2024年8月27日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0109~

論文のタイトル: Mechanistic Studies on Iron-Catalyzed Dehydrogenation of Amines Involving Cyclopentadienone Iron Complexes: Evidence for Stepwise Hydride and Proton Transfer

著者: Srimanta Manna, Joannes Peters, Aitor Bermejo-López, Fahmi Himo, and Jan-E. Bäckvall

出版: ACS Catalysis

巻: 13, 8477-8484

出版年: 2023


背景

1: 研究の背景

鉄触媒による脱水素化反応は環境に優しい重要な変換反応

(シクロペンタジエノン)鉄カルボニル錯体が効率的な触媒として注目

これらの錯体の触媒メカニズムの詳細は不明確

アミンの脱水素化反応のメカニズム解明が重要


2: 研究の目的

鉄触媒によるアミン脱水素化反応のメカニズム解明

速度論的同位体効果(KIE)測定による反応経路の解析

中間体の単離と構造決定

密度汎関数理論(DFT)計算によるメカニズムの裏付け


3: 研究の具体的目標

鉄-アミン錯体中間体の単離と構造解析

KIE実験による律速段階の特定

DFT計算による反応エネルギー曲面の解析

段階的または協奏的メカニズムの解明


方法

1: 研究デザイン

速度論的同位体効果(KIE)測定

中間体の単離と構造解析

DFT計算によるメカニズム解析

対象アミン: 4-メトキシ-N-(4-メチルベンジル)アニリン


2: 中間体の単離

(シクロペンタジエノン)鉄トリカルボニル錯体とアミンの反応

トリメチルアミン N-オキシド(TMANO)存在下、80°Cで反応

NMRとX線結晶構造解析による構造決定

安定な鉄-アミン錯体の単離に成功


3: 速度論的同位体効果(KIE)測定

重水素化アミンの合成

分子間競争反応によるKIE測定

分子内KIE測定

C-H結合開裂とN-H結合開裂のKIEを比較


4: DFT計算

B3LYP-D3/def2-TZVP//B3LYP-D3/def2-SVP レベルで計算

溶媒効果はSMD連続溶媒モデルで考慮

反応中間体と遷移状態の構造最適化

反応エネルギー曲面の解析


結果

1: 鉄-アミン錯体の構造

X線結晶構造解析により鉄-アミン錯体の構造を決定

NMRスペクトルによる溶液中での構造確認

鉄-アミン錯体は加熱によりイミンと鉄ヒドリド錯体に変換


2: 速度論的同位体効果(KIE)

C-H結合開裂のKIE: kCHNH/kCDNH = 3.72 ± 0.13

C-HとN-H結合開裂の総KIE: kCHNH/kCDNH = 3.77 ± 0.15

N-H結合開裂のKIE: kCHNH/kCDNH = 1.22 ± 0.14

分子内KIE: 2.44 ± 0.14


3: DFT計算結果

反応エネルギー曲面の全体像を解明

ヒドリド移動の活性化障壁: 30.0 kcal/mol

イミニウムイオン中間体の生成を確認

プロトン移動は非常に速い過程


考察

1: 段階的脱水素化メカニズム

KIE実験結果は段階的メカニズムを強く示唆

C-H結合開裂が律速段階であることを確認

N-H結合開裂は速い過程であることが判明


2: DFT計算によるメカニズムの裏付け

計算結果は段階的メカニズムと一致

ヒドリド移動が律速段階であることを確認

イミニウムイオン中間体の存在を理論的に裏付け


3: 反応中間体の役割

鉄-アミン錯体が反応の休止状態であることを確認

アミンの解離とヒドリド配位中間体の形成が重要

イミニウムイオンと金属ヒドリドのイオン対形成


4: 先行研究との比較

von der Höhらの研究(2011年)

  - イミン水素化反応のメカニズム研究

  - シクロペンタジエノン鉄錯体を使用

  - 段階的なヒドリド移動とプロトン移動を提案

  - 本研究結果と一致:C-H結合開裂が律速段階


Caseyらのルテニウム触媒系(2005年)

  - Shvo型ルテニウム触媒によるイミン水素化

  - 配位圏外でのヒドリドとプロトン移動を提案

  - 本研究との類似点:段階的メカニズム

  - 相違点:金属-基質相互作用の違い


Bäckvallらの先行研究(2006年)

  - ルテニウム触媒によるイミン水素化

  - イミンの金属への配位を含むメカニズム

  - 本研究との違い:鉄触媒ではアミンの解離が重要


Poaterらの計算化学的研究(2013年、2022年)

  - Knölker型鉄触媒の反応メカニズム計算

  - イミン還元で協奏的メカニズムを提案

  - 本研究結果との相違:基質や条件の違いが影響か


5: 研究の限界と今後の展望

基質や配位子の特性がメカニズムに影響する可能性

より広範な基質での検討が必要

理論計算の精度向上による更なる知見の獲得


結論

鉄触媒によるアミン脱水素化は段階的メカニズムで進行

ヒドリド移動が律速段階、プロトン移動は速い過程

鉄-アミン錯体の構造と反応性を解明

本研究は鉄触媒設計への重要な指針を提供


将来の展望

今後、より効率的な触媒開発への応用が期待される

0 件のコメント:

コメントを投稿