチリドカチオンのMAA*は+87
シアニドカチオンのMAA*は+111
3: MAA*の範囲
計算されたMAA*は約180桁の範囲をカバー
これは現在のMayr Eパラメータの範囲(約33桁)を大きく上回る
非常に反応性の高い/低い官能基の相対的な位置づけが可能に
考察
1: MAA*の有用性
溶媒和モデルを用いたMAA*計算により、幅広い官能基の親電子性を評価可能
実験的に測定困難な高反応性/低反応性官能基の相対的位置づけが可能に
有機化学教育における標準的な官能基の反応性理解に役立つ
2: ケトン類の例外的挙動
ケトン類はMAA*とMayr Eの一般的な相関から外れる
可能性のある原因:
- 実験条件(t-BuOH, K+の存在)と計算条件の違い
- カルボニル基の活性化機構の複雑さ
3: MAA*の限界
SN2反応など、一部の反応タイプではMAA*とMayr Eの相関が成立しない
複雑な非線形構造-反応性相関が存在する可能性
深層学習アプローチによる予測精度向上の可能性
4: 研究の意義と今後の展望
気相や超酸条件下でのみ観測される高反応性種の相対的位置づけが可能に
地球外環境での有機反応性理解への貢献
より広範な実験的Mayr Eパラメータの測定による相関関係の検証が必要
結論
MAA*は標準的な有機官能基の親電子性を約180桁の範囲で評価可能
溶媒和モデルを用いたMAA*計算はMayr Eパラメータと良好な相関を示す
本研究は有機化学における反応性理解と教育に新たな視点を提供
将来の展望
今後、より広範な実験的検証と理論的発展が期待される
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