著者: Matthew S. See, Pablo Ríos, and T. Don Tilley
出版: Organometallics
巻: 43, 10, 1180–1189
出版年: 2024年
背景
1: 研究背景
二核金属反応中心は協同効果により独特の化学的性質を持つ
多電子酸化還元過程や特異的な基質活性化が可能
酵素や不均一系触媒の活性部位で重要な役割を果たす
CO2還元などの重要反応を媒介する
2: 課題と目的
二核金属中心の合成制御は依然として困難
核数、金属間距離、配位幾何の精密制御が課題
1,8-ナフチリジン系配位子を用いた二核銅錯体の研究が進展
より低配位数の金属中心を持つ錯体の合成が求められる
3: 研究の具体的目標
化学的に安定なPNNPFlu配位子の設計・合成
新規二核銅μ-ボリル錯体の合成と特性評価
CO2およびCS2還元反応における触媒活性の検討
反応中間体の単離と構造解析による機構解明
方法
1: 配位子合成
フルオレン-9,9-ジイル基を含む新規PNNPFlu配位子を設計
2,7-ジクロロ-1,8-ナフチリジンと(9-(ジイソプロピルホスファニル)-フルオレン-9-イル)リチウムの反応で合成
NMRスペクトル解析により構造を確認
2: 錯体合成
PNNPFluと[Cu(NCMe)4][NTf2]の反応で二核銅錯体1を合成
錯体1からフェニル基、tert-ブトキシド基、ボリル基を持つ錯体2-5を合成
単結晶X線構造解析により構造を決定
3: 反応性評価
錯体4, 5のC(sp)-H結合活性化能を評価
CO2, CS2との反応性を検討
生成物の単離と構造解析
DFT計算により電子状態を解析
結果
1: 新規配位子の特性
PNNPFlu配位子は高い化学的安定性を示す
塩基性条件下でも分解しない
二核銅中心を効果的に安定化
2: 二核銅ボリル錯体の反応性
錯体4, 5はC(sp)-H結合活性化に高い活性を示す
フェニルアセチレンとの反応が既報の錯体より速い
CNXylとの反応で7を生成、低配位数銅中心の反応性を実証
3: CO2, CS2還元反応
錯体4はCO2を触媒的にCOに還元
CS2との反応で中間体様錯体10, 11を単離
Cu-S-C-B結合を含む新規構造を確認
考察
1: 配位子設計の意義
フルオレン-9,9-ジイル基導入により高い安定性を実現
側鎖の脱プロトン化や置換反応を抑制
二核金属中心の本質的な反応性の研究が可能に
2: 反応性向上のメカニズム
DFT計算により電子状態を解析
Cu-B結合の性質は既報錯体と大差なし
低配位数銅中心が高い反応性の主因と推定
3: CO2還元反応の意義
二核銅ボリル錯体による初のCO2触媒的還元を実現
単核銅錯体より反応は遅いが、触媒の安定性が向上
4: 反応中間体の単離
CS2との反応で10, 11を単離
CO2還元反応の推定中間体構造を実験的に支持
ボリル基移動を含む反応機構の妥当性を示唆
結論
安定なPNNPFlu配位子を用いて新規二核銅ボリル錯体を合成
高い反応性と安定性を両立する触媒設計を実現
CO2, CS2還元反応の機構解明に貢献
二核金属錯体の反応性制御に新たな指針を提供
将来の展望
今後、他の二核金属系への応用が期待される
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