2024年8月13日火曜日

Catch Key Points of a Paper ~0096~

論文のタイトル: Isolation and characterization of a californium metallocene(カリフォルニウムメタロセンの単離と特性評価)

著者: Conrad A. P. Goodwin, Jing Su, Lauren M. Stevens, Frankie D. White, Nickolas H. Anderson, John D. Auxier II, Thomas E. Albrecht-Schönzart, Enrique R. Batista, Sasha F. Briscoe, Justin N. Cross, William J. Evans, Alyssa N. Gaiser, Andrew J. Gaunt, Michael R. James, Michael T. Janicke, Tener F. Jenkins, Zachary R. Jones, Stosh A. Kozimor, Brian L. Scott, Joseph. M. Sperling, Justin C. Wedal, Cory J. Windorff, Ping Yang & Joseph W. Ziller 

出版: Nature

巻: Vol 599, 18 November, 421-424

出版年: 2021年 


背景

1: 研究の背景

カリフォルニウム(Cf)は現在マイクログラム以上で入手可能な最も重い元素

Cf同位体は希少性と放射線障害のため、実験的に大きな課題

5f/6d価電子軌道の結合への関与、スピン軌道結合の役割など、化学的特性は未解明


2: 未解決の問題点

有機金属分子は周期表全体の周期性と結合傾向を解明する上で基礎的

Th-Puの有機金属化学の進展により化学的理解が変革

Cm-Cfの類似化学は1970年代以降停滞


3: 研究の目的

空気/水分に敏感なCf化学の復活

[Cf(C5Me4H)2Cl2K(OEt2)]nの合成と特性評価

2mgの249Cfを用いた初のCf-C結合の結晶学的特性評価


方法

1: 研究デザイン

'CfCl3(DME)n'の合成

KCptetとの反応によるカリフォルニウムメタロセンの合成

単結晶X線回折による構造解析


2: 実験手順

249Cf3+塩化物溶液を乾燥し、DMEで処理

Me3SiClを添加し、ヘキサンで洗浄

KCptetとEt2O中で90分間反応


3: 分析手法

単結晶X線回折による構造決定

UV-vis-NIRスペクトル測定

理論計算(DFT、SO-CASSCF/NEVPT2)による電子構造解析


結果

1: 構造的特徴

[Cf(C5Me4H)2Cl2K(OEt2)]n2-Cf)の単結晶構造を決定

Cf-C結合距離: 2.623(12)-2.718(13) Å

Cf-Cl結合距離: 2.653(4)-2.670(6) Å

Cptet中心···Cf···Cptet中心角: 130.99(3)°, 130.51(3)°


2: スペクトル特性

化合物2-Cfは濃いオレンジ色(一般的なCf3+錯体は薄緑色)

UV-vis-NIRスペクトルで18,000 cm-1以上に強いLMCT吸収

6,800-18,000 cm-1に5f→5f遷移による幅広い吸収帯


3: 理論計算結果

Cf 5f軌道とリガンド軌道のエネルギー差が2-Dyより小さい

化合物2-Cfでのリガンド→金属電荷移動が可視光領域で発生

Cf-C結合は主にイオン性だが、わずかな共有結合性も示す


考察

1: 主要な発見

初めてのCf-C結合の結晶学的特性評価

化合物2-Cfの濃いオレンジ色は従来のCf3+錯体と異なる

Cf 5f軌道とリガンド軌道の相互作用がDy 4f軌道より強い


2: 電子構造の特徴

Cf 5f軌道はDy 4f軌道よりもエネルギー的に低い

これにより2-Cfでは可視領域でLMCT遷移が発生

Cf-C結合は主にイオン性だが、わずかな共有結合性も存在


3: 先行研究との比較

従来のCf3+錯体は主に薄緑色

過去の[Cf(Cp)3]の報告ではルビー赤色

本研究の2-Cfは濃いオレンジ色で、新たな電子構造を示唆


4: 研究の限界点

249Cfの希少性と放射能による実験規模の制限

短時間での反応と結晶化が必要(放射線分解の影響を最小化)

化合物1-Cfの合成・単離には至らなかった


結論

カリフォルニウムメタロセンの初めての構造決定を達成

Cf-C結合は主にイオン性だが、わずかな共有結合性も示す

Cf 5f軌道とリガンド軌道の相互作用がDy 4f軌道より強い

この研究はアクチノイド化学の理解を深め、周期表の末端元素の性質解明に貢献


将来の展望

今後、より重いアクチノイドの有機金属化学研究への道を開く

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