著者: Srimanta Manna, Joannes Peters, Aitor Bermejo-López, Fahmi Himo, and Jan-E. Bäckvall
出版: ACS Catalysis
巻: 13, 8477-8484
背景
1: 研究の背景
鉄触媒による脱水素化反応は環境に優しい重要な変換反応
(シクロペンタジエノン)鉄カルボニル錯体が効率的な触媒として注目
これらの錯体の触媒メカニズムの詳細は不明確
アミンの脱水素化反応のメカニズム解明が重要
2: 研究の目的
鉄触媒によるアミン脱水素化反応のメカニズム解明
速度論的同位体効果(KIE)測定による反応経路の解析
中間体の単離と構造決定
密度汎関数理論(DFT)計算によるメカニズムの裏付け
3: 研究の具体的目標
鉄-アミン錯体中間体の単離と構造解析
KIE実験による律速段階の特定
DFT計算による反応エネルギー曲面の解析
段階的または協奏的メカニズムの解明
方法
1: 研究デザイン
速度論的同位体効果(KIE)測定
中間体の単離と構造解析
DFT計算によるメカニズム解析
対象アミン: 4-メトキシ-N-(4-メチルベンジル)アニリン
2: 中間体の単離
(シクロペンタジエノン)鉄トリカルボニル錯体とアミンの反応
トリメチルアミン N-オキシド(TMANO)存在下、80°Cで反応
NMRとX線結晶構造解析による構造決定
安定な鉄-アミン錯体の単離に成功
3: 速度論的同位体効果(KIE)測定
重水素化アミンの合成
分子間競争反応によるKIE測定
分子内KIE測定
C-H結合開裂とN-H結合開裂のKIEを比較
4: DFT計算
B3LYP-D3/def2-TZVP//B3LYP-D3/def2-SVP レベルで計算
溶媒効果はSMD連続溶媒モデルで考慮
反応中間体と遷移状態の構造最適化
反応エネルギー曲面の解析
結果
1: 鉄-アミン錯体の構造
X線結晶構造解析により鉄-アミン錯体の構造を決定
NMRスペクトルによる溶液中での構造確認
鉄-アミン錯体は加熱によりイミンと鉄ヒドリド錯体に変換
2: 速度論的同位体効果(KIE)
C-H結合開裂のKIE: kCHNH/kCDNH = 3.72 ± 0.13
C-HとN-H結合開裂の総KIE: kCHNH/kCDNH = 3.77 ± 0.15
N-H結合開裂のKIE: kCHNH/kCDNH = 1.22 ± 0.14
分子内KIE: 2.44 ± 0.14
3: DFT計算結果
反応エネルギー曲面の全体像を解明
ヒドリド移動の活性化障壁: 30.0 kcal/mol
イミニウムイオン中間体の生成を確認
プロトン移動は非常に速い過程
考察
1: 段階的脱水素化メカニズム
KIE実験結果は段階的メカニズムを強く示唆
C-H結合開裂が律速段階であることを確認
N-H結合開裂は速い過程であることが判明
2: DFT計算によるメカニズムの裏付け
計算結果は段階的メカニズムと一致
ヒドリド移動が律速段階であることを確認
イミニウムイオン中間体の存在を理論的に裏付け
3: 反応中間体の役割
鉄-アミン錯体が反応の休止状態であることを確認
アミンの解離とヒドリド配位中間体の形成が重要
イミニウムイオンと金属ヒドリドのイオン対形成
4: 先行研究との比較
von der Höhらの研究(2011年)
- イミン水素化反応のメカニズム研究
- シクロペンタジエノン鉄錯体を使用
- 段階的なヒドリド移動とプロトン移動を提案
- 本研究結果と一致:C-H結合開裂が律速段階
Caseyらのルテニウム触媒系(2005年)
- Shvo型ルテニウム触媒によるイミン水素化
- 配位圏外でのヒドリドとプロトン移動を提案
- 本研究との類似点:段階的メカニズム
- 相違点:金属-基質相互作用の違い
Bäckvallらの先行研究(2006年)
- ルテニウム触媒によるイミン水素化
- イミンの金属への配位を含むメカニズム
- 本研究との違い:鉄触媒ではアミンの解離が重要
Poaterらの計算化学的研究(2013年、2022年)
- Knölker型鉄触媒の反応メカニズム計算
- イミン還元で協奏的メカニズムを提案
- 本研究結果との相違:基質や条件の違いが影響か
5: 研究の限界と今後の展望
基質や配位子の特性がメカニズムに影響する可能性
より広範な基質での検討が必要
理論計算の精度向上による更なる知見の獲得
結論
鉄触媒によるアミン脱水素化は段階的メカニズムで進行
ヒドリド移動が律速段階、プロトン移動は速い過程
鉄-アミン錯体の構造と反応性を解明
本研究は鉄触媒設計への重要な指針を提供
将来の展望
今後、より効率的な触媒開発への応用が期待される
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